Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「うわぁ〜ん! 白雪が〜」

「あぁぁぁん! 白雪がぁ〜!」

「死んじゃった〜」

「毒のリンゴを呑み込んで〜」

「白雪が死んじゃった〜」

 七人のこびと大合唱である。

 中央に置かれたガラスの棺の中には、ドレスを纏い、花に囲まれた、美しい姫が眠っている。

 すべてシナリオ通りだ。

 後は王子が通りかかるのを待つばかりである。

 

「……ねぇ、ちょっと今さらなんだけどさ……」

「なにさ、兄さん。あんまり大声出すと王子様が来たときに気付かれちゃうよ」

 俺たちは木陰に身を潜め、伝説の王子到来を今か今かと待っている風情だ。

「いや、アレ…… なんかやっぱさ……ちょっとリスクがデカすぎない?この作戦……」

「今さら何言ってんだ。当のヴィンセントは覚悟決めてんだろ?」

 この期に及んでブツブツと文句を垂れた俺に、さも呆れた様子でセフィロスが言い返した。

 だが、女性の姿をしたヴィンセントが、あんまりキレイで……

 もともと人離れした容姿の持ち主だから、少しでも血色良く見えるようにと、頬に赤みを差し、唇に色を乗せた。すると無彩色の絵画に花が開いたように蠱惑的な印象になったのだ。

 ああいう人だから、子供っぽい形のドレスが似合わなくて、もっともシンプルなものを着せただけだったのだが、この人が横たわっていれば、まずフツーの男なら、持って帰ろうという気持ちになるに違いない。

「外野のおまえは黙って見守ってろ。王子との接点を作れなきゃ、オレたちだって帰れなくなるんだぞ」

「わかってるよ……俺だって帰りたいのは同じだ。……でも、ヴィンセントはああいう人だから…… みんなに期待されたら嫌とはいえないだろうし……」

「いざとなったら、何とか切り抜けるだろうよ。いくら間抜けでも元タークスだ」

「アンタ、タークスを過信しすぎてんじゃねーの? 基本的にヴィンセントは戦いが好きじゃないし、他人を欺したりするには人が良すぎるんだよ」

「まぁまぁ、兄さん。別に王子様とバトルするわけじゃないんだし、欺すとはいっても、結果的にはめでたしめでたしを目指すワケだから」

「そ、そりゃそうだけどさ〜。言っておくけど、レオンタイプは重いぞ。俺、この前のとき実感したもん。シンデレラちゃんのためだし、元の世界に戻るためだと思って頑張ったけど、なんか最後つらかった」

 俺は、あのときのちりちりと胸を焼く罪悪感を思い出し、深いため息を吐いた。

「ああ、うん…… あのときは、兄さん可哀想だったもんね」

「……可哀想なのはレオン王子だよ。ま、結果的に上手くいったら、それはそれでよかったんだけどね」

「でも、この世界の王子様がどんな人かはまだわからないじゃない。決まっていることは白雪姫の美貌に魅入られるってだけで」

「ケッ、容姿に引かれるなんざ浅い男だぜ」

 と、セフィロスは、一言のもとに吐き捨てた。

 ……なんだよ、この人。

 ガキの頃、付き合っていたわけだが、俺のどこがよかったの?という問いかけに、はっきり『容姿』と答えたくせに。

 気の向かないまま、逡巡したときである。

 

 森の向こう側から、カッカッカッという、軽やかな蹄の音が響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 ボスッ! ボサァッ!

 

 俺たちは、三人揃って、茂みの中に勢いよく頭を突っ込む。

 いよいよだ…… カダとロッズには、城の周辺を探ってくるよう頼んでおいてよかった。

 この緊張感には……耐えられないだろう。

 

 七人のこびとは勢いよく声を張り上げて泣き叫ぶ。

 そう……ヴィンセント……もとい白雪姫の眠る、ガラスの棺を取り巻いて。

 

「……そこの者たち…… なにを悲壮に泣く」

 王子は馬上から、穏やかな声で訊ねた。

 なるほど、こびとたちがいうように、長身でやさしそうな人物だ。

「うわぁ〜ん! 白雪が〜」

「あぁぁぁん! 白雪がぁ〜!」

「死んじゃった〜」

「毒のリンゴを呑み込んで〜」

「白雪が死んじゃった〜」

 七人のこびとはふたたび大合唱した。

 ……自分のミニチュアみたいなチビどもが泣いている姿を見るのは、あまり気分のいいものではない。

「白雪……? このガラスの棺に眠っているのか……?」

 王子が、こびとたちを迂回して、ガラスの棺のほうへ……つまり、より俺たちが隠れた茂みに近い方を通り過ぎていった。もちろん、王子はひとりではない。お約束のように付き人の騎士が数名傅いている。

「毒のリンゴで眠る……哀れな娘……か」

 王子が、俺たちの目の前を通り過ぎた。

 

「…………ッ!!」

「なッ……!?」

「……………!」

 思わず声を上げそうになったのは俺だ。

 セフィとヤズーは踏みとどまった。

 だって……そりゃ、声も出るだろう!?

 そんな……そんな……馬鹿な……!!

 ぐるりと迂回してガラスの棺を覗き込む王子に向かって、俺は本気で体当たりで吹っ飛ばそうかと考えた。

 ……可能か不可能かはともかくとして。

 

 こ、この王子…… この王子……

 ジェネシスじゃんか〜〜〜〜〜〜ッ!!

 

(ジェ……ジェ……ジェネシスじゃんか!! もう、ダメだ! ミッション失敗! 続行不可能ッ! ヴィンセントが犯られるッ!!)

(シーッシーッ! 落ち着いて兄さん!)

(これが落ち着いていられるかよ! 冗談じゃねーぞ! ジェネシス王子が相手じゃ、ヴィンセントが無事でいられるわけないだろ! 城に連れ去られて幽閉されるに違いないッ!)

(いや、ちょっと、ホントに……! 確かにジェネシスに似ているけど、彼本人じゃないんだから!)

(シンデレラのレオン王子は、本人そっくりだった! ツラだけじゃなく、性格も! きっと、あの変態ジェネシス王子も……)

 

「……この人が白雪……? ああ、なんて美しい…… ようやく出逢えた、私の女神……」

 

 聞き慣れた、例のフレーズが飛び出したとき、俺の理性の糸はブッツリと切れた。