Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「おい、てめェ……!」

(兄さんッ!)

 勢いよく立ち上がろうとした俺を、ヤズーが引っ張り倒した。

 ボサッだの、ガサゴソという音は聞こえただろうが、王子は気付かない。それよりも棺の中の『白雪姫』に夢中になってる様子だ。

(ヤズー、はなせってば!)

(ダメだよ! 殴りかかったりしたら、出逢いのフラグも何も木っ端みじんだよ! 旗が折れちゃうよ!)

(だって……! おまえもヤツのツラ見ただろう!? レオン王子じゃないじゃんか! 変態ポエマーだぞ! ヴィンセントの身にもしものことがあったら……)

 

「魔女のリンゴで意識を失ったと……そう言っていたな」

 王子はこびとたちを振り返り、低く問いかけた。

 七人のこびとたちは、えぐえぐとしゃくりあげながら頷いてみせる。

「ならば、悪い魔女の呪いを解く方法はただひとつ……」

 詩を読み上げるような声音で、ささやく王子。

 もう、止めるヒマもなかった。

 彼はごく自然な動作で、ガラスの棺に身をかがめると、眠ったふりをしているヴィンセントに口づけた。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 という悲鳴はヴィンセントのものではなかった。

 俺自身のものだった。

「てめェ! コルアァァァァ!! ヴィンセントに触んなァァ!!」

「ちょっ……兄さん……!!」

「ク、クラウド……!」

「『クラウド』?」

 最後の疑問系は、王子本人のものだった。ヴィンセントが俺に向かって口にした言葉を耳にしてのことだろう。

「オルァァァ!! どけッ! ヴィンセントから離れろッ!」

「ク、クラウド…… 落ち着きなさい……!」

 ヴィンセントの制止の言葉なんて、耳に入らない。

「貴様ッ! 控えろッ!」

「何者だ! 頭が高いぞ、下がれッ!」

 王子の従者ふたりが、血相を変えて殴りかかった俺の前に立ちはだかる。

「どけッ! この野郎……!」

「兄さんッ!」

 ヤズーが俺の腕を引っ張る。

「……その子供は放っておけ」

 つまらなさそうに、王子は従者ふたりへ命じた。

「姫、私と一緒に城へ参ろう」

「え……あ……」

 とまどうヴィンセント。そりゃそうだろう。

「『参ろう』ってアンタなァ! 勝手なこと言ってんなよ!」

「兄さんってば!!」

「姫……」

 ジェネシス……もといジェネシス顔の王子は、いともたやすくヴィンセントを抱き上げると、ひょいと自分の白馬に乗せてしまった。

「い、いや…… あ、あの……私は……」

「君の話は城で聞こう。……それよりも身体が心配だ」

「あ、いえ……それは……」

 ヴィンセントが困惑した風に、身を縮ませる。

 身体の具合を心配されたのが申し訳なく感じるのだろう。

「おい、ちょっと待てよッ!」

「…………」

 尚も言い募る俺に向かって、ジェネシス王子は冷ややかな一瞥をよこした。

 その後、ぐるりと視線を回したのは、俺の背後にいるセフィロスとヤズーを眺めたのだろう。

「……おまえたちは、この人と関わりのある輩か?」

 詰問するでもなく、王子は静かな物言いで訊ねた。

 ジェネシス王子……いや、勝手に俺がそう呼んでしまっているだけだけど、彼はホンモノのジェネシスよりも、物静かなタイプらしかった。チャラけた風な様子はない。

「だから、俺はこいび……」

 『恋人だ!』と叫ぼうとしたところ、セフィの大きな手のひらが背後から俺を捕まえてしまった。

「ああ、そのとおりだ。そいつとは深い関わりがある。アンタがソレを城に持って行くのを止めはしないが、俺たちも同行させて欲しい」

 セフィロスがそう告げた。

 決して丁寧という口調ではないが、セフィロスの言葉は何故かきちんと聞き留められるのだ。

「……貴方はあの者らを見知っておられるか?」

 王子は腕の中のヴィンセントに向かって問いかける。顔色を無くしたままのヴィンセント……もとい白雪姫は、コクコクとものすごい勢いで頷き返した。

「よかろう。付いて参れ」

 クソえらそうにーッ!!

 ホンモノのジェネシスだったらぶん殴ってやるのに!!

「王子!このような得体の知れぬ輩を城に招き入れるなど……!」

「あまりに不用心でございます!」

 従者ABが口々にそう言った。まぁ、コイツらの立場からすればそう言いたくもなるだろう。

「……問題ない」

「ですが、王子!」

「まぁまぁ、そんなに怒らないでェ。しばらくお世話になるからよろしくね」

 ヤズーがいきり立つ二人の青年の肩に顔を寄せ、バチンとウィンクをかます。

 硬直するふたりの青年従者。

 ……色仕掛けはきたねーとか言ってる場合じゃないよな。

 七人のこびとたちにカダとロッズへの伝言を残し、俺たち三人は王子達の後へくっついて、ヤツの城に行くことになった。

 

 ……急展開だ。