Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「ヤズー……クラウド……ちょっと……」

 ヴィンセントが、チビどもから離れて、そっと声を掛けてきた。

「これは……『白雪姫』の童話だな? 主人公の外見が私に似通っているというのは意外だが……」

「うん、さっきヤズーとそう言ってたの」

 俺は頷き返した。

 俺的には、この世界の白雪さんに会ってみたい。なんといってもヴィンセントのそっくりさんなのだ。どんだけ綺麗な女性なんだろう。

「でもさ…… この展開って、合っているようで間違ってるよね」

 とヤズーが口を挟む。

「確かに白雪姫は毒リンゴで眠ってしまうけど、さらわれるって場面はなかったと思うよ」

「……ああ、私の記憶でもそうだ」

「そうなの? 俺は何となく覚えてるだけだからなぁ。どんなストーリーだっけ?」

 そう訊ねた俺に、ヴィンセントがかいつまんで話をしてくれた。

 『この世で一番美しいのはだぁれ?』

 というフレーズは、誰でも一度くらい聞いた(読んだ?)経験はあるだろう。

 白雪姫の継母である、現王妃は彼女の美貌をねたみ、密かに暗殺しようとしたらしい。

 けなげな彼女を救ったのは、森に住む七人のクラウド……じゃない、こびとであった。

 こびとたちとの平穏な生活は永くは続かなかった。王妃は彼女を毒入りリンゴで葬り去ろうとするのだが……

 

 

 

 

 

 

「ああ、うん、うん思い出した。確か、眠った白雪姫を王子様が起こすんだよね?」

「そう。それでハッピーエンド。安易かなとは思うけど、童話ってそんなもんだからね」

 とヤズーが言った。

「そうなのだ。白雪姫は毒のリンゴで眠ってしまう。だが、あの子たちが言うには、城へ連れ去られたということだ……」

 『あの子たち』って……ヴィンセントはすぐに『可愛い子供』扱いする。ただのこびとなのに。

「城って、あの塔が見えたところかしらね」

「……おそらく」

 とヴィンセントが頷く。市街地の方向だし、遠目で見えるあれだけ高い塔だ。たぶん、城の一部なのだろう。

「ああ、クソッ! じゃあ、そこまで行って、その女を取り戻せば終了か? もとの世界に帰れるのか!?」

 話に割り込んできたのはセフィロスだった。

「ちょっと……いらいらしても仕方がないでしょ。いずれにせよ、お姫サマは取り戻さなきゃならないけど、目下のところ、最大の問題があるよね」

 ヤズーがヴィンセントに相づちを求めるように話掛けた。

 すいませんね。どうせ、俺はまともにストーリーも覚えていませんよ。

「ああ…… この流れならば、まもなく登場するはずだな……」

「ねぇ、なんの話? 俺たちがそのお姫さまとやらを取り戻せば、めでたしめでたしじゃないの?」

 話が見えない俺は、少し苛立った口調でふたりに訊ねた。

 ヴィンセントとヤズーは顔を見合わせ、互いに軽くため息をついた。

「クラウド…… 白雪姫のハイライトシーンは知っているか?」

「? 最後のめでたしめでたしじゃないの?」

「それは幸福なエンディングだ。ストーリーとしての山場は、王子の口づけで白雪姫が目覚めるシーンだ」

「あー、そっか。確かに盛り上がるよね」

 俺は素直に頷いた。深く考えずに。

「王子様の登場シーンは、この次の場面なんだよ。毒リンゴで仮死状態にあった白雪姫を、七人のこびとがガラスの棺に入れて埋葬しようとするんだ。そこに王子が通りかかるわけ」

「ふーん」

「わかる? 兄さん。王子は仮死状態の白雪姫と、運命の出逢いをしなければならないんだよ。それが唯一の恋愛フラグなわけ」

 ヤズーは、巷ではやりの恋愛シミュレーションゲームのような物言いをした。

「……だが、物語の筋書きに反して、白雪ちゃんが攫われちゃってるからね……」

 うーむと頭を抱えるヤズー。

「ど、どうしよう…… まさか、こんな状況に出くわすことになるとは……」

「じゃ、じゃあ、今からソッコーで白雪姫ちゃんを取り戻しにいけば? お城にいるってわかってんだから」

 俺はそう言った。

 こびとどもが静かになったなと思ったら、セフィロスがものすごいガンを飛ばしている。

「……クラウド…… 一口で城と言ったって、ものすごい広さだ。この世界に不慣れな我々が彼女を見つけ出すのは、非常に難しいだろう」

「そうだよねェ。事情を話して取り返すってのもまず無理だしね。黒幕が王妃なワケだから……」

「その……王子とやらに、事情を話して、待ってもらうというのはどうだ? 誠意を尽くして説明すれば……」

 基本的に人のよいヴィンセントが、善人全開の提案をする。

「……いや……それは……ちょっと……」

 ヤズーが苦笑混じりに返答しようとしたところ、人の悪いセフィロスがわりこんできた。この男は悪人の代表格のような粗暴な輩だ。

「アホか、おまえは。王子とやらは、その女に逢ったこともないんだろ。しかも見ず知らずのオレたちから、そんな話を聞かされて、素直に信じられるかっつーの」

「まぁ、セフィなら信じないよね、まず」

「なんだと!?」

「ク、クラウド…… いや……やはり無理か…… いささか都合の良い話だとは思っていたが……」

「都合良すぎだろ。常識的に考えろ」

 そんなふうに言われて、ヴィンセントはしゅんと意気消沈してしまった。