Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「うーん、どうにも困ったねェ。王子との出逢いフラグを外すのはヤバそうだよね。接点がなくなっちゃうもの」

「そんなこと言ったって、当の白雪がいねーんなら仕方ないじゃん」

 俺はそう言い返した。

「……なんとか王子との接点を作っておいて、その後、すぐに白雪ちゃんを救い出すしかないね。そしてすぐに入れ替わらせる」

「入れ替わり? 何の話だよ」

 なんだか嫌な予感がして、俺はヤズーに問い返した。

「決まっているでしょ。……一時、ヴィンセントに白雪ちゃんを演ってもらうんだよ。あのこびとさんたちが間違えたくらいだもの。そっくりなんだと思うよ」

「え……えぇぇ!?」

「えぇぇぇぇ!!」

 俺とヴィンセントの叫び声が重なった。さっきからあたりをうろつき回っていたカダージュとロッズも話に加わってくる。

「い、いや……ヤズー……そ、それはちょっと…… 私には……」

「だって他にどうしようもないでしょ? 今からお城に彼女を取り返しにいくのは間に合わないんだし」

「ブーブー! 却下! 冗談じゃねぇぞ! 白雪姫は王子のキスで目覚めるんだろ? ヴィンセントにそんな真似……」

「あ〜、いや…… 『白雪姫』の童話も、グリム童話の初版本と、一般に流布しているモノとでは一部異なっていて……そもそも子供向けのものだから、いろいろと改編されているんだよ。原作では王子のキスで目覚めるワケじゃないから」

 と、ヤズーが言った。なんとか俺を宥めたいらしかった。

 そりゃ、無事に帰還したいのは俺だって同じだ。だが、ヴィンセントをそんな目に遭わせるなんて、恋人としては絶対に許せない! 例えいっときでもヴィンセントを他の野郎のところへ行かせられるか!!

「は? 俺が読んだのは、王子のキスで毒の効果が消えてめでたしめでたしだったはずだぞ」

 と言ってやった。

「原作では、通りかかった王子が、例え亡骸でもいいからと言って、彼女の身柄を自分の城へ引き取るんだ」

「変態じゃねーの?」

「ちょっと、兄さん。……ま、それでね。家来に棺を運ばせるんだけど、家来のひとりが木につまづいて棺を落としてしまう。その拍子に、白雪姫は喉に詰まっていたリンゴのかけらを吐き出し、息を吹き返す……って感じ」

「そ、そうなの?」

「うん。おまけにちょっとゾッとするようなエピローグが着くんだよね。王子と白雪の結婚披露宴で、悪い王妃は真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされたって」

「こ、怖ェェェ!」

「そうなんだよ、マザーグースって、大元はけっこうえげつない話だったりするよね」

 焼けた鉄の靴を履かされ…… 怖ェェェ! その白雪、めちゃくちゃブラックじゃねーか!

 

 

 

 

 

 

「ま、さすがにカダの持っている本は童話だから、そんな空恐ろしいエピソードはくっついていないさ。ただ、王子は白雪姫を自分の城に連れて行くってのは、間違いなかったと思うんだよ。キスした後だか、連れてった後でキスしたのか、その辺はわかんないけど」

「オイオイオイオイ! よけいにダメだ! 変態王子の生け贄なんぞにヴィンセントを捧げられるか!」

 俺はなりふりかまわず喚き散らした。ちびクラ……じゃねェ、七人のこびとどもも泣きやんでこっちを見ている。

「なんでこの世界の王子が変態ってわかんだよ。フツーの兄ちゃんかもしれねーだろ。この前みたいに」

 俺の取り乱しように、さもあきれたという様子でセフィロスが言った。

 『この前』というのは、シンデレラちゃんの事件を指しているのだと思う。あの世界での運命の相手……お城の王子様は、レオンそっくりの実直で心優しい青年だったのだ。

「で、でも、か、仮にレオンみたくいい人だったとしても…… ヴィンセントを預けるような真似は絶対ダメだよ! イヤだ!」

「ク……クラウド……」

「……そりゃ、他に本物を取り返すまでの時間があればいいけど…… 物語の流れでは、白雪姫が毒リンゴで倒れた翌日、ガラスの棺に収められるんだよ。そこに王子が通りかかるわけだから、時間軸で考えれば、たぶん今日の午後あたり……」

「きょ……『今日』!?」

 俺とヴィンセント、そしてカダージュたちの声が揃った。

 ボロいブリキの時計は、ちょうど正午を指している。もうほとんど時間なんて無い。

「お、おい……いくらなんでも、この世界に来た当日にそんな……」

 俺はオロオロと落ち着かなく周囲の顔を見渡した。

 セフィロスの憮然とした表情。

 ヤズーは眉をひそめつつも、苦笑をこらえているような面持ち。

 カダージュとロッズはよくわかっていないのか、ぽけらんと口を開いている。

「前回はいろいろと思考する時間があったのに……」

 ヴィンセントが低くつぶやいた。

 彼のいう前回とは、言わずと知れたシンデレラの世界のことである。あのときは、まさしくオープニングに間に合うような感じで、ストーリーに入り込んだのだ。

 

「ねぇ、君たち。隣の国の王子様ってどんな人? 知ってる?」

 ヤズーが腰をかがめて、こびとたちに訊ねた。

「うん、知ってる」

「かっこいい人」

「やさしそうな人」

「背が高い人」

 彼らは口々にそう言った。

「……人間性は全然わかんねーじゃんか」

 不平そうに俺は口出しした。

「やさしそうって言ったじゃない。……背が高くて、格好良くて、やさしそう……か。やっぱり、レオンタイプなのかもね」

 ヤズーはそう言ってヴィンセントを見る。

「あ、ああ……そうかもしれないな。だ、だが、私に女性の役は……」

「この前、兄さんもシンデレラちゃんのかわりをしたでしょう?」

「そ、それは、クラウドは器量がいいし、とても愛らしいから…… 私などがそんな真似をしても気色が悪いだけだと……」

「そんなことはないよ」

「そうだよ、ヴィンセント、綺麗だもん」

 つい同意してしまう俺。

「で、では……そのレオン……のような王子に逢って、事情を説明すればよいのだろうか? それとも、最後まで女性のふりを……?」

「一番いいのは、この前の兄さんみたいに、上手く入れ替わるって方法だね。でも、ちょっと今回は難しいかなァ……」

 そりゃそうだ。当の白雪姫とは、まだ一度足りとも逢ってないし、彼女は王妃の居城に幽閉されている。その居場所を見つけ出し、救い出すのは予想以上に時間がかかるかもしれない。

 この前の俺とシンデレラちゃんの入れ替わりは、俺と王子様の接点が、ほんの数刻……ともに話をしてダンスを踊ったという、たったそれだけの時間だったから、なんとかごまかしきれた。

 が、今回はそうはいかない。下手をしたら、王子の元で、ヴィンセントは数日過ごさなければならない。その間、完全に女性としてふるまい、何の疑いも持たれないようにするのは非常に難しいだろう。