Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<64>
 
 セフィロス
 

 

「不思議なものだな……」

 巨大な剣を、手を触れずに纏い、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。いきなり斬りかかってくる様子はない。

 だが、一見落ち着いた立ち姿が、目に見えない狂気を纏っているように感じられる。

「……『死の大天使』のノーバディは、ヴィクセンが何度も試みたにかかわらず、いっこうにはかばかしくなかったものを、何故今になって……」

 どうやら、あのキチガイ科学者の名は、『ヴィクセン』というらしいことがわかった。どうでもいい情報だ。

「ノーバディは『心』が無ければ生まれない。恐怖……憎悪……それとも、愛情か?あなたの中に生まれた感情は何なのだ。『死の大天使』どの」

 そういうと、サイクスはガラスケースの表面をそっと撫でた。

 奴の口元に浮かんだ酷薄な笑みは、このオレでさえ背筋がひやりとするものであった。

「『死の大天使』と同じ顔をもつ貴公は、いったい何者か……?」

 ゼムナスの参謀ともいわれる実力者は、何の感情も読み取れぬ面持ちで、オレを見つめる。

「寸分違わぬ人間がこの世界に存在するというのか……?」

「少なくともテメェらの知る世界のモンじゃねーぜ」

 オレはそう応えた。

「ほぅ、この世界の者ではないと……?」

「だからなんだっつー話じゃねーがな」

 乱暴にそう言った。

「……ならば、なにゆえ、この城に来た。この世界の人間でなくば、『死の大天使』も、ホロウバスティオンも、キングダムハーツすらも、貴公には無縁のはず」

 抑揚のない口調で訊ねてくる。

「オレはオレのしたいようにやっているだけだ」

「……キーブレードの勇者も連れず、敵の本拠地に乗り込んでくる無謀をか……?」

「無謀かどうかは試してみりゃいいだろ。ここまで昇ってくる間、テメーらの仲間を何人か相手にしてきたが、オレ様の敵になる奴ァいなかったぜ」

 フンと鼻で笑ってやる。

「フ……『死の大天使』どのに似通っているのは、その美しい顔だけ、か……」

 そういうと、奴の背後から巨大な剣が、風を切って飛び込んできた。オレはそれを刀で躱す。

「おい、おまえらはとにかくそのケースを壊せ!こいつの相手はオレがする」

 そういうと、俺たち四人はそれぞれの足場を求めて四散した。

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉーッ!」

 サイクスが、狼の遠吠えのように、大きく吠えた。

 双眸が黄金に輝き、奴の周囲からノーバディのバーサーカーが生み出される。

 『静かな狂気』

 そんな言葉が頭に浮かんだ。これまでのサイクスは静謐そのものであった。ノーバディは感情をもたぬというのだから、アクセルやデミックス、それからなんといったか女のノーバディやマールーシャにもいわゆる人の『感情』はないのだろう。

 だが、連中からは少なくとも『感情』に似たものは感じ取れたのだ。それからあのヴィクセンとかいう科学者についても、『セフィロス』への執着のようなものを感じる。それが科学者としての探究欲であったとしても、『欲』が見える。

 だが、この男、サイクスは……

 サイクスにはそれがなかった。ガラスケースの中の『死の大天使』に対してでさえ、グラス一杯の水程度ほどの関心しか読み取れない。

 だが、今は飢えた狼のように咆哮し、なにかに突き動かされるように向かってくる。

 

「チッ……!」

 舌打ちして、オレは身を躱した。

 巨大な剣……クレイモアが、天井からザクザクと落ちてきて、さきほどまで立っていた場所を埋め尽くして行く。

 ……間合いが読めない!

 13機関との戦闘は、連中の剣技が、一般的な剣士のそれとはかけ離れているのが特徴だ。

 炎を操る輩、雷光、水……さまざまな自然物を、おのれの能力に取り込んでいる者も多い。

 この男……サイクスのそれが何なのかはわからないが、アクセルやデミックスらに感じた『気』とは異なる、圧倒的な破壊衝動のようなものが伝わってくる。

 そう、まさしく人食い狼が、標的を噛み殺し、そのどう猛な牙で引き裂くこと自体を、至上の悦びとするように。