うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

「いいんだよ、みんな。セフィロスのいうとおり、迷惑かけたのはホントのことだもん」

 『だもん』って、40男が言うか!?

「ラ、ラグナさん。そんな……気にされる必要はない。セフィロスは物言いはきつくとも、とても心のやさしい人なのだ。だからこそ、貴方の窮状を見かねて、こちらに連れ帰ったに違いないのだから」

「おい、ヴィンセント!」

 もはや善意的解釈どころか別のストーリーだろ、そりゃ。

「それよりも貴方の身体に大事がなくてよかった。セフィロスもそう思っているゆえ、ああいった発言が口をついてしまったのだと推察する」

「おい、ヴィンセントッ! おまえ、オレの話を……」

「ヴィンセントを怒鳴るな、セフィ!」

「そうだよ、彼はなにも悪くないでしょ。もう少し大人になって頂戴、セフィロス」

 クラウド、ヤズーの順番に文句を垂れられ、怒り心頭に発したときである。アホラグナが、ぼそぼそと口を開いた。

 あてつけがましくも、『いかにも意気消沈した』様子で。

「いや、みんな、セフィを責めないでよ。右も左も分からない場所で彼に会えたのは本当にラッキーだったんだけど…… なんかお店の人に誤解されちゃったみたいで……」

「おい、貴様ッ! よけいなことを言うな!」

 オレは慌ててヤツの言葉を遮った。だが、ヤツは悪気がないのかそれともワザとなのか、つらつらと言葉を続ける。

「言わずにはおけないよ。お店の支配人さん、セフィロスの特別な人なんでしょ? 呼び捨てにしてたし……何となく雰囲気で……わかるし」

「あ……」

 ヴィンセントが小さな声を上げた。ひと騒動起こした場所が、彼の店だとようやく知れたのだ。

「俺がさァ、いかにもセフィロスに逢いたかった!ってカンジで飛びついちゃったからさァ〜。顔には出さなかったけど、不愉快そうだったよね。なんか言い方冷たかったし」

「おい、ラグナ!」

「それに今日はあの人と一緒に居るつもりだったんでしょ? 彼、『連れが居るなら、もう結構』って怒ってたもんね……」

「……よさねーか!」

「なんでよ。だから、セフィロスは悪くないって言ってるんでしょ。一方的に俺に迷惑掛けられた立場だよね。頭に来るのもわかるよ。……彼、機嫌直してくれるかなァ。なんだったら、俺、誤解といてくるよ? 君たちの邪魔をするつもりはないってちゃんと話を……あ、そういえば、彼ってヴィンセントにすごく似て……」

「あー、うるせェ! そのことはもういい! オレの話は終いだ!」

 アホラグナのご託を遮り、オレは立ち上がった。案の定、物のわかったようなツラで、鈍感ヴィンセントが口を開く。

「ラグナさん……彼と私は似てなどいないのだ。いや、多少、容姿に似通ったところはあるかもしれないが、あの人はとても聡明で優れた人物だ。きっと一時的に気が高ぶってしまったのだろう。セフィロスの大切な人なのだ。落ち着けばきちんと理解してくれると思う」

「そうなの〜? うん、品のいい素敵な人だったけどさァ。セフィに『後はおまかせしてよろしいようですね』って、ツーンとして」

 ツーンというように顔を逸らせて、ラグナは黒髪の支配人の真似をしてみせた。

「あっはっはっ! よっぽどセフィロスに身も世もなくしがみついたんだねェ、ラグナさん。あの支配人さんがそんなふうにねェ。何か想像すると可愛いなァ」

「ほとんど、表情変えない人だもんね〜。俺が配達の途中で寄っても、いつもニコニコしてケーキとか出してくれるんだよね。怒ったところなんて見たことないや」

「さすがの支配人さんも、人並みにヤキモチは焼くのか〜」

 ヤズーとクラウドは口々に頷きつつ、言葉を交わす。ヴィンセントはどこか寂しそうな淡い微笑を浮かべつつ、会話に合わせて相づちを打っていた。

 うざってーんだよ、貴様ら!! 似たツラの男が居る前で、その話をするな! 空気くらい読めんのかッ!?

 

 

 

 

 

 

「ところで話変わるけどさ〜」

 支配人談義が終わると、ラグナはひとつ大きく吐息して、あらためて口を開いた。手にはお代わりを注いでもらった紅茶のカップがある。

 ヤツはクラブでしっかりメシを食ったくせに、今、またヴィンセントの焼いたフルーツケーキを、二切れペロリと平らげていたのだった。

「ウチのアホ息子とか『セフィロス』とか、どうやって元の世界に戻ったのかなァ。『セフィロス』の話はよくわからないし、スコールのボケに至っては、そんなことがあったなんて、一言も話さないんだからよ〜! ったく親を何だと思ってんのかねェ!」

「それは……きっとお父上を心配させたくなくて、気を使ったのではなかろうか? 彼はとても配慮のある好青年だから……」

「ギャハハハハ!ヴィンセント、誉めすぎ! あの無愛想で無口なヤツが『好青年』!? あーあ、どうせ、息子が居るんなら、ヴィンセントみたいな大人しくて素直でかしこくてやさしい子だったらよかったのに〜」

