〜 Amusement park recreation 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<8>
 
 セフィロス
 

 

 

 

21:20

 

 トントンという軽いノックの音で、書類から目を上げる。

 こんな時間まで、仕事関係の文書を読むなんざ、不愉快極まりないが、昼間のさぼりのツケゆえ、致し方がないのだ。

「……開いている」

 オレは座ったまま、適当に返事をした。多分、アンジールあたりが、中座した後の伝達事項を伝えに来たのかと思ったのだ。

 

 なかなか扉が開かないので、なにをしているとにらみつけたとき、見慣れた小さな姿が視界に飛び込んできた。

「あ、あの……セフィ? ごめんなさい、忙しかった?」

「クラウド!」

「あ、い、いいの、お仕事中なら、また今度……」

「そうではない。これは暇つぶしに読んでいただけだ。ほら、早く入れ」

 オレ……いや、私は『重要』と赤のスタンプが押された書類の束を、さっさとデスクに放り出した。

 

「でも……」

「そんじゃー、シツレーしま〜す!」

 ゲッ! ザックス!!

 何で、この野郎まで一緒に……

「ザ、ザックス、まずいよ、セフィロス、忙しそうなんだよ……」

「昼間さぼってたんだから、自業自得だろ。おい、セフィロス。俺様たちが、わざわざアンタの好きな茶菓子を買ってきてやったぜ〜」

「ザックスってば!」

 良識のある、素直な良い子のクラウドは、私の邪魔にならないかという配慮ができる。だがゴンガガ原人は違うのだ。

 だいたい、クラウドが、恋人である私の部屋に行くというのなら、同行するのは遠慮すべきではなかろうか?

 

 

 

21:30

 

「よっしゃ、トップソルジャーさんは、明後日の会議の資料読んでるから。俺たちで準備してやろうぜ、クラウド」

「う、うん。セフィは座っててね。夜だし、コーヒーより紅茶のほうがいいかな。ラ・フォンティーヌのガトーショコラ買ってきたの」

 そういいながら、可愛らしい瀟洒な小箱を開いて見せてくれた。

「甘くなくて美味しいって、セフィ気に入ってたでしょ?」

「……わざわざ私のために?」

「え? う、うん……好きだって言ってたから……」

「クラウド……」

 そっと小さな背中に手を回す。クラウドは箱を持ったまま、少し驚いたように目を瞠った。

「セフィ……?」

 海を思わせる美しいブルーの瞳は、同じ魔晄の光を浴びた者であるのに、私などよりも、ずっと暖かくやさしげな光を宿している。

 なんだか、バックに音楽が欲しい雰囲気だ。

 私は、軽く腰をかがめた。クラウドは少しだけ困ったような表情をしたが、大人しくそのまま立っていた。

 クラウドの吐息を唇に感じる。

 それらが、ひとつに重なろうというとき…… 

 

「あー、そこまでそこまでェ〜! おい、クラウド、手伝えよ。お湯沸いたから、茶葉用意して」

「あッ、いけない!またやっちゃったァ」

 ヒヨコのような髪を、ひょこんと揺らせて、クラウドが声をあげた。

「いっつもいっつも、人前ではちゃんとしているって決めてんのに。セフィと一緒に居ると、ついつい甘えちゃうんだよね〜」

 ポッと頬を染め、照れ隠しに頭を掻いた。

 いや、フラフラ、いちゃいちゃ、べたべたしたっていいだろう!?

 むしろ、この場での不協和音は、ザックスの存在だ。気付け、クラウド!! 恋人たちの夜を、無粋にも邪魔している痴れ者はゴンガガ原人なのだ!

 

 

 

22:30

 

「じゃあね、セフィ、おやすみなさい」

 消灯時間をまわり、少し焦ったようにクラウドが言った。

 後かたづけをのんびりやりすぎたのだ。

「クラウド、泊まっていけばいいだろう? 外泊許可証が必要なら私が……」

「いやいやいや、アンタは明日、昼間から会議だぞ?」

 割って入ってくる無粋なザックス。

「だからなんだ。オレ……私とクラウドが話しているのに邪魔をするな」

「アンタには黄色い太陽が見えるみたいな体調で出席されても困るからな。またアンジールが迷惑することになる」

「貴様は、ヤツの回し者か!」

「同僚ソルジャーとしての忠告&クラウドの兄貴代わりとしての発言だな」

「いつ、貴様がクラウドの兄になったのだッ! おのれのようなドあつかましく、粗忽な乱暴者が、私のクラウドの兄だとッ!? 例えにしても不快だ!」

「なんだとッ!? 聞き捨てならねーなッ! 言っておくが、クラウドが入社したときから、俺は同室で生活してるんだぞ! クラウドも俺を信頼してくれているし、兄貴のように頼られているという自負もある!」

「この野郎!言うに任せてエラソーに!! 私はこの子の恋人だ! いざというときには、何を置いても、この子だけは守り抜いてみせる! この私を差し置いて、ぬけぬけと頼りにされているなどと口にするなッ!」

 マジギレするオレ……もとい私の腕を、困ったようにクラウドが引っ張った。

「もう……ザックスもセフィロスもやめてよ〜。どうして、ふたりともすぐケンカ腰になるの?」

「このボケナスが可愛いおまえの兄だなどと、不躾な発言をするからだ。……私はおまえの何にでもなれるぞ、クラウド。恋人でも、保護者でも、兄でもな……」

 ぷんと膨らませた頬を両手で包み、尖らせた唇に、チュッとキスを落とす。

「もぉぉ! ダメだったら、セフィってば! セフィのことは……その、大好きだけど、すぐおれのこと甘やかすんだもん。ずっと側に居ると何でも頼るようになっちゃうから、ベタベタしちゃいけないの!」

 それでも真っ赤になりながら、一生懸命口答えをするクラウド。

 この可愛いらしい子とアホハリネズミが兄弟ぶりっこ!? 

 ふざけるなと怒鳴ってやりたいッ!

 

「うんうん、クラはもうちゃんと自立してるぜ。俺がいなくてもちゃんとやっていけてるもんな。早く一緒の任務に就きたいな」

「ホント!? ザックス!」

「『クラ』とかいうなッ! 無礼なッ!」

「ああ、もちろんだぜ。俺は誰かさんみたいに、甘やかしたりはしないからな。その俺が言ってるんだから、本当のことだぜ」

「う、うん! ありがと、ザックス! ……あ、いけない、消灯時間けっこう過ぎちゃった!」

「おう、さ、行くぜ、クラウド」

「うん。あ、じゃ、セフィ、おやすみ。明日からの会議、大変だろうけど、頑張ってね。お邪魔してゴメンなさい」

 そういうと、ちょこんと頭を下げて、クラウドは足早にザックスの後を追って行ってしまった……

 そう……まるで、生まれたばかりの雛鳥が、親鳥の後追いをするように……

 

 あああ、いかんッ! これではザックスとクラウドが親子状況なのを認める発言になってしまうではないか!!

 断じて、私のクラウドは、私だけの可愛い子であって、何人たりともそれを侵すことは許さん!

 クソザックスめ、憶えていやがれ!

 やはり、のんきに会議なんざ出ている場合ではない。

 いかにザックスの好意が友情の領域であると解っていても、友情だろうが愛情だろうが、クラウドが後追いしていいのは、このオレだけなのだ!

 勘違い野郎には、キッチリとその辺りのことを、理解させてやらねばならん。

 

 ……二日目のテーマパーク……貴様などはお呼びではないわ!

 オレは寝室の窓を開け放ち、フハハハハ!と高笑いした。

 

 夜空に煌めく星々が、オレ様にエールを送るが如く、強く綺羅めいた。