ニャンニャン。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
Interval 〜02〜
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ヴィンセント。昼間、『ヴィン』、おとなしくしてる?」

 そう訊ねてみる。

 

 やはり拾ってきたのは俺だし、家事の邪魔になっていないかと少しだけ心配だったのだ。

「ふふ、そうだな。まだ子どもだから、眠ったり起きたりの繰り返しだな。気が付かないうちに足元にいるから、何回か転んでしまった」

「……転んでって……アンタ」

「い、いや、ほら、子猫だから、急に飛び出してくるんだ。万一尻尾でも踏みつけてしまったら大変だから……」

「いや、アンタが転ぶ方が大変だろうが!」

 あわててそう言い募る俺に、

「声が大きい……」

 とたしなめる、ヴィンセント。

 

「セフィロスは一度も転ばないんだ」

 ヴィンセントが言った。真面目な声音だ。

「やはり彼には注意力が備わっているのだな。私などとは大違いだ」

「……は? いや……ふつうは……」

 『普通の人は転ばないだろ』と正直に告げそうになって、口を噤む。

 ああ、だが、こんなおっとりとしたところも、可愛くて可愛くて大好きだ。

 

「セフィロスはあまり『ヴィン』にかまわないのだが、その子は彼を気に入ってるみたいだな。昼寝しているセフィロスの腹の上で、一緒に眠っていたりする」

 そのときの様子を思い出したのか、ヴィンセントは楽しそうに笑った。

「ま、とりあえず、アンタに迷惑かけてないならいいけど……でも、気を付けてよ、ヴィンセント」

「ん?」

「転んで頭なんか打ったら……」

「クラウドは心配性だな。家の中だから大丈夫だ。……この前はセフィロスにひどく笑われてしまったが……」

 そうつぶやいて、色の薄い頬を紅く染めた。

 

 ああ、あの意地悪男はここぞとばかりに、笑いモノにするだろう。もちろんヴィンセントが、俺のように言い返したり怒ったりできないのをよく知っているから。

「あ、ああ、だからクラウド、何の心配もない。今は……昼間、私の他にもセフィロスが居てくれるし、ヤズーも居ることのほうが多いから……」

「……それもまた、別方向に心配なんだけどね」

 そうつぶやき、ヴィンセントの細い肩を抱き寄せる。

 その拍子にバランスを崩したヴィンが、ぴょんとヴィンセントの膝から飛び降りた。

 

「みんなと、仲良くするのもいいけど……俺ともちゃんと仲良くしてよね」

 そう言ってやりながら、倒れ込んできた細い身体を抱き止める。

「……あ」

「ね、ヴィンセント」

 額の生え際に口づける。そのまま頬を滑り、無防備に薄く開かれたままの唇に口づけた。

「……ん……」

 少し苦しげに眉を寄せるが、抗いはしない。

 それをよいことに、背に腕を回し、そのままベッドに押しつけた。もちろん、乱暴な所作にならないように気をつけて。

 

 何度も抱きしめた身体だが、本当に細い。食事の量にもかかわるのだろうが、たまにひどく不安になってしまう。

 『何が?』と訊ねられると、答えにくいのだが……やや少女めいた言い方をさせてもらえば、何時か、目の前から、フッ……と消えて居なくなりそうな……そんなような非現実的な不安である。

 

 やわらかな口腔の感触を味わった後、唇を耳に寄せる。

 ヴィンセントは、こんなところの作りも繊細で、耳朶が薄く小さめだ。

 軽く歯を立てると、華奢な姿体がビクンと反応した。

 

「あ……クラウド……」

 覆い被さった俺の胸に腕を突っ張る。嫌だというより、困惑しているような動作だ。

「……なに? 嫌?」

「……ま、まだ……そんなに遅い時間じゃないから……セフィロスやヤズーが……」

 目線を合わせず、そうつぶやくヴィンセント。

 時刻は夜の十時過ぎ。

 確かに大人にとっては遅い時間じゃないだろう。カダージュやロッズはともかく、宵っ張りのセフィロスやヤズーは、まだ居間にいたはずだ。

「いいだろ、別に……部屋……違うんだから」

「で、でも……」

「ヴィンセント、気にしすぎ」

「……だ、だが……この部屋は、それほど居間から……離れていない……から」

 途切れ途切れに彼はつぶやいた。

 俺の大切な人は、極度の恥ずかしがり屋だ。皆が寝静まった後ならともかく、人の気配があるうちは心許ないのだろう。

「……落ち着かない? 聞こえちゃいそうで」

「…………」

 彼は俺を見ずに頷いた。

 

 こういう自虐的な在りようが、一部の人間の劣情をそそるのだろうが、本人に自覚はない。そして、その『一部の人間』に俺が入っているのは言うまでもないことだ。

「……じゃ、声、ガマンして、ヴィンセント」

「……え……あッ……?」

 異議を唱えられる前に、俺は行為を再開した。

 床の上から、『ヴィン』が不思議そうに見上げているが、フフフ、キミにはわからないだろう。

 

 なんとなく勝ち誇った気持ちになりつつ、夜着の前合わせを解いてゆく。寝間着だというのに、きっちりと第一ボタンまで填めているのが、いかにも彼らしい。

 

 鎖骨の浮き出た薄い胸が露わになってゆく。彼は自分の体つきが嫌いらしく、ひどくコンプレックスを持っているようだ。

 確かに男性にしては、細すぎるだろうが、傷ひとつなく、それこそ透き通るように肌の薄い肉体は、美しいとさえ言える。 

 俺は喉元から首筋……そして胸、脇腹のほうまで……余すところなく口づけた。

                                                 

 ヴィンセントの息が早くなってゆく。

 皮膚の薄い身体は、ほんの少し吸い上げただけで、簡単に痕が着いてしまう。 

「ク、クラウド……灯り……」

 苦しげな呼吸の中、彼がささやいた。

 部屋の電気自体は消してあっても、キャビネットのルームランプが点っている。

 オレンジ色のそれは、幻想的な雰囲気を醸し出すものの、それなりに明るく、室内の視界は十分だ。

「いいじゃん……このままで」

「ク、クラウド……」

「だって消したら、アンタの顔、見えなくなっちゃうよ……」

 朱色の染まった耳元に、注ぎ込むようにそう答えた。

 

 

 

 

 胸元の飾りを舌先で転がし、脇腹を撫で、そのまま下肢に指を這わせる。

 夜着の上からそっと触れただけで、過剰な反応が返ってくる。

「……んッ……あ……」

 鼻にかかった喘ぎを聞くだけで、ひどく興奮してしまうおのれを叱咤した。

「……あッ……クラウド……」

「パジャマ、邪魔だよね? 脱がせてあげるから、大人しくして」

 殊更、具体的な行動を言葉にしてやる。

 ヴィンセントは、俺の肩に手を置いたまま、目を瞑っていた。決して目を合わせようとはしない。

 

 汚れてしまった下衣を引き剥がし、俺も手早くローブを脱ぐ。

 このためにローブ一枚で彼の部屋にやってきたのだ……などということはない。念のため。

 

 ……上から、体重を掛けないように注意し、直に素肌が触れ合わせた……

 やはり直接触れ合う面積が、広いほうがいいに決まっている。

 

 口に出して言おうものなら、2、3日避けられてしまいそうだが、ヴィンセントの身体はかなり敏感な方だと思う。

 これまであまり経験がなく、むしろ俺とこうなることで開花したなら、全く冥利に尽きるといったところだが。

 

 以前付けた痕が、胸元にも、脇腹にも、腰の辺りにも……もっと奥深い部分にも、うっすらと残っている。セフィロスは『痕をつけるなんてガキのやることだ』と言っていたが、なんとでも好きに言えばいい。

 こうして、肌を重ねる都度、以前着けた記しを見つけだすことができれば、彼は自分のものなのだと……そう確認することができる。

 それは、腹の下のあたりが、ムズがゆくなるような、胸のずっと奥が熱くなるような、そんな興奮をもたらしてくれるのだった。