Radiant Garden
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「セフィロス…… お茶は?」

 と訊ねてきたが、『ビール』と返す。

 ヴィンセントは、ため息を押し殺し、おとなしく注文のものを差し出した。

 わざわざグラスに注いでだ。

「……ヤズーは一見、誰よりも世慣れていて、要領の良い人だ。私だとて、何度助けてもらったかわからない……」

 静かな声音で、ヴィンセントが切り出した。オレがソファを占領しているので、その横のスツールに腰を落ち着ける。もっとも座るスペースは十分にあると思うのだが、側によってはこないのだ。

「だからつい……彼には無理が利く、彼ならば大丈夫だと考えてしまう。だが、考えても見てくれたまえ。ヤズーはまだこの世界を知ってから、一年にも満たないのだ」

「んなこたァ、知ってる」

「それまでは三人だけの世界で、それこそ三人でひとつのような魂だったのだろう。だが、我々と共にあるようになって、もっとも幼くか弱い生命体であったはずの末の子が、著しい成長を遂げた。おそらくそれまでは、ヤズーなしでは生きていくことすらできないほど、不安定な子だったのだろう」

「……潜在能力は一番高いみたいだがな。カダージュの魂は、生まれたばかりの赤ん坊と変わらない。イロケムシの野郎は、三人の中ではさしずめ参謀……といったところか。赤ん坊の面倒をみられるのはアイツだけだったんだろ」

「……そう、その時点で、すでにヤズーの情操面は、ある程度のレベルに達している。いや……もともと、君から受け継いだ資質の中でも、もっともその部分に長けているのかもしれない」

「たぶんな」

 短く返事をする。

 まったく、ヴィンセントという男も面白いヤツだ。

 おのれのことには、まるで頓着がないくせに、周囲の者どもへの洞察は、それこそジェネシスだのといい勝負である。

 

 

 

 

 

 

「幼い部分の多かったカダージュとロッズは、コスタ・デル・ソルにやってきて、多くの人と交わるようになってから、著しい成長を遂げている。特に末子のカダージュには、私でさえ驚かされることが多いのだ。初めて出逢ったときとはまるで別人のようだ……」

「ヘェ」

 適当な相づちも気にせず、ヴィンセントは言葉を続けた。

「だが、ヤズーはどうだろうか? 彼自身の『成長』は、三人だけで生きていた時点で、ほとんど強引に、終えられている状態なのではなかろうか」

「…………」

「彼は最初から、私にもクラウドにも、君にも、十分すぎるほど配慮して立ち居振る舞うことが出来ていた。ロッズのように怯えたり、カダージュのようにいきなり君に向かっていくようなことはなかったろう?」

「……そうだな」

 素直にオレは頷いた。事実、ロッズはオレに対して恐れを抱いていたし、カダージュのガキは、敵意剥き出しで飛びかかってきた。

 

「この家以外の人たちとも、容易に交わることができていたし……それは必ずしも彼の望んでいることではなかったとしてもだ。ヤズーはこの家に来る前の時点で、すでにもう十分『おとな』だったんだ」

 ヴィンセントの深い紅の双眸が、痛ましげに細められる。

 まるで、たった今のイロケムシの焦燥と動揺が、おのれの咎であるかのように。

 

「この一年で、彼の最愛の人でもあるカダージュが、どんどん新たな世界を手に入れた。自分とヤズーのことだけでなく、様々な者に愛情を抱ける子になっていった。……人の輪のなかで中心になれるような少年になったのだ…… 君はヤズーの気持ちを慮ったことがあるか? 彼だけは自分と同等と……考えてはいなかったか?」

 ヴィンセントの物言いは、オレを責めるようでもなく、むしろ自身に責問するかのようであった。