Radiant Garden
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 ジェネシス
 

 

 

 

「おい、ジェネシス!聞いてんのか?」

「え……あ、ああ、すまない」

 不機嫌丸出しの顔で怒鳴られ、俺は慌てて気を取り戻した。

「ったく、テメェは……この程度の暑さにやられるようなタマじゃねェだろ! それでどうなんだよ。おまえは何か感じるか?」

「……ああ、ごめん。話の途中から聞いていなかった」

 素直に謝ると、意外にもセフィロスは、それ以上は怒鳴りもしなかった。

 

「だから……! 空間のよじれとかいう…… あっちの『セフィロス』がそれが見えるんだとよ」

「あ、ああ……そうらしいね」

「何だよ、聞こえてんじゃねーか。それでおまえはどうだって話!」

「どうだとは? いわゆるそのねじれを見つけろということか?」

 話の流れが読めなくて適当に問い返す。

「見つけたくても何も感じないんだろ。さっき、自分でそう言ったじゃねーか、ボケ!」

 相変わらず口の悪い男だ。もっとも神羅時代からの付合いなのだから、そんなことは承知の上だ。

「……? 向こうの『セフィロス』の言っていたゆがみのことなら、なんとなくわかるよ。目に見えるってものではないけど……」

「…………」

「……セフィロス?」

 急に黙りこくったデカイ男の名を呼ぶ。

 

「ジェネシス……おまえ、見えてんのか……!?」

「だから、はっきり見えるわけじゃなくて、あれは感じ取るものだろう? 普通に見えたりしたら、今頃、コスタ・デル・ソルの地方紙の一面くらいは飾っているだろうよ」

 俺はそう答えた。

 空気の対流の変化というか……やはり感覚的なものだと思う。

「……それじゃ、今まで感じたことは……」

「あるよ。たった今、歩いてきた海岸線にあっただろう? セフィロスは気付かなかった?」

 他意もなく訊ね返すと、彼はひどく不満そうな面持ちになり、語気を荒げた。

 

 

 

 

 

 

「てめェ、テキトーなこと抜かしてんじゃねーだろうな! どうしてそいつを見つけたとき、すぐオレに言わなかった!?」

「何故って言われても……別にいう必要がないからだよ。おまえがそんなことに興味を持っているとは思わなかったし……」

「バカ野郎! 貴様だって、その『ゆがみ』が、異世界へ続いていることは知ってるだろう! それなのに何で……」

「異世界に、もうひとりの女神は居るのかい? だったら、逢ってみたい気はするけどね。でも、その『よじれ』がどこに繋がるのかわからないって言っていたのは、おまえ自身だろう? 必ずしも、ええと……『ホロウバスティオン』だったっけ? そこに行けるとは限らないみたいだし」

「どこに繋がっていようが未知の世界なんだぞ! 貴様、男だろう!? しかも元・神羅のソルジャークラス1stの野郎が……!」

 セフィロスが地団駄踏む勢いで迫ってくる。なるほど、彼はいわゆる『未知の世界』に強い関心があるようだ。だが、どうやらセフィロス自身は、『よじれ』を感じ取れないらしい。それがくやしくてはっきりと興味を口にしなかったのだ。

 ……まったく、どこまで意地っ張りなんだか。

 しょっちゅう、チョコボっ子のことを、『ガキの頃から成長しない』だの『少しは大人になれ』だのと怒鳴りつけているくせに、自分だってしっかり『ガキ』ではないか。

 

「いや……まぁ、落ち着けよ、セフィロス。確かに、知らない世界は、実に興味深いと思うよ。だがな、俺にとっては、ヴィンセントと再会したこの土地での生活だって、まだまだ未知なんだよ? 神羅にいた頃もその後も、今のような心持ちで居られたことはなかった。ここでの生活が幸せなんだよ、俺は」

「オメーの幸せなんざどうでもいい」

 ばっさりと斬って捨ててくれてから、彼は再び口を開くのだった。

「言っておくが勘違いすんなよ。オレは空間のよじれが『あんまり』感じ取れなくはあるが、ひとりで行くのが不安なわけじゃねェ。むしろ足手まといになる輩を連れて行こうとは思わん。ただ、『目』のあるヤツが一緒なら色々便利だろうし、まぁ、オレ様の足元にも及ばないが、貴様ならば、一応ソルジャークラス1st程度の実力があるのは知っているからな」

 べらべらと一挙にまくしたてる。これはただの照れ隠しだ。本当に進歩のないヤツ……

 

「一緒に行って欲しいってこと?」

 単刀直入にまとめてやると、

「いつ誰がそんなことを言った!」

 グワッと銀色オオカミが咆哮した。

「だって、今……」

「オレ様はただおまえも行きたいだろうから、一緒に連れて行ってやると申し出ているだけだ! ありがたく思え!」

 はァ……ヤレヤレだ。

 だが、一度言い出したら聞かないのもセフィロスだ。

 確かにオレだって、異世界への入り口とやらに、まったく興味がないわけではない。ただそれよりも、コスタ・デル・ソルに居さえすれば、女神と会える時間が長くなるので、そちらのほうが嬉しかったのだ。

 

「ま……いいか。おまえは昔から言い出したら聞かないからなァ。あの家の人たちを連れて行くなんて言い出したら、それこそ女神の精神状態が悪くなりそうだし」

「女神女神って……おまえなぁ、いい加減、キモチワルイんだよ!」

 セフィロスの無礼な物言いはともかくとして、あらためて条件の確認をする。

「ただし、リスクはあるんだからな。女神に黙って行こうとなぞするなよ。俺の仕事は締め切りがあるから、それを終えてからだぞ」

「……いいだろう。それじゃ、さっさと引き返すぞ。オレが見張っていてやるから、シゴトとやらを早く片付けろ」

 ……セフィロスは、どこまでいってもセフィロスらしい。

 夜更けに街灯の前に立っていた、もうひとりの『セフィロス』とは完全に別人なんだと、あらためて理解させられる俺であった。