Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 そして家を出て15分後、私たちは一件の高級クラブの前にいた。

 

 煉瓦つくりの建物で、繁華街からは道一つ隔てた場所にある。

 オレンジ色の灯りと静かな音楽が、慣れた大人の遊び場という雰囲気だ。

 いぶし銀とステンドグラスを使った、瀟洒な扉の前で私たちは立ちつくした。

  

「こ、ここか……」

「う、うん、兄さん、どうしよう、僕、緊張してきちゃった」

 クラウドとカダージュが、寄り添うようにして、ヒソヒソとつぶやく。

 なんだかこのふたりがじゃれ合っている姿を見ると、子犬と子猫がくっついているようで、こんな状況ながらも笑みが漏れる。

  

「なにをこそこそやってるんだ、ガキども。入るぞ」

 そういうと、セフィロスは何の迷いもなく、店の扉を押した。

 ドキドキと心臓の音がうるさい。

 なぜかクラウドが私の手をぎゅっと掴んでくる。あぶれてしまったカダージュは困ったような顔つきでキョロキョロしていたが、私の反対側の腕にくっついてきた。

 

「ようこそおいでくださりました。……初めてのお客様でしょうか?」

「ああ」

 場慣れした態度で、セフィロスが応える。

 

「ご指名がございましたら承ります」

 丁寧におじぎをしてそう申し出た店長……なのだろう。

 なるほど、以前ヤズーが言っていたように、黒髪の彼の容貌はなんとなく私に似ていた。

 

「長い銀髪の男がいるだろう」

 横柄にセフィロスが言う。

「は……? あ、あの……ヤズーのことでしょうか?」

 どうやら彼は源氏名を使っているわけではないらしい。

「そう、それだ。そいつを呼べ」

「は、はい……他にも指名が入っておりまして……少し、お時間をいただくことになるかと思いますが」

「早くしろ」

 セフィロスは偉そうに命じると、用意された席にさっさと歩いていってしまった。

 

 奥まった場所のよいテーブルだった。

 身体が沈むようなソファは、私には居心地が悪いだけだが。

 

 いずれにせよ、セフィロスとクラウド、カダージュ、私というとんでもないメンバーで来ているのだ。とにかく人目に着くところには居たくない。

 ヤズーが来るまでのつなぎなのだろう。

 年若い女性がすぐに席にやってきて、酌をしてくれる。

 

 せっかくすすめてくれても、私は酒が苦手なのだ。

 グラス一杯の酒も空けられず、気の利いた会話ひとつできない私は、彼女たちに詫びることしかできなかった。

「あ、あの……すまない……私は話をするのが……苦手で……」

「ううん……わぁ……瞳の色……綺麗ねぇ……それに声が素敵……」

「うん、耳元でしゃべられると緊張しちゃう……ね」

「やさしいんですね……いいなぁ、彼女、います?」

 そんなことを口々に訊ねてくる女性たち。

 しどろもどろになっている私を、可笑しそうに眺めるセフィロス。惚けたように眺めるカダージュ。

 ……そして、暗い瞳で舐めるように見つめるクラウド……

 

「でも、ご指名はヤズーくんなんだよね……あーあ、がっかりィ……」

「ねぇ、女の子はキライ?」

「え……いや、そんなことは……」

 困惑するが、確かに男ばかり四人で来て、いきなり男性のヤズーを指名しては誤解を招くのも最もだろう。

 しかも、ここのクラブは、いわゆるそういう筋……同性に嗜好のある客も多いようだ。テーブルを見回してみると、ホステスが女性テーブルに、そしてホストが男性テーブルについているところもちらほら見える。

 もちろん、高級店らしく、皆、小声で会話を楽しんでおり、耳に入ってくるのは、小さな嬌声やダンスのメロディーくらいだ。

 

「フフン、安心しろ、こいつはあの男の知り合いみたいなものだ。変に勘ぐる必要はない」

 セフィロスが言う。

 彼は慣れた様子で傍らの女性の肩に腕を回し、すでに3杯目のグラスを空けていた。

「そうなんですか……よかったァ……」

「じゃ、最初からダメってこともないんですね?」

「え……あ……」

 困惑する私に傍らの女性が話しかけてきた。

「あの……もしよかったら踊ってくれませんか……?」

 何となく一番控えめに見えた女性……愛らしいブロンドの彼女が私に申し出た。

「え……い、いや……私は……」

「一曲だけでいいんです……ダメでしょうか?」

 そう訊ねてくる彼女が、なぜか社交辞令ではなく私と踊りたいと言ってくれているようで、驚くと同時に困惑する。

 

「……私は……あまり上手くないので……」

「いいえ、そんなこと……音楽に合わせて一緒に踊っていただけるだけで……!」

「…………」

「……あの……?」

「……わ、わかった」

 私は覚悟を決めた。

 女性に恥をかかせるわけにはいかない。

 セフィロスがひょいと興味深げに眉を上げる。
 
 クラウドは、不快になる前に、私が彼女の申し出を受けたのが予想外だったようだ。瞳を丸くしてこちらを見ている。

 

 私は彼女の差し出した手をとって、ダンスホールへ降りた。