〜 Restoration<修復> 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー……」

 思考するときのくせで、ヤズーは形の良い顎に指を添え、考察していた。

「もうちょっと……かみ砕いた言い方で話してくれる」

「す、すまない。語彙が少なくて……なかなかよい説明の言葉が……」

「ううん。いいから、続けて、ヴィンセント」

「あ、ああ。そ、その、とても気恥ずかしいのだが……クラウドの場合は、行為自体を楽しんでいるというか、『気持ちがいいことをしたい』という、非常に直情的な欲求をぶつけられることがある」

「あー、まぁ、そりゃねェ……」

 少し呆れ顔になったヤズーに、私は慌ててとりなした。

「あ、いや、誤解されては困るのだが、もちろん、それだけではない。とても私のことを想ってくれているのはちゃんと伝わってくるし…… 大切にしてくれているのだとも理解できる」

「じゃあさ、ヴィンセントって、Hすんの、全然楽しくないの? 気持ちイイでしょ? 兄さんがよっぽど下手クソならともかく」

「ヤ、ヤズー! まったくおまえは……そ、そんな明け透けな物言いを……」

「アハハハ、ごめ〜ん。でも、いいじゃーん。男同士なんだし、お子さま組もいないんだからさ」

 軽快に笑う彼。もしかしたら、ガチガチに返答していた私の気をやわらげてくれたのかもしれない。

「ねぇ、話戻すけど、フツーに感じるんでしょ?キモチイイでしょ?」

「……そ、それはもちろん、快楽はある。……クラウドの自尊心を守るためにもきちんと回答するが」

「でしょー?」

「だが、私が欲しいのはもっと…… その……行為によってもたらされる快楽というよりも……いや、それも含まれるのかもしれないけど……」

 上手く言えない……もどかしい。

 行為によってもたらされる快感よりも大切なもの……私が一番欲しいものは……

 言葉を考えて考えて……捜して捜して……

 ああ!と言葉を見つけだした。そう、そうなのだ。

 こういえば、ヤズーも納得してくれるかもしれない。いや……自身が一番理解することができる。なぜ、私が支配人の彼に嫉妬を禁じ得ないのか……

「ヤズー……そう、そうなんだ……ああ、そう……こんな簡単なことなのに……」

「は? ちょっ……ちょっとヴィンセント、自己終結しないでよ」

 それはそうだろう。彼にしてみれば、ずっと質問を続けて要領を得なかったのに、いきなり私が勝手にひとり頷きだしたら。

「あ、ああ、すまない…… ずっと説明の仕方に苦慮していて……どうしてもよい言葉が見あたらなかったのだが…… ようやく、自分でも納得のいく回答が見つかったから……」

「ええと……その……やはり……私も好きなんだと思う」

「は? 何が? セフィロス? H?」

「こ、後者のほうだ。その話をしていたのだから…… ただ、たぶん、他の人間たちとは、多少行為に求める内容に隔たりがあるのだと……そう思う」

「ええ? なにそれ? プレイの内容!?」

「ヤ、ヤズー! そ、そうではないッ 違う! そうじゃなくて…… あの、多分、クラウドなどは、私を欲してくれる気持ち、そして純粋に快楽への欲求……主にそういったもろもろの気持ちが入り交じって行為に及ぶのだと思う」

「うんうん」

「だから、クラウドのような人種は、相手はその時点での最愛の人……というケースがほとんどだろう。だが、私は少し彼とは異なるようだ……」

 慎重に言葉を選び、脱線せぬよう注意深く話を続ける。非常にデリケートな問題だから、ニュアンスを汲み取ってもらうのが難しいだろうし。

「私は……たぶん、誰かに求められたいのだと思う。最も本能的に、激しく求められるのは、結局あの行為が一番わかりやすい。少なくともそのときは、目の前を相手を何よりも欲して触れるのであろうし」

「……あ〜、まぁ、そりゃそうだよね。兄さんなんかは真っ最中に『愛してる』とか『大好き』とかささやきそうなタイプだよね〜」

 ヤズーの想像はしっかり現実であって、私はまたもや顔から火が出る思いをした。

「……たぶん、セフィロスに同じコトをされても私は抗わないと思う。求められるのは本当に嬉しい。仮にその時だけであっても、『必要なのだ』と抱きしめてくれる腕は本当に愛おしく感じる」

「…………」

「だから、今……嫉妬を感じるのは……支配人の彼が、セフィロスにそうやって『求められて』いるからなのだろうと思う。その結果、この家から出ていってしまったとしたら…… それは……仕方がないのかも知れないけど……でも、私は……」

「……ん〜、なんかわかるような気はするけど……」
 
 彼は私の顔をそっと見ると、少し困惑したようにつぶやいた。
 
「だけどさ、極端な話、それって兄さんに対してもセフィロスに対しても世間一般にいうところの『恋愛感情』じゃないよね? あなたも自覚しているように」

「……そうなのだろうか……? そうか…… いや、我ながら勝手なことを言っていると思う。ただ『求められている』ことを自覚したいだなどという理由で」

「あ、別に、ヴィンセントを責める気はないよ。人それぞれだと思うし。ただ、いわゆる一般的にいうところの恋愛とは違うのかなってそう感じただけだから」

 ヤズーの言葉に私は初めての真剣な恋……ルクレツィアのことを思い出していた。

 あのときの彼女に対する感情はどうだっただろうか?

 今のクラウドが私に見せてくれる、激しい欲求は存在しただろうか。彼女を自分のものにしたいと……自分だけのものに……

「ずっと昔のことは……よく覚えていない。私はいろいろと欠けたところのある人間だから……いや、人でさえ、なくなってしまっているのだから」

「ヴィンセント……」

「でも、少なくとも今の自分のことはよくわかっている。私はクラウドにもセフィロスにも『求められたい』んだ。しかも誰よりも先んじて私を欲してほしい。心も、そして身体も。 ……なんて自己中心的で勝手な人間なのだろうか」

 思わず私は自嘲していた。

「………………」

「恋だ愛だなどという美しい言葉では飾れないのだ。たぶん……そう、きっと……究極のところ、私は誰かに『所有』して欲しいのだと思う……」

 自分で自分の吐き出した言葉はひどくショッキングな文句であった。

 『他人に所有されたい』?

 いや……だが突き詰めればそういうことなのだ。

 今まで敢えて己の性癖を直視することはしなかった。特にクラウドという同性の恋人を持つようになってからは。

 だが、それはまさしく私の願望であり……究極の望みであるのだと……そう感じる。

 いや、『判る』。

 

 私はこうして生きていても、「私はこうなりたい」「こう生きたい」「これをしたい」という根本的な願望がないのだ。

 いつでも私の心を占めているのは、この愛すべき小さな家で、皆で一緒に暮らしたいということ……もっと、細かに言うなら、クラウドが少しでも早く帰ってきてくれて、私の側に居てくれること。セフィロスが、食事の後に散歩に誘ってくれること。

 彼らが『私を欲すること』によって生ずる、様々な事柄に、私は強い執着があり、そこには喜びが生まれる。逆説的に言えば、クラウドやセフィロスの存在を抜きにして、私の喜びはあり得ないということ。

 セフィロスが我が家に来る前は、その関心の対象はクラウドだけであった。

 だが、今は間違いなく、セフィロスもその範疇に入っている。
 
 だからこそ、今、私へのわずかばかりの関心さえも失ったセフィロスに、筆舌に尽くしがたい悲しみと落胆を感じるし、その恋人に醜い嫉妬を禁じ得ないのだろう。