Radiant Garden
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「カダージュ、馬鹿なことを言ってるんじゃないよ。さっきも話しただろう? よしんばホロウバスティオンに行けたとしても、いつ戻ってこられるかすらわからないんだからな」

「ん〜、でも、ヤズーはホントにちっとも興味がないの? 僕たちの知らない世界がまだあるかもしれないんだよ?」

 末のガキのほうが、イロケムシを説得するように声を上げた。

「だって……僕たち、最初は何にもなかったじゃん。目が覚めたら三人きりで……暗い水の流れる森の中に居たよ?」

「それは……俺たちは思念体として生まれたわけだから。最初は三人だったけど、ミッドガルへ行けばいろいろな人間がいただろう?」

「人間……そうだね。人は居たけど、世界は同じだったよ。最初生まれた三人きりで、他には誰もいなかった。世界はいつも灰色で、どこに行っても同じ景色だったよ」

「カダージュ……」

 困惑したイロケムシの声音。ヤツのこんな声を聞くのは久しぶりだ。

 

「……ちょっと……何とか言ってよ、セフィロス」

 オレに助け船を求めてくるが、こちらが口を開く前に、カダージュのほうが言葉を続けた。

「でも、兄さんに逢って…… ヴィンセントたちの居るコスタ・デル・ソルへ来てから、いろんな色が増えたの!新しい世界がどんどん開けていって、毎日毎日、わくわくすることがたくさんあるんだ!」

「……ミッドガルや水の都だって、それこそコスタ・デル・ソルだって、この星の一部だ。ホロウバスティオンは異世界なんだぞ? この星ではなく、あちらの『セフィロス』が言っていたように、時空が異なるんだ」

 ヤズーの物言いはどこまでも慎重だ。だが、末のガキも負けてはいない。一層声を励まして、イロケムシの言葉に覆い被せるように口を開く。

「時空が異なるところなら、絵本の中の世界は? シンデレラちゃんや、白雪ちゃんに会えたのだって、別の世界でしょう? 僕、すごく楽しかった!大変なこともたくさんあったけど、『思い出』の中でいっぱいお話してる。もしかしたら、また逢えるかも知れない。夢の中に出てきてくれたことだってあるんだよ? 僕、いろんな人と会いたい。いろんなことを知りたい!」

 

 

 

 

 

 

 『カダージュ』

 末のガキであるコイツは、三人の中でも、もっとも純粋にオレの資質を受け継いでいる。

 人間であった『オレ』の複雑な部分をすべて削ぎ落とし、本能のみを映し出したのがこいつだ。

 単純で残虐、そして好奇心に満ちあふれ、何かを手に入れようと欲する気持ちが強い。

 カダージュの脳の中身はギガバイト級だが、情緒的な面は、すべてイロケムシのほうへ行っちまったらしい。

 

「そうだな……カダージュ。おまえはとても若くて伸びやかな少年だ。未知の世界への探求心があるのは当然のことなのかも知れない」

 意外にもおだやかにヴィンセントがつぶやいた。

「だって、『外』に出てみなかったら、ヴィンセントにも逢えなかったんだもの! 僕、まだ逢えていない人に出会いたい……! 知らない世界で生きている人たちに会いに行きたい! ヤズーだって、そうでしょう? 三人だけで居ないで、兄さんのおうちに行ったからヴィンセントやジェネシス、コスタ・デル・ソルのみんなに逢えたんだよ?」

 両の瞳をキラキラさせながら、チビガキが宣った。まさに『宣った』という感じだ。

 選手宣誓をしているかのごとく、純粋で混じりけのない思いが言わせた言葉なのだろう。

 

 ここ、コスタ・デル・ソルに居着くようになってから、チビガキの交友関係は一気に広がったらしい。クラウドの代わりに荷物の配達に出かけたり、海で泳ぎ回ったりが好きなせいか、地元の連中と思いの外、懇意なのだ。唯一十代の強みというべきか、女や年寄りどもも、カダージュ相手には警戒することなく、いわゆる女友達というのも多いようであった。

 

「それはそうだが……カダ、俺を困らせないでくれ」

 わずかな間隙の後、イロケムシが低くささやいた。

 ヴィンセントが心配そうにそちらを見る。ヤズーの野郎は、末のガキ相手だと、物言いがやや固くなるのだ。男っぽくなるというべきか。

「……もし、おまえがどこかへ行ってしまって、帰ってきてくれなかったら……? いや、時空のひずみなどというものは、どこにとばされるのかすらもわからない。そんな危険なこと……俺が平気で居られると思っているのか……?」

「ヤ、ヤズー……」

 深刻な面持ちで詰め寄られ、さすがに末のガキもそれ以上は言い淀んだ。

 

「頼むから……危険なことはするな。おまえにもしものことがあったら、俺は普通ではいられなくなる。気が変になってしまう。だから……頼む……!」

 そう言いながら、イロケムシは、カダージュを抱きしめた。皆がそろっているのに、何の衒いもなく小柄な身体を強く引き寄せる。

「ヤ、ヤズー……どうしたの? 変だよ、そんなに真剣に……」

「この話はまた今度だ。今は無茶なことはしないと約束してくれ」

 抱きしめる腕に力を込めて、ヤズーがつぶやいた。しぶしぶといった雰囲気ではあったが、カダージュがひとつ頷く。

「わかったけど…… でも、ヤズーがそこまで言うからだよ?」

「ああ……わかってる」

「ヤズーってば、そんな顔しないで。僕、ちゃんと側にいるんだから」

「ああ……ありがとうな、カダ」

 イロケムシはそういうと、ようやく末のガキを手放し、妙に早く部屋に引き取っていった。まだ、九時前だというのに……