Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「へぇ〜、なんか綺麗な部屋ァ。お茶も出してくれたし、案外いい人かもね、あのジェネシスのそっくりさん」

「ああ、そうかもな。この茶菓子もなかなかイケる。酒が欲しいところだが」

「バカやろう! ヤズー、セフィロス! 食い物とかに手ェつけてんじゃねーよ! 毒入りだったらどうするんだっ!」

 俺は、すっかりくつろいでいる気分になっているふたりを怒鳴りつけた。

 なんで、こいつらこんなにも環境適応能力が高いんだよ!?

「疑り深いなぁ、兄さんは。もし俺たちを殺すつもりなら、わざわざこんな場所に連れてきたりはしないでしょ?」

「そんなことわかんないだろ!手中に収めてから一気に……」

「考えすぎだってばァ」

 暢気なヤズーをじろりと睨み付け、俺はふたたび扉を叩いた。

「おい!ここ開けろッ! ヴィンセント、どこやったんだよ! クソ王子!」

 重い樫の木作りの扉が、ダンダンと激しい音を立てる。

 ちゃんとこの音が王子の耳に届いているのだろうか?

 なんせ、この城はだだっ広くて、門をくぐってから城内に入るのに、二十分近く歩かされたのだ。もちろん、城内も広大で、きっとひとりで放置されたら、行き倒れになってしまうと思う。いや、ホント、マジで。

「変態王子! ここから出せ! ヴィンセントに会わせろ〜ッ!!」

「うるせェな。そのうち話を聞きに来るだろ。おとなしく待ってろ」

 けだるげにソファに身を預けるセフィロス。その緊張感のなさに頭にカッと血が上った。

「おい、セフィ! アンタ、ヴィンセントのことが心配じゃないのかよッ! たったひとりで俺たちから引き離されて、王子の尋問を受けてるんだぞ!」

「尋問って……人聞きが悪いねェ、兄さん。一目でヴィンセント白雪を気に入った王子が、そんな無粋な真似するはずないでしょ。そりゃ、素性くらいは訊ねているかも知れないけど」

 と、セフィロスの代わりの答えたのはヤズーだ。

「まぁ、ヴィンセントがどう答えるかはわからないがな。詳しい事情なら、俺たちも交えて訊いてくるだろ」

「おとなしくそれを待っていろっていうの? 今、ヴィンセントがどれだけ心細い思いをしているか……!」

 自分で口にした言葉に、ツンと鼻の奥が痛くなった。

「や、やっぱ……やめときゃよかったんだ…… ヴィンセントにあんな真似させるなんて…… 元の世界に戻る方法だって、他にあったかも知れないのに、ただ時間がないってことで、無理矢理……」

 徐々に涙声になってしまって、俺はヤズーを慌てさせてしまった。

「あ、ちょ、ちょっと、兄さん。ヤダな、いきなり泣かないでよ。だから、大丈夫だってば。危害を加えられる可能性はまず無いし、ヴィンセントだって大人の男の人なんだから。おっとりしているけど、頭の回転の悪い人じゃないし、上手く対応しているはずだよ」

「うっ……うっ……」

「ったく、ウゼーな、アホチョコボはよ。泣きゃどうにかなると思うなよ」

「うっざい!ゼブィのバガッ!」

「濁点付きで呼ぶなと言ったろーが。やれやれ、面倒くせーな。そんなに気になるんなら、様子を見に行くか?」

 いともたやすくそう言うセフィロス。

「は? 何、簡単に言ってんの? ヴィンセントがドコ連れて行かれたかもわかんないのに!」

「王子の部屋だろ」

「その王子の部屋の場所がわからないって言ってんの! おまけにこの部屋、鍵掛かってんじゃん。セフィなら扉ぶち破るくらいワケないかもしれないけど、それじゃ城の兵隊たちが集まって来ちゃうよ」

 俺は口を尖らせてそう言ってやった。

 いつもは楽しげにヴィンセントにいらぬちょっかいを出すくせに、こんなときに平然としているセフィロスが不愉快だった。

「ヤツの部屋なら、あらかた場所の想像はつく。途中まで一緒だったし、こういう居城の場合王家の人間の私室というのは、もっとも攻略されにくい場所にあるもんだ」

 攻城戦対策ってヤツなんだろうか。俺はぽかんと口を開けてセフィを眺めた。

「で、でも、ドアは? 言っておくけどそう簡単には開けられないよ? 扉自体が重い樫の木で出来ているし、鍵も掛かっているし……」

 ハッと気を取り直して、言葉を続ける。

「あー、まぁ、その辺は…… イロケムシ!」

「もう、偉そうに変なあだ名で呼ばないでちょうだい。……兄さん、ちょっとごめん」

 そういうと、ヤズーはヘアピンみたいなものを取り出した。折れた針金にも見える。

「ずいぶんとアナログな鍵穴だよね。 よいしょっと……」

 カダの耳かきをしてやっているときみたいに、綺麗な白い手が器用に動く。

 すると古めかしい扉は、ほんの数十秒もせずに、ピンと音を立てた。

「はい、オッケー。開いたよ」 

 いけしゃあしゃあというヤズー。

 こいつは、俺がドアを叩いて叫んでいる様を眺めて、なにを思ったのだろうか。

「お、おい…… アンタら……」

 うつむいて震えている俺に、

「便所ならさっさと行ってこい」

 と無神経な発言をかますセフィロス。

 ヤズーに至っては、

「ちょっと待って。もういっぱい紅茶飲みたい」

 と言いながら、優雅なアフタヌーンティーだ。

「アンタら、俺のことナメてんのォォォォ!?」

 涙混じりの叫びが、どこかにいるヴィンセントに聞こえなければよいと思った。