「え……あ、あの……」

 鳩が豆鉄砲喰らったような面もちのヴィンセント。

「え〜、でも、ラグナさん。レオンについては、俺も同意見だよ。ちょっと真面目すぎて堅苦しいかなって思う部分もあるけど、すごく頼りがいのある、信頼できる人だよ。あー、こういう男に愛されたら幸せだろうなァって、誰でも思うんじゃない?」

「ヤズーも誉めすぎだってばァ〜」

 と、ラグナ。ものの一、二時間ほどですっかりウチの連中となじんでしまったようだ。なんつーか、ここまで親父と息子が対照的な親子もめずらしいと感じる。

「あー、まぁ、で、本題なんだけど、なんとか帰り方、わからないかな? みんなに会えたのは超ラッキーなんだけど、さすがに向こうの世界で長期不在っていうのはまずいんだよ。回りの連中が大騒ぎしそうだし、仕事のこともあるし」

 そりゃそうだろう、人ひとりいなくなれば。それにこの男の性格からして交友関係は広いに違いない。それに息子が居るとなれば、ヤツには配偶者があるはずだ。

「ラグナさんって、何の仕事してんの?」

 クラウドがミロを啜りながら訊ねた。背を伸ばしたいといっていたガキの頃からずっと飲み続けているのだ。もういい加減あきらめればいいのに。

「へへ、何だと思う?」

「えー、なんだろ〜? 雰囲気的に自由業って感じだけど〜」

 クラウドが首を傾げた。

「そう? 実業家タイプじゃない?」

 とヤズー。どこかの女のヒモじゃねぇの?と思うのはオレだ。ヴィンセントはそういう俗っぽい質問には答えられない。

「えっへっへ、実はね、大統領やってるの!」

 シ……ンと周囲が静まり返った。

 ……は? こいつ、今、なんて言った?

「ま、まったまた〜! ヤダなぁ、ラグナさんってば冗談ばっかしー! 大統領ってお店でもやってるの?」

 とヤズー。オレも同じコトを考えていた。

 『大統領』って名のお笑い師でもやってんのか?などと……

「ううん、大統領。国のだよ?」

「あ、あの……ラグナ……さん? 国のって……いわゆる国家元首というか」

 大抵のことではふてぶてしくツラの色も変えないヤズーだが、さすがに驚いたのだろう。恐る恐るといった調子で訊ね返した。

「うん。こことは別の世界だけどね。エスタって国の大統領。だから、やっぱ早く帰らないとマズイんだよ〜。補佐官も心配するしさァ」

「…………」

「…………」

「…………」

「あ、補佐官ってキロスっつーの。俺の友だち。イイヤツなんだけよ、超口うるさくってさァ〜。すぐ『ラグナくん、軽率な発言は慎みたまえ』とか何とかいっちゃってよ〜。疲れるっつーの」

「…………」

「…………」

「…………」

「……あれ? どうしたの?」

 にぎやかだった連中が押し黙ったことにようやく気付いたのだろう。状況の読めないオッサンは不思議そうに周りを見回した。

「え、いや……ちょ、ちょっと驚いちゃって……」

 ようやく立ち直ったらしいヤズーがつぶやいた。そりゃそうだ、オレだってかなりビックリした。

「ええと……あ、あの、ミスタ・プレジデント……」

「ヤダァ、ラグナたんって呼んでってばァ」

 とヴィンセントの言葉をヘラヘラと訂正する。っつーか、こんな男が大統領で、エスタとやらは大丈夫なんだろうか?

「えー、でも、ホント驚きィ! レオン、何にも言わないんだもん。そういえば、あっちの世界の俺に会ったとき、レオンの親父って有名人だって、『クラウド』が言ってたなァ」

 ソファから身を乗り出して、クラウドが言った。こいつ自身、ホロウバスティオンとやらへ飛ばされた経験があるわけだから、レオンとはオレたち以上に懇意のはずだ。

「あー、あいつはねー。無口で無愛想でね〜。もうホンット、親を親とも……」

「でも、すごいじゃない、大統領なんて!」

 と感嘆するのはイロケムシ。なぜか瞳がキラキラしている。

「……ああ、国家元首……最高権力者で大金持ちかァ」

「アホか、イロケムシ。舌なめずりしてんじゃねーぞ」

「失礼だね、セフィロス。俺は別に権力とかお金につられたりはないからね。……あ、でも、ラグナさん、財産ってどれくらい……」

「ヤ、ヤズー、よしなさいッ! だいたいこんなにのんきにしてはいられないだろう!? 一国の元首という方が、そうそう国を空けていられるものではない。我々も協力して、なんとか早く戻り方を見つけ出さないと」

 真面目なツラでヴィンセントが言った。こいつこそ、まさに地位だの金だのにまるっきり執着のない人物の代表選手のようなもんだ。

「いやねェ、だからさぁ。ホント、なんとかしないとさ…… なんでもいいから分かっていることがあったら教えて欲しいんだよ。きっかけとか……そのときの状況とかさ」

 身振り手振りを交えてラグナは問いかけた。

 だが、その返事は…… ヴィンセントとヤズーが顔を見合わせ、クラウドも黙ってしまう。もちろんオレだって、『セフィロス』の言っていた『空間のよじれ』なんつーもんはわかりゃしない。

 にぎやかだったテーブルに、一瞬沈黙が落ち、やや気まずい雰囲気になったのであった……