Summer Vacation 
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

……しかし、よくよく考えてみれば、もともとふたりで住んでいた別荘に、四人もの人間が滞在する……つまり合計六人の共同生活だ。

 確かに、ここは『別荘』と言いながらも、作り自体は下手な戸建てよりも遙かに近代的で機能的だ。部屋数も多いし、バスルームがふたつあり、パウダールーム付きの客間までついている。もっともそこは少し前からセフィロスに占領されているわけだが。

 しかし、六人ともなってくると、空き部屋をすべて開放すれば、なんとか個室の確保はできるが、問題はぶっちゃけ人間関係であると思われる。

 考えてもみて欲しい。

 

 俺、クラウド・ストライフとヴィンセント。これはいい。というか、むしろ理想の組み合わせだと俺自身は認識している。そしてヴィンセントもそう思っていると信じたいところだ。

 それにセフィロスが加わる……これだけで、いっきに調和が崩れるのだ。ヴィンセントはセフィロスにひどく遠慮してしまうし、俺にとっても、やはりセフィロスは色々な意味合で特別な存在で……

 そこに核爆弾を投下する勢いで、あの三人組である。

 なんといっても、感情の押さえが聞かないカダージュのことが心配だ。セフィロスもああ見えて大人げないところがあるし、カダージュが噛みついていけば、さきほどのように面白がって相手をするだろう。セフィロスは、興味の対象でない人間にはひどく冷酷なのだ。それは一緒に過ごした、決して短くはない月日のうちに見知っている。

 

 それから怖がり泣き虫ロッズはさておき……ヤズーだ。

 いつも、やさしげな微笑を浮かべ、分別ある振舞いをする彼……だが、一端、逆鱗に触れたら、なにをしでかすかわからない恐ろしさがある。行動形式が容易に見て取れるカダージュよりも、遙かにわかりにくい男だ。そして彼は誰よりもカダージュを大切に思っている。

 となれば、カダージュとセフィロスが対峙するようなことがあれば、すぐさま弟を守ろうとするに違いない。セフィロスvsカダージュ&ヤズー……

 

 ……考えただけでゾッとする。それだけは何が何でも回避しなければ。

 

 ……ここはやはり、俺がしっかりしなきゃと思う。なにより、俺には守るべき大切な人間がいるのだから。

 この俺が頼りないと、すべての負担が人のいいヴィンセントにかかってしまう。

 

 俺は決意を新たに、居間への扉を開いた。

 

 居間の光景は……ああ、なんといえばいいのだろうか。

 決して狭くはないリビングルーム……しかし……やはり大の男が五人もいると、異様な圧迫感がある。

 肉食獣のようにソファに寝そべる英雄……絨毯の上に寝転がって携帯ゲームをしているカダージュ。巨躯のロッズが微動だにしないと思えば、何のことはない。彼は庭に続く開け放しのテラスで寝こけている。

 そして続きのダイニングにヴィンセントとヤズーが居た。

 俺は迷うことなくダイニング組の仲間入りをすることに決めた。

 

「ああ、兄さん」

 俺が声を掛ける前に、ヤズーが気づく。

「クラウド……私たちはちょっと出かけてくるが……」

 思いがけないことを口にするヴィンセント。

「え?え? なんでだよ。ふたりで?」

「なに慌ててんの。ヴィンセントと買い物に行って来るんだよ。夕食、足りないでしょ、材料」

「俺も行く!」

 俺は即答した。だが、困惑顔でヴィンセントに止められる。

「いや、すまないが……クラウドはここに残ってもらった方がいいと思う……」

「ヴィンセント? な、なんでだよ! 俺が一緒に行くの、ヤなのかよ!」

「ク、クラウド……」

 俺の取り乱しように、ヴィンセントのとなりのヤズーがこらえきれず吹き出した。

「ふふふ、兄さんてば、ホントに可愛いなぁ」

「可愛いって言うなッ! そんなことより、俺が一緒に行って来るから、ヤズー、留守番してろよ!」

「い、いや、クラウド……すまないが、セフィロスやカダージュたちのことをよろしく頼む。すぐに戻るようにするから……」

「ヴィンセント〜ッ」

 俺はほとんどベソをかく勢いだった。

 

「そ、そんな、クラウドが……あの……曲解するような……」

「あ〜あ、本当にヴィンセントは口下手だねぇ。あのね、兄さん、急いで買い物をすませなきゃならないんだよ。作る時間もあるしね。だったら、市場について二手に分かれた方が早いでしょ?」

「だからなんだよ! ヴィンセントと二手に分かれて買い物すりゃいいんだろ? それくらいのこと……」

「……その……クラウドは……あまり上手くないだろう……?」

 申し訳なさそうに、ヴィンセントがつぶやいた。

「え?」

「だーかーら」

 と、ヤズーがからかうように、口を挟む。

「だから、さ。買い物がだよ。食料品だからね。ちゃんと品質見なきゃ」

 うっ……と俺は詰まった。

 ヴィンセントと一緒に買い物をしに行くことはよくあるが、俺はいつも荷物持ちをしているだけだ。食料品の善し悪し……ましてや生鮮食品の善し悪しなど見極められない。

 だから、同じ魚を買うのでも、ヴィンセントの選んだものと俺が選んだものでは、塩焼きにしただけで、味の違いが明確にわかってしまうほどだ。

 

「う〜〜〜」

 俺は唸った。

「ね、わかったでしょ、兄さん。じゃ、俺たち、出かけるから」

「……すまないな、クラウド」

「早く帰ってきてくれよな、な? ヴィンセント!」

「あ、ああ、わかった。クラウドの好きなものを買ってこよう」

 やさしく微笑んでそう言ってくれる彼が愛おしい。面白そうにやり取りを見守っているヤズーがいるから、あまり直情的な行動はとれないが。

「ヤズー! ヴィンセントにくっつきすぎるなよ! ヴィンセントはダメだぞ! 俺のなんだからな!」

「ク、クラウド……よさないか……」

「はいはい。じゃ、行こうか、ヴィンセント」

 女性顔負けの艶やかな微笑を浮かべると、ごく自然にヴィンセントの肩に手を添え促すヤズー。

「ああッ、おい、ちょっ……!」

 

「あ、ヤズー! ヴィンセント、どっか行っちゃうの〜ッ!」

「カダ、ヴィンセントと買い物に行ってくるからな。いい子にして待ってろよ」

「うん……つまんないなぁ」

「兄さんが居てくれるから、遊んでもらえ」

「うん!」

 ……俺は子守かよ……

 ふんぞり返って寝そべっているセフィロスには何の期待もできないし……いや、まだケンカにならないだけいいのかもしれないが。

 

 仲睦ましげに出てゆく、ふたりの姿を見て、孤独感に苛まれる俺であった……