〜 Amusement park recreation 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<4>
 
 セフィロス
 

 

 

 

16:10

 

「えっとぉ……これは、こっちの棚で…… あれ、なんでこれ中身がないんだろ。書いておかなきゃ……」

 薄暗い書庫に小さな影が見える。

「ええと……あ、順番が違ってる。こっちがbPで……」

 真面目なクラウドは、作業終了時刻を過ぎようというのに、未だ夢中で書類を分類していた。

 書庫とはいっても、ここはいわゆる一般図書室の書庫ではない。

 全職員向けの図書館は、本社のリラクゼーション施設のワンフロア上にあって、きちんと司書の人間が管理している。

 ここは事件関係のファイルが整理されている書庫だ。ソルジャーの我々などは、普通の図書室よりもなじみのある場所である。

 

「ええと……あとは……」

 小声で、内容を確認しながら作業を進める姿が何と可愛らしいのだろう。

 幸い、広い書庫はガランと静まり返っていて、クラウドの他に、人間はいないようであった。

「よいしょ……っと!」

 小さな身体でファイルの束を抱え上げる。背伸びをして、棚の一番上にしまうつもりなのだろう。

 後ろからワッと抱き上げて驚かせてやろうと考えていたのだが、黙って見ていられなくなった。

 

「クラウド。貸せ、重いだろう?」

「セ、セフィ? びっくりした!」

「ふふ、頑張っているようだな」

「うん! もう少しでこの棚が終わるの」

「そうか……ほら、貸せ。落としたら危ないだろう」

「あ、ありがとう。でも、どうしたの? 何かミッションで必要なファイルがあるの? 言ってくれれば、おれ、探せるよ?」

 基本的には末っ子気質で、甘えたがりの少年なのに、一生懸命、任務を果たそうとする姿がいじらしい。

「いや、打ち合わせが早く終わったんでな。せっかくだから、おまえが仕事をしているところを見ようと思ってな」

 いやいや、ウソではない。仮にこの後、なし崩し的にラブ・アフェアを楽しむことになったとしても。

「へへへ、セフィ、おれのこと、気にしてくれてるんだね。大丈夫、ちゃんとやれてる。心配かけてゴメンね。ありがと」

 と、笑った。

 ポッと桜色の頬を、さらに濃いピンクに染めて、クラウドがはにかむ。この子はつい最近、研修期間を終えたばかりだから、まだまだ慣れぬ事ばかりだろう。

 その彼を、私がよけいに心配していると、ちゃんと理解しているのだ。

 

 

 

16:30

 

「クラウド、何をどこまで整理すればいいんだ。ふたりでやればすぐに済むだろう」

「また、セフィはそうやって、おれを甘やかす!」

 背伸びをして、「メッ」というように、睨め付けてくるが、ヒヨコのようなこの子が、そんな仕草をみせても、よけいに愛らしく感じさせるだけだ。

「別にいいだろう。ここまでひとりでやってきたのだから」

「うん……ふふ、なんてね! 実はもう指示されたジャンルまでは終わってるんだ。今、やってるのは来週の割り振りのところ」

 茶目っ気たっぷりにクラウドが言った。

「時間過ぎてるの、気がつかなかったの。やりかけで放っておくのも、何だかスッキリしなかったから」

「……そうか。イイコだな」

「もう、セフィってば、子供扱いしないでよ。おれだって、いつまでも修習生じゃないんだからね!」

「ああ、わかってる、わかってる」

 頷き理解を示してやりつつ、私はクラウドを書庫の隅に誘導した。

 ほわほわと尖った金のくせ毛を撫でると、彼はむっと唇をへの字に曲げた。きっと私が子供扱いしているのだと怒っているのだろう。

 

 人っ子ひとり居ない、静かな空間……まさしくベスト・シチュエーションだ。

「あ……ちょっ……セフィロス……?」

 クラウドの手からファイルの束を取り上げ、そっと棚に戻す。私とこの子はとても身長差があるから、キスひとつするにも、腰をかがめてやらなければならない。

 ああ、誤解されると困るので言っておくが、私自身は背丈の違いを苦にしたことなど一度もない。いや、むしろすっぽりと腕の中に収まってしまう、小柄で愛らしい容姿をどれほど愛していることか。

「……クラウド……」

 獣じみた身体の欲求を感じさせないよう、紳士的に額に口づける。それから、やわらかな頬へ、いたずらっぽくツンと尖った鼻先へ……そしてようやく唇にだ。

 チュッ……と、音を立てて、名残惜しげに口唇を外す。

 誰もいない書庫……絶好のシチュエーションだというのに、次の段階へいこうとした私に、クラウドが抗った。

 

「セ、セフィってば……もう、ダメだよ」

「何故だ? おまえだってこのままだとつらいだろう?」

「い、いいから! あ、後でお手洗い行ってくるし。こ、ここは事件書庫なんだよ!? もし、誰かに気付かれたら……」

 桜色の頬が、さらに紅く上気している。素朴な田舎育ちのせいか、この子は自分の容姿に対する客観的な評価ができていないようなのだ。

 彼は平均よりもやや小柄な身長のことばかり、コンプレックスとして心に刻み込み、魅力的な部分……そう、例えば、ハニーブロンドのくせ毛やマリンブルーの瞳、ピンクがかった、やわらかな肌、ああ、数え上げていけばきりがないほど持ち合わせのある、チャームポイントを理解していないのだ。

「セフィ……放してよッ……もうッ! 人が来るかもしれないだろ!」

「いったい誰に気付かれると? 現在進行形の事件ファイルは隣の閲覧室だし、過去のデータをいちいち調べるような輩はほとんどいないだろう?」

「そ、それは……そうかもしれないけど……」

「おまえが修習生を終えたのは、めでたいことだが、ふたりで居られる時間が、ますます少なくなった…… つらいな」

「セ、セフィ…… それは……おれだって、同じだよ……」

 そういうと、ずっと下の目線から、背伸びをしてきて、私の口唇に小さな唇が重なった……