Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「……ということなのだ。本当に申し訳ない」

 私はあらためて、ジェネシスそっくりな容貌の王子に頭を下げ、謝罪した。

「いや……面妖な話だが、事情はわかった」

「要領を得ない説明ですまない。……だが、我々にも何がなにやらわからぬ次第で……」

「貴方が謝る必要はない。その不可思議な現象を訊けば、むしろ被害者であろう」

 ため息混じりに王子はそう言ってくれた。

 王子の居城…… 白雪姫の連れ去られた城の場所から考えれば隣国というべきだろう。

 そこに連れてこられ、今、その当人と一対一で話をしている。

 クラウドやセフィロスたちから離されたときは心細く感じたが、こうして落ち着いて説明するには、むしろこういった形でよかったと思えた。

 王子は容姿だけでなく、その聡明さ思慮深さも本物のジェネシスに似ていて、ともすると酔っぱらいの戯言とも捉えられかねない、摩訶不思議な物語を最後まで聞いてくれたのだった。

「……つまり、貴方はその姫の身代わりとして、私と出逢ったと……そういうことなのだな」

「あ、ああ。本当はこんな形で、あなたを欺すのは心苦しかったのだが、この機会を逃してはもう二度と会えなくなってしまうから……」

「…………」

「最初から事情を話すこともできたのだが、あなたの為人を知らなかった故、このような不躾な真似をすることになった。さぞ、気分を害されたことと思う。申し訳ない」

「君は謝ってばかりだ」

 そういって王子は、クスッと微笑った。

 シャープに整った造形が、柔和に溶けるとなんてやさしそうな面持ちになるのだろう。

 堅苦しい『貴方』という呼び方でなく、本物のジェネシスのように『君』と呼びかけられたのが嬉しく感じた。

「さきほどから何度も申して居る。君が謝罪する必要はない。緊急事態であったというのも理解した」

「あ、ありがとう……ございます」

「……だが、棺の中で眠る君は、一目で私を魅了してしまった」

「え……」

「正直、今の話を聞かされて、落胆している自分がいるのを否定できない」

「あ……あの……」

 なんて言えばよいのだろう。

 ここで謝るのもおかしな感じだ。それに詫びの言葉は、幾度も口にしてしまっていて、ありがたみが薄れている。だからといって再び『ありがとう』というのもおかしなものだろう。

「まだ見ぬ『白雪姫』よりも、君と親しくなりたい」

 王子様はその育ちのよさからか、非常にストレートな物言いをした。

「え、あ、いや…… それは……その……」

「君は私が嫌いだろうか?」

「え? い、いえ、そんなことは……」

「では好きか?」

「あ、あのッ…… おこがましい物言いだが…… 友人には……なれるのではないかと」

「友人……か」

「あ、いや、身分違いは重々承知しているし、気軽に友人などと口にするには、はばかりが……」

「そういう意味で言ったのではない」

 ジェネシスと同じ顔をした王子は、私の言葉を遮った。

 すっと手が延びてきて、私の肩を掴む。

 シンプルな白いドレス。そのシルクの布地を伝わって、触れられた部分から彼の体熱を感じる。

「え……あ、あの……」

「私は……」

 非の打ち所なく整った貌が、いきなりアップになった瞬間……

 

 

 

 

 

 

「ストーップッ!! ストーップッ!!  コルアァァァ! てめっ、ヴィンセントになにしやがるッ!」

 衣装棚の奧から、クラウドが飛び出してきた。

 まさしく『跳んで出てきた』という様子で。

「あ〜、もう、兄さんってば! 落ち着いてって言ったでしょ」

 呆れた風なヤズーの声音。

「わりと面白かったがな」

 という、不遜な物言いはセフィロスだ。

「ク、クラウド…… セフィロスにヤズーも……」

「おい、このッ、クソ王子! 離れろよッ! ヴィンセントがアンタの白雪じゃないってのは、もうわかったんだろッ!?ベタベタした態度とってんじゃねーよ!」

 クラウドは顔を真っ赤にして、私と王子の間に割って入った。勢い余って王子をつきとばそうとするが、それは私自身がすんでの所で阻止した。

「よしなさい、クラウド!」

「なんで止めるんだよ! 今、コイツ、アンタにキスしようとしただろッ!」

 キス……とか、あからさまにそういった言葉を口にするのは、この世代の特徴なのだろうか。どうにも私などは気恥ずかしくて、即物的な表現に抵抗がある。

「そ、そんなことはない。むしろ迷惑を掛けているのはこちらなのだから…… 乱暴な態度をとってはいけない」

 私はややキツイ口調で、クラウドを諫めた。

「う…… で、でも……だって……」

 口ごもるクラウドとは対象的に、王子は顔色一つ変えず、ものめずらしそうに招かざる闖入者たちを眺めていた。