Summer Vacation 
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 食卓に料理が並んでいる。

 冷たいセロリのコンソメスープ、牛肉アスパラ巻き、白身魚ときのこのホイル焼き、ツナポテトコロッケ、玉ねぎレモンドレッシング、豆腐の洋風みぞれ餡かけ、だ。

 こんなときでさえも、一切の手抜きをしないヴィンセントに感心を通り越して感動すら覚える。料理を手伝いながら、しみじみそう思った。

 

「いただきまーす!」

 元気よく三人の声が唱和する。兄さん、カダージュ、ロッズだ。セフィロスは、不機嫌そうな顔つきで食べ出すが、ペースが速い。

 手伝っているときに、ずいぶんと余分に作るので、翌日の分かとたずねたのだが、「このくらいはなくなると思う」と、あっさり言い返されてしまった。

 確かに、カダージュもロッズもずいぶんと食べるが……それに兄さんとセフィロスが加わると大変なことになるらしい。

 

「……美味しい」

 俺はつぶやいた。

「ふーん、やっぱりヴィンセントは器用だなぁ。俺もいろいろ覚えていこう」

「……今日は手伝ってもらえたから……」

「今度、レシピ、教えてね」

「あ、ああ」

「ねぇねぇ、ヤズー! このお魚、コンソメ味で美味しい!僕、また食べたい!」

「俺も!俺も!」

 カダージュとロッズは口に合ったようだ。彼の表情の少ない面に僅かながらの微笑が浮かぶ。ヴィンセントがちらりとセフィロスのほうを盗み見る。食が進んでいるか確認しているのだろう。もっとも俺から見て、そんな心配は不必要だと思うのだが。

 

「ええと……あ、あの、セフィロス……スープはどうだろうか? 魚や肉もまだよけいにあるが……」

「もらおう」

 英雄は端的にそう答えた。

「ひいき〜ひいき〜」

「もっと言ってやれ、カダ」

 カダと兄さんが茶々を入れる。本当に子どもそのものだ。

「引っ込んでろ、クソガキどもが」

 形よい唇をナプキンで拭いながらセフィロスが言う。

 顔に似合わず、言葉が悪い。そんなことを思いながら彼の方を見ていると、つい目が合ってしまった。逸らす必要もないので、笑ってみると、「フン」と無視される。

 この人もけっこう子どもっぽいところのある男だ。

 
 
 

 驚くべきことに、ヴィンセントの予言(?)どおり、あれだけよけいに作った料理は完全に平らげられた。これは後かたづけが楽だ。食器はそのままディッシュウォッシャーだし、残りものをまとめたりする必要がない。

「……すごいね、ホントになくなっちゃった」

 俺がしみじみとそう言うと、

「ああ、まぁ、男ばかりだから……」

 と、ヴィンセントがこたえた。ちなみに、その「男ばかり」に彼自身は入っていないように思われる。
 
 見た目どおりというべきか、否か、ヴィンセントは本当に少食だ。これでは兄さんが心配するのも頷ける。

 だが、今さらそれについて突っ込んだところで、適切な回答は得られないだろう。俺は皿をディッシュウォッシャーに並べつつ、別の話題を探した。

 

「さっきさ、食事の時……」

「……ああ」

「セフィロスと目があったんだよね。そしたら、『フン』って無視されちゃったよ、ふふふ」

「……そ、そうなのか?」

「うん。ああ、違うの。気にしてるとか不愉快とかそういうことじゃなくて。あの人も案外、子どもっぽいんだなぁって思って。その、そっぽむいた顔が、いかにも『フン』てカンジでさ」

「いきなり目線が合って、バツが悪かっただけではないのか。ヤズーは見た目がいいから……」

「ちょっとちょっと、何でそんな話になるんだか。もう、面白いなぁ、ヴィンセントは……さてと、終わり」

「ああ、助かった、ありがとう」

「俺には気を使う必要ないってば。むしろこっちのほうが迷惑かけてるようなものだし。さてと……まだ9時前か。そろそろお風呂かな」

「ああ」

「ここ、バスルームの数が多くていいよね」

「そうだな。ふたりだけだったときは、気づかなかったが……」

「ヴィンセント、今のうちに何かやっておくことある? 言ってくれれば……」

 俺がそこまで言いかけたときである。

 

「おい」

 という、低くて強い声。

 図々しくも俺たちの会話を中断させる男が居た。

「あ、ああ……セフィロス……」

 ヴィンセントが弱々しく彼の名を呼ぶ。

「おい、ヴィンセント、外に出る。付き合え」

「え、あ、ああ」

 あっさり承諾してしまう、ヴィンセント。

 そのままズカズカ歩き出す英雄。後をついてくるのが、ごく当然だというように。

 

「行くの、ヴィンセント?」

「あ、ああ……たまにああして散歩に誘ってくれるんだ……今は、ほら、クラウドが風呂でいないから……いると大騒ぎになってしまうからな」

「散歩に?今のが?」

「ああ、最初はよくわからなかったのだが……」

「…………」

「すまない、待たせると機嫌が悪くなってしまうので……ちょっと出てくる」

 そういうと、ヴィンセントは大急ぎでエプロンを外し、小走りに歩き出した。

「ちょっと待って。俺も一緒に行く」

「ヤ、ヤズー? だ、だが……」

「いいからいいから。ヴィンセントはいつもどおりにしててよ」

 俺は不安げな面差しのヴィンセントにそういうと、むしろ彼を追い抜かす勢いで、外に出ていった。