うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

 

「あ、セフィ、オハヨ。朝会えなかったね〜」

 まだ湿り気のある髪を、ドライヤーで乾かすこともなく、ラグナは図々しくオレの前の席へ座った。オレは食後の茶を飲んでいるところだ。

「……朝っぱらから元気なことだな。もううちのガキどもを手なずけたのか」

「そんな〜、手なずけただなんて〜。みんないい子たちばっかだから、仲良くしてくれるんだよ」

「ふん、いい年扱いて、ガキと一緒に素潜りか。呆れたもんだ」

 到底好意的とは言い難いオレの物言いに、一端はキッチンに引っ込んだヴィンセントが、心配そうにチラチラとダイニングを覗き込んでくる。

「気候は暑いくらいだし、海、すんごく気持ちいいよ。真っ青で綺麗でさ。まるで宝石箱をひっくり返したみたい!」

 そんなオレの言葉にも何ら不快そうな表情は見せず、あっけらかんと……あくまでも友好的に言葉を続けるラグナ。

 どうも最初の出会いがよくなかったせいか、不愉快な先入観に囚われていたが、そんな自分がバカバカしくなってきた。

「……まァ、ジタバタしても仕方ないだろうしな。それくらいの気持ちで帰れる日を待っていたほうが建設的かもしれん」

「うん、そうだよね。へへへ、ありがと」

「気色悪い。男がヘラヘラ笑うな」

「とりつくしまもないね〜。そゆとこはちょっとあっちの『セフィ』に似てるかも」

 そんなふうにいうと、また嬉しそうにヘラヘラと笑った。オレとラグナの雰囲気がやわらいだのを感じ取ったのだろう。ヴィンセントはキッチンに引っ込んで魚相手に格闘している様子だった。

 

 

 

 

 

 

「セフィ、ラグナさん、焼けたよ〜!」

 クラウドのクソガキが庭先で大声を出す。住宅の込み合った都市部でははた迷惑もいいところだろうが、ここはド田舎の別荘地だ。

 オフシーズンになれば、人通りさえ少なくなる場所である。隣近所への配慮はほとんど無用といえよう。

「まだまだいっぱいあるよ〜! ねぇねぇ、ヴィンセントは! 兄さん、ヴィンセント呼んできてよ!」

「ヴィンセント、まだお刺身捌いてるのかな。ヴィンセントがいないと始められないよ」

「そうだねェ、俺、ちょっとヴィンセントのお勝手手伝ってくるから、貝を焼いていてくれるか」

 カダージュ、ロッズが口々に「ヴィンセント、ヴィンセント」とまるで母親のようにヤツの名を呼ぶ。ヤズーが腰を浮かしたところ、ちょうどヴィンセントが大皿をふたつ抱えて、サンルームからテラスに出てきた。

「おっと、大丈夫、ヴィンセント?大きなお皿!ほら、兄さん受け取って」

「わかってるよ。あ、ヴィンセント、大丈夫、両方取れるよ」

「あ、ああ、すまない。重いので……気を付けて」

 ヴィンセント気に入りのオリエンタル模様の大皿に、白身魚が薄く刺身になっている。まるで店で注文したようなデコレーション……ただ刺身にして並べただけというのではなく、皿の模様を綺麗に透かせた薄切りで、綺麗に円を描くように飾られていた。

「すっごい! これ、ヴィンセントが捌いたの!? これってもう素人ワザじゃないじゃん!」

 めずらしくも誉めてやろうとしたオレ様を差し置き、心から感嘆したといわんばかりに、ラグナのヤツが声をあげた。

「え……あ、い、いや、そんなことは……」

 率直な賛辞に、頬を染めるヴィンセント。どうやら人見知りのこいつも、ラグナに対しては警戒心が薄れている様子であった。

 さもあろう。

 朝っぱらからガキどもと、クソ健康的に海に飛び出し、先を争って獲物を収穫してくる40オヤジだ。あまりに健全過ぎて、警戒も何もあったもんじゃない。

「セ、セフィロス……き、君は、さきほど食事を取ってしまったばかりだから……あまり食欲がないかもしれないが……その……朝の方は私がもう少し時間を考えて作ればよかったのだな……すまない」

「はァ? 別におまえの気にすることじゃないだろ。大の男ならこの程度朝飯前だ」

「そ、そうか……? それならいいのだが。あ、あの飲み物は……」

「今、イロケムシが行ってんだろ。それよりおまえこそきちんと食え、軟弱者!」

「セフィ! ヴィンセントにきつい口聞くな!」

「そーだそーだ!」

「ガキどもは黙ってろ!」

 クソうるさいチビどもを一喝すると、話の当人のヴィンセントが、

「セフィロスは私を気遣ってくれているのだから……」

 などと、善意という言葉では言い表せないほど能天気なフォローをしていた。それを見ながらラグナがニヤニヤ笑っている。

 ウザッたくないといえばウソになるが、わざわざ口に出して咎めることでもