Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<28>
 
 クラウド
 

 

 

 

 次にぼんやりと意識を取りもどしたのは、冷たい夜風が頬に触れたからだった。

 お腹の方はずっと暖かい。何故かはすぐにわかった。セフィロスがずっとおんぶしてくれていたからだ。

「セフィ……」

 独り言みたいな声になっていたと思うけど、彼はすぐに気づいてくれた。

「ああ。迎えが来ているからな。もう大丈夫だぞ」

 うんと甘やかした物言いに、こんな場合なのに苦笑が漏れる。いつもは意地が悪いくせに、俺が体調を崩すと、子供の頃からものすごく心配してくれる。

 おたふく風邪にかかったときなど、俺の入院したメディカルルームに、一日に何度も足を運んでくれたものだ。

「……平気。でも……迎え?」

「ああ、空からだ」

「そ、空……?」

 頭を上げるのも難儀だったけど、俺はなんとか頭をもたげた。

 だが、目に入るのは、満天の星だけで……いつの間にか、俺たちは足場の悪い、城の屋根の部分に居たのだ。

「兄さん、よく見えない?」

 ヤズーはそっと俺のとなりに移動してきて、天を指さした。

 翳む瞳を一生懸命見開くと、ゆるゆると蛇行する物体がある。風船みたいな大きなシロモノだ。

 最初、見上げたとき、よくわからなかったのは、夜闇に溶け込むような漆黒だったからである。

「なに……アレ?」

「ジェネシス王子が気を利かせてくれたみたいだね。たぶん、俺たちの帰りが遅いので、ヴィンセントが駄々をこねたんだろうけど」

 『駄々をこねるヴィンセント』というフレーズが、なんだかひどく可愛らしく感じて、思わず口元が緩んだ。

「カダとロッズは、打ち合わせ通り、無事に城から脱出したよ。思いの外、大事になってしまったけど、これでミッションコンプリートかな」

 カダやロッズも、無事に戻っているというのならもう安心だ。白雪ちゃんの往く末は、今まさに迎えにきてくれたジェネシス王子に託せば、それでよい。

「ごめんね、なんだか今回も兄さんが一番割くっちゃったみたいだね」

 そう言われて頭を横に振った。屋上にいるせいで吹きさらし状態だ。こうしてマントにくるまれている俺でさえ、寒くてたまらないのに、上半身裸のセフィや濡れた服のままのヤズーはどれほどつらいのだろう。

「寒い? 兄さん。もうちょっとだからね」

「……何言って……俺なんかより、セフィやヤズーのほうが……」

「平気平気。よけいな心配しないで」

 ヤズーはそう言って笑ったが、セフィロスはジッと俺を見つめたままだった。

「セフィ……? どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

「でも……怖い顔してたよ。ゴメン、俺……」

「違う。そうじゃない。おまえが謝る必要なんて、なにひとつ無い」

 セフィロスは、堅い声でそう言い、ふたたび前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 ……その瞬間。

 俺の目の前を、ひゅんと何かが通り過ぎて行った。

 遙か後ろでタン!と音がする。

 無言のままのセフィロスに、背後に押しやられ、あの地下でのときのように、白雪ちゃんにぎゅっと抱きしめられた。

「……やれやれ。おまえ似の王妃とやらは、ずいぶんしつこい性格のようだな」

「あのさァ、いちいち、俺を引き合いに出すのはやめてくれない?」

「クソジェネシス。あののろまが!」

 セフィロスは上空を移動している黒い飛行船をにらみつけた。

 屋根の上に、ぞろぞろと兵士があがってくる。手にそれぞれ武器を持ち、こっちに向かって進んでくる。その後ろに立つ、銀の装束を身につけた女……

 ヤズーによく似たきらびやかな容姿をしていながらも、毒々しい気を発している。

 王妃登場だ。

「……ふたたび、我が手の内から逃れるか、小憎らしい白雪よ」

 地を這うような声が響き、俺を抱きしめる白雪ちゃんが、ガクガクと震えだした。

「この私の美貌がおまえに劣ると……?」

 女にとって容姿というのは、それほどまでに重要なものなのだろうか。うらみのある王妃だが、公平な目で見れば、かなりの美女だと思う。

 ヤズーにそっくりなのだから、ヴィンセント似の白雪ちゃんに、引けを取らない美しさなのだ。

 そもそも、ヴィンセントもヤズーもすこぶるつきの美貌だけど、美しさの方向性が異なる。比較する意味がないのだ。

 ヴィンセントは、ノーブルで神秘的な、透き通るような美貌だ。それに対し、ヤズーのほうは、艶やかさと華やかさが勝っている。どちらが良いかというのは、もはや完全に個人の好みの問題だろう。

 それにも関わらず、目の前の王妃を美しいと思えないのは、彼女の心根……外見ではなく、他人をねたむ心の醜さが、我々にそう感じさせないのだろう。

 ……そういってやりたいのだが、力が出ない。

「ちょっと待ってよ、王妃さま。あなたは十分綺麗じゃない。どうして白雪ちゃんを目の敵にする必要があるのさ」

 王妃そっくりのヤズーが堂々とそう言いはなった。

「我が聖なる鏡の精霊が告げたのだ。……この世界で一番美しいのは、継子の白雪姫であるとな」

「おまえ、バカか? 今のままじゃ、そこの女を殺したって、トップになんぞなれやしねェぞ」

 ズバリと確信をついたのは、セフィロスだった。