Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<29>
 
 クラウド
 

 

「なんだと……!この下司めが……!」

 いきりたつ王妃。

「人間の容姿ってのは、中身が如実に現れるもんだ。おまえの穢ねェ嫉妬心がなくならないかぎり、どれだけ女狩りをしても無意味だぜ」

「黙れ! 者ども、白雪姫と共に、皆殺しにしろ!」

 甲高い女の声が、夜闇に響いた。

「まぁ、悪役ってのはこうじゃないと張り合いがない。おい、いくぞ、イロケムシ」

「ハイハイ」

 斧や槍、そしてこの時代独特の形をした長剣を振りかぶり、兵士たちが襲いかかってくる。

 セフィロスとヤズーは、見事な体技で彼らを捌いていった。

 無理やり命令に従わされていると考えてのことか、ふたりは兵士たちに致命傷を与えはしなかった。足場の悪いこの場所から下へ落としたり、武器をはじき飛ばすだけだ。

 

「セフィ……やっぱ強いなぁ」

 低くつぶやいた俺の顔を、白雪ちゃんが覗き込んだ。

「セフィロス……さっき紹介したからわかるでしょう? おっかない方が、セフィね。もうひとりの綺麗なのがヤズー」

 俺はもう一度、彼らの名前を口にすると、ふぅと息を吐き出した。しゃべるだけでも、かなり疲れを感じるのだ。

「セフィとは、けっこう長い付き合いなんだけど、本当に強いんだ。いつもなら、正宗っていう、長い刀で闘うんだけど……でも、素手でもすごいよね。お城の兵隊なんか、子供扱いだよ」

 白雪ちゃんが淡く微笑んで頷き返した。

「俺……いつも守ってもらってばっかで、情けないんだけど…… セフィロスの闘うの見てるの好き。気持ちいいくらいだよね。あんな力業なのに、優雅にも見えて……かっこいい」

 俺の話は、脈絡もなく、子供っぽい物言いになっていたと思うけど、彼女は繰り返し頷いてくれた。

 

「おのれ……! 者ども、何をしていやる! 一対一でかなわぬのなら、やりようがあろうッ!」

 聞き苦しい声が飛んできて、俺は白雪ちゃんの腕の中で、必死に頭をもたげた。状況を知りたかったのだ。

 ここは城だ。

 いわば敵の本拠地だ。兵の数だけは、際限なく補充できるのだろう。いくらセフィロスとヤズーが強くても、体力的にはかなり苦しいはずだ。水牢で冷え切った身体、そしてつい先刻、アルケノダイオスを倒したのだ。

 細身のヤズーの息が上がっている。セフィは普段と変わらなく見えるけど、きっと厳しいに違いない。

「セフィ……ヤズー……!」

 身を浮かせると、白雪ちゃんがぎゅっと俺を抱きしめて、必死に頭を振る。

 甲冑を身につけた兵士らが、ぐるりと馬蹄型にふたりを取り囲んだ。それぞれの手には、当然磨き込まれた武器が握りしめられている。

 同時に飛びかかって来られたら……

「セ、セフィ……ッ!」

  

 連中が、ぐっと構えを深くしたとき、天空から銀の光が、彼らの間合いに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 ボンッと、音を立てて、それは破裂した。

 その瞬間、あっという間に、白煙が周囲を覆い尽くす。

「な、なに……これ……?」

「クラウド……ッ!」

 懐かしい呼び声が後ろから飛んできて、背中を抱きしめられた。

「……クラウド、大丈夫か? 苦しいのか?」

「え……あ……」

「……身体が冷えてしまっている。さぁ、私に掴まって……!」

「ヴィ……ヴィンセント?」

 白雪ちゃんと同じ…… でも、もっと懐かしさを感じる空気が俺を取り巻いた。

「ヴィンセント……?」

「ああ、そうだ……彼女のために頑張ってくれたのだな、クラウド」

「ヴィンセント……ダメじゃん……こんな危ないところに……」

「おまえたちを迎えにきたのだ。もう大丈夫だ……大丈夫だからな、クラウド」

 熱で火照った額に、冷たいヴィンセントの頬が擦りつけられる。ひんやりとした白い細い手……髪を撫でられ、涙が出そうになった。

 

「君たち、早く飛行船に乗りたまえ」

 くぐもった声が、前線で闘っていたふたりに呼びかける。機を見るに秀でたセフィロスたちは、すぐさま踵を返した。

 深い紅の布で、口元を覆った男が、優雅に舞うと、敵兵らの足下に小刀が突き刺さった。

 追撃しようと踏み出した兵士らは、気の毒にも屋根から転げ落ちた。

「おのれ! 新手か……! 追え、追わぬかッ!」

 ヒステリックにわめき立てる王妃の要請に、応えられる兵はもうほとんど残っていなかった。

「それではみなさん……アデュー」

 慇懃無礼に、紳士の礼をとって、布巻の男は、一番最後に飛行船に乗り込んだ。

 

 俺たちを乗せた巨大な風船は、夜の闇に溶けるように消えたのだった。