〜 Restoration<修復> 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤズーが困惑したような面もちで、こちらを見ている。

 それはそうだろう。さきほどから私は脈絡のない話の仕方をしているのだから。

 彼はひとつ小さく吐息すると、冷めかけたカモミールを口に運んだ。

「……ヴィンセント、前からさ……ずっと思っていたんだけどね。訊いてもいいかな?」

 そんなふうに切り出すヤズー。さきほどとは異なった……静かな口調で。

「え……? な、なんだろうか……?」

「あのさ、こんなことを口にするのは……兄さんにはすまないと思うんだけど……」

 彼は言いにくそうに前置きをする。

「……ヴィンセント、あなたが本当に愛しているのは……セフィロスなんじゃないの?」

「え……?」

「あ、ううん、『愛している』というよりも、『恋している』のほうが今の話の場合わかりやすいかな?」

「な、なぜ……? どうして……?」

「いや、訊いてるのは俺の方だよ。ヴィンセントとセフィロスの因縁については、昔のことは正直よく知らない。でも、それをさっ引いても、ヴィンセントの行動や言動は、ハッキリ言って『ただの同居人』に対するものじゃないと思う」

「……そ、それは……『ただの同居人』でないのは確かだ。だが、それはセフィロスに対してだけではない。おまえたちだって、私にとっては『ただの同居人』ではないのだ。ひとりひとり、私にとってはかけがえのない大切な人間たちだ」

 わざわざ確認するようなことではないと思う。セフィロスは私にとって、かつて心から愛した人の忘れ形見なのだ。そういう意味合いだけでも「ただの」ではない。もちろん、ヤズーたちだって、とても大切だ。たまたま一緒に暮らしているだけなどと言って欲しくはない。

 息咳き込んでそんなふうに言い募ると、ヤズーは女性顔負けの美貌をやわらかく崩し、

「ありがとう」

 と言ってくれた。でも、その困惑した微笑みは、私の答えが彼の欲しい回答ではなかったというのを暗に指し示していた。

「ああ、ごめん、笑ったりして。ヴィンセントらしいな、と思ってさ」

「ヤズー……」

「でもね、俺が言っているのはそういう意味じゃないんだよ。うーん、難しいことを訊いているわけでもないと思うんだけど…… ハハハ、俺、あなたみたいな人初めてだからさ。たいていの人間は五分も話せば『本物の本音』が見えちゃうんだけど、あなたについてはよくわからないや」

「…………」

「……というか、ヴィンセント自身が、自分の本心を理解しきれていないということなのかな」

「……あの……どういうことなのだろうか……?」

 私は重ねて彼に問うた。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント、あなた支配人さんに嫉妬してない?」

「……え……」

「ううん。もっとハッキリ言うね。セフィロスの恋人である支配人さんをうらやましいと思う気持ちはない? 夜、セフィロスと支配人さんがそーゆーコトするの、想像したりしない?」

 ヤズーの言葉は、本当に『ハッキリ』であった。

 いつも、私に対しては、とりわけ、オブラートで包んだようなやわらかな物言いをする彼とは異なる直接話法であった。

「……そ、それは……」

 カァァァァと腹の底から、熱いものがこみ上げ、それは背筋を伝って、頬に登ってきた。

「……ない、と言ったら、ウソになる」

 小声でようやく認めた私に、ヤズーは冷たい煎茶を淹れてくれた。きっと、自分で感じている以上に頬が赤くなっているのだろう。

「それじゃ、支配人さんからセフィロス取り返して、自分が彼の恋人になりたいとは思わない? 一緒に夜を過ごしたい……とかそういう欲求は?」

「……そ、そこまで……明確には……」

 私はしどろもどろに答えた。

 ヤズーはずっと以前からこの問いかけをしたかったと言っていた。ということは、この問いには、『意義』があるのだろう。彼は気ままに見えるが、無意味な質問をする人ではないのだ。

「明確にはわからない? 自分の気持ちでしょう? ……ぶっちゃけ、ここが一番重要なところなんだけどな。セフィロスに触れられたいって思わない? 恋人になりたいとは思わないの?」

「…………」

「じゃ、クラウド兄さんはどう?今現在のあなたの最愛の人……恋人だよね」

「あ、ああ」

「彼とは寝たいと思うけど、セフィロスにはそういう感覚はない?」

「あ……」

「ああ、ごめん。すごくロコツな物の言い方しちゃって。それになんだか詰問してるみたいだよね。いいんだよ、答えなくても。ただ、俺が勝手に、ずっとあなたに感じていた違和感を取り去りたかっただけなんだから」

 ヤズーは慰めるように、あわてて言葉を付け足してくれた。だが、私は彼の慰撫の文句など耳に入ってはいなかった。

 クラウドのこと、セフィロスのこと……頭の中でごちゃごちゃになって、それでもずっと考え続けていたから……

「……クラウドとセフィロス……正直に言って、存在の重要さにそれほど大きな差違があるわけではないと思う……」

 私はしゃべりながら、絡み合った思考を解きほぐし、整理しようと考えた。

「それに……その……そういった行為についても……あまり……抵抗がない」

「うーん。そういった行為ってHのことだよね」

「エ、エッ…… 今の若者はそういう言い方をするのか…… 肉体交渉はどちらとでも……多分……」

「……ヴィンセントにとって、それはあまり重要な意味を持ってないってことなのかな? フツー、恋人同士って、手繋いだり、ハグしたり、キスしたり、その延長上の最後にあるじゃん、セックスって」

「ハ、ハグ? ……ああ、まぁ……それは……そうかもしれないが」

 ヤズーの言っていることは間違っていない。そのとおりなのだが、どうも話が上手く噛み合っていないような気がする。

「ええと……あの……セフィロスはそういう間柄ではないから、今ひとつわからないだが、クラウドとはそういった行為に対しての感覚のズレを感じることがある」

「へぇ、具体的には?」

「あの……クラウドは……すごくそういったことをしたがるのだが……ああ、まぁ、若さ故、というのは理解できる。だが、とても快楽思考が強いな、と思うことがある」

 いや、決してそれが悪いということではない。

 むしろ、最愛の人間と楽しみを分かち合えるのは、とても素晴らしいことだと……

 だが、私が欲しいのはそれよりももっと…… 行為の快楽よりももっともっと『欲しい気持ち』がある……

 だが、他者にそれを説明することのなんと難しいことか。

 私は、一生懸命、貧弱なボギャブラリーを駆使しつつ考察しながら話を続けた。