ニャンニャン。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
Interval 〜02〜
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 俺は、ほっこり湯上がりの裸にバスローブを引っかけて、急いでヴィンセントの部屋に行く。

 パジャマを渡されてはいたが、汗が引いてから着ないと、背中がビショビショになってしまうのだ。それなら、一休みしてから……と言われそうだが、時間がもったいない。 

 なんせ、セフィロスたちが来てからというもの、ヴィンセントとふたりきりで過ごせる時間が極端に減ってしまった。さらに幸か不幸か、デリバリーサービスの仕事も増え、帰宅する時間も遅くなりつつある。

 そう考えれば、俺が留守の時、ヴィンセントの側に誰かが付いていてくれるのはありがたいが……とはいうものの、やはりふたりっきりの幸せには代え難いような……いやいや、ひとりきりで家に居るよりも……最近、すごく笑うようになってくれたし…… 

 といったように、様々な思いがぐるぐると頭を巡ってしまう。

 

 いずれにせよ、現在、ふたりきりの時間が、千金に値するほど貴重で重要なものだと理解してくれればいい。

 

 ヴィンセントの部屋は、南西の角部屋だ。廊下つづきの離れになっている三兄弟とは異なり、母屋ににある。簡単に言うと家の入り口が、真南で、中に入って広めの玄関がある。

 この前の改築のとき、ヤズー好みの幾何学でファッショナブルな雰囲気に造り替えたが、間取りは以前と変わっていない。玄関の先には、目立たない造作で、納戸や簡単な手洗い場が付いている。

 その先の廊下が二又に分かれていて、東側がセフィロス、西側がヴィンセントと俺の部屋だ。セフィロスの部屋は、サニタリールーム付きのゲストルームで、この家で一番広い個室だ。図々しくもひとりで占領してくれているわけだが。

 西側の角部屋がヴィンセント、そのとなりは俺。俺の部屋はともかく、ヴィンセントの部屋は、広さこそゲストルームには劣るものの、日当たりよく、窓辺からの風景は秀逸だ。もちろん、綺麗な庭も見える。

 この家を買ったとき、絶対に彼に使ってもらおうと思っていた部屋だ。

 彼はとても恐縮していたが、俺がどうしてもというと、少し困ったように、でもひどく嬉しそうに微み、「ありがとう……」と言ってくれた。

 そして、今も、すごく大切に使ってくれている。

 

  

 風呂から上がった俺が、バタバタとやや騒々しい音を立てて、廊下を小走りにしていると、ヴィンが後をくっついてきた。

「おい、なんだよ、おまえ。セフィと遊んでたんじゃないの?」

「みゃう!みゃう!」

「あ、ヴィンセントの部屋に行くの、気が付いたんだろ。現金なヤツ!」

 『ヴィン』は誰よりもヴィンセントのことが大好きだ。

 食事の仕度をしている間も、ずっとまとわりついているし、夜眠るときも、ヴィンセントの部屋へ連れていってくれとせがむ。

 やさしいヴィンセントは、眠りにつく前に、バスケットごと『ヴィン』を引き取ってやっているのだ。

 

「みゅんみゅん!」    

「仕方ないなァ。でも、今日は俺の方が、優先だからな!」

 俺とヴィンは、競争するように、ヴィンセントの部屋へ飛び込んだのであった。

 

「クラウド……早かったな。ああ、おまえも一緒に来たのか」

 小動物の強みというか何というか、身のこなしが人間よりも数段素早い。

 俺が抱きつく前に、ぴょんとばかりにヴィンセントの懐に飛び込む。

「ああッ……ちょっ……! おい、ヴィン! 今日は俺が優先っつっただろッ!」

「クラウド……ほら、まだ髪が濡れているぞ」

 ヴィンを膝の上に載せつつも、タオルで俺の髪を拭ってくれるヴィンセント。その手つきが本当にやさしいのだ。

 ……だからだろうか。ヴィンセントが側に居てくれると、俺もやさしくなれる。まるでやさしさのお裾分けをするような気分で、他人に対し、寛容になれるのだ。

 

「クラウド、飲み物を」

 俺がさっき頼んだとおりのものを持ってきてくれている。

 いちごミルク。

 いささか子どもっぽいかも知れないが、ハッキリ言って、これは美味いと思う。

 牛乳だとお腹がゴロゴロ言い出すのだが、なぜかいちごミルクは大丈夫なのだ。

 大好物を一気飲みすると、ようやく人心地ついたような気分になった。

  

「ねぇねぇ、久しぶりだよね、ふたりでゆっくりするの」

 俺は甘えたようにそう言う。

 なんて甘えやすいヴィンセント。

「ああ……そうだな」

 静かに頷いてくれる。

「ね、ヴィンセント、俺のこと忘れてない?」

「……そんなはずがないだろう」

「じゃ、俺のこと、ちゃんと好き?」

「ああ……」

「ヤズーやカダージュよりも?」

「……同じように比べるものではないだろう」

「ホント? セフィロスよりも?」

「……クラウド、子どもみたいだぞ」

 やれやれといった調子で、髪を撫でてくれる。

「だって、コイツまでヴィンセントのこと横取りしようとしているみたいで……」

 俺はヴィンセントの膝に、ちょこんと座っている『ヴィン』をにらみつけて恨みがましくつぶやいた。

 

「おまえが連れてきたのだろう?」

「ま、そーなんだけどさァ……こんなにヴィンセントに懐いちゃうなんてな」

「……私はこれまで愛玩動物など飼ったことがなかったから……とても嬉しい……」

 そういうと、ヴィンセントは、不思議そうに俺たちのやり取りを見つめている、紅い瞳の彼女を抱き上げた。そっと小さな額に口づける。

「みゅ〜ん」

 と甘えたように鳴くヴィンに、本当に愛おしそうに頬ずりする。

 初めて見るヴィンセントの仕草だ。

 胸の奥と、下半身がズクズクしてくる。

 

「ヴィンセント、猫、好きなんだね」

「え……あ、ああ、今まであまり考えたことはなかったが……とても愛らしい」

「いいなァ、俺も猫になりたい」

 ボヤく俺。セフィロスに聞かれたら、成長がないとバカにされそうなセリフだろう。

 

「……バカなことを言うな……クラウドはそのままでなければ困る……」

 いつものくせで、わずかに首をかしげて彼は笑った。

 淡い色合いのパジャマ姿は、いつも以上にヴィンセントを儚く見せる。

 

 いくら、細身だ華奢だとは言っても、上背は俺よりもあるし、第一、大人の男性に対して無礼というものだろう。元タークスに属し、不思議な力をその身の内に宿した彼は、かつての仲間たちの中でもズバ抜けた戦闘力を誇る人物だ。

 ……とは言ってもね。

「……でもね、やっぱり可愛いもんは可愛いんだよ……」

 ついつい口に出してつぶやく俺であった。