Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<30>
 
 クラウド
 

 


 

「グッジョブだね、王子様! 良いタイミング」

 ヤズーが長身の男の肩をポンと叩いた。

「……やはり私だとわかるかね」

 彼は布越しのくぐもった声でそうつぶやくと、するするとえんじ色の布を滑り落とした。

「ジェネシス……王子。来てくれたんだ」

 俺はそう言った。

「……ああ。君らの大切な人が、単身で乗り込もうとするのでね」

 ジェネシスそっくりの王子は、苦笑しつつそう応えた。セフィロスがやれやれという面持ちで、ヴィンセントを眺める。

「まぁ、いいじゃない。結果良ければ全てよしってことでさ。いやー、今回は参ったよねェ、セフィロス」

「……そうだな」

 悪態を吐くかと思ったセフィロスが、妙に神妙な答えをしたのがひっかかった。

「……どこか油断していたのかもしれん。勝手のわからん世界に放り込まれたのだから、もっと慎重に動くべきだった」

「セフィ……」

 少し驚いてしまって、俺は彼を見た。目線が合うと、セフィロスが大きくため息を吐きながら立ち上がった。

「……大丈夫か、クラウド。もうすぐ暖かな場所に着くからな」

 俺の前にかがみ込み、彼はそう言った。

 昔みたいに頭を撫でられ、俺はちょっと困惑した。今はヴィンセントもジェネシス王子もいるのだし、そんなふうに扱われるのには抵抗があったからだ。

 でも、髪に触れている手を、撥ね付けることはできなかった。俺を見つめるセフィロスの表情は、本当につらそうで……小難しく言うのなら、『慚愧の念に堪えない』といった風情だったから。

「セ、セフィ……おおげさ。俺は大丈夫だってば」

「……今はまだ気が張っているだけだ。熱も高いだろ。おい、王子。まだ城に着かないのか?」

 後ろ半分は、ほとんど八つ当たりのように言い放ったのであった。

「もう、まもなくだ。……君、これを」

 無礼な物言いに、怒りを見せることもなく、王子は羽織っていたマントを、セフィロスに渡した。

 セフィロスはそれを引ったくるように受け取った。そして否応なしに、俺の肩に掛けてくれた。王子にも申し訳ないし、遠慮しようと思ったが、異論を唱えられる雰囲気ではなかった。

「セフィ……」

「……悪かったな、クラウド。すまん」

「ちょ、ちょっと……おかしいってば、そんなに……謝るの。別にセフィロスのせいじゃないじゃん」

「昔のオレだったら、こんなヘマはしなかっただろう。……我ながら呆れる」

 押し殺した声が痛々しくて、俺はどうしようという気持ちで、背後のヴィンセントを見上げた。

 

 

 

 

 

 

「セ、セフィロス……クラウドは大丈夫だ。体力もあるのだから快復は早かろうし、私がちゃんと面倒を見る」

「ああ……そうだな。たのむ」

 疲れたようにセフィが頷いた。クソ偉そうにふんぞり返っている姿ばかり見ていたせいか、なんだかそんな様子の彼を見ているのは居たたまれない感じがした。

「も、もちろんだ。それよりも君やヤズーも気を付けてくれたまえ。身体が冷え切っている上に、疲労も重なっているだろう」

 ヴィンセントが気遣いを見せる。

「オレはなんともない」

「ま、確かにくたびれたけど、俺も問題ないよ。一風呂浴びれば元通りだね。……それより目的が果たせてよかった」

 ヤズーがそう答えながら、身の置き場がないといった様子だった白雪ちゃんに、穏やかな目線を投げかけた。

「……君も大変な目にあったものだな」

 彼女に低くつぶやいたのは、王子様だった。

「森の小屋に隠れ暮らしていたと聞いたが、これからは私の城に居るとよい」

 紳士的な声がそう続けた。

 してやったりといった様子で、笑みを浮かべたのはヤズーだった。

「そうだよねェ、あのおうちの場所は、バレているわけだからね。王子さまの側なら安心だし」

「……左様。彼らに私の正体はバレてはおるまいし、わざわざ隣国の城に乗り込んでくることもあるまい」

 王子の穏やかな物言いに、ようやく白雪ちゃんは微笑んでくれた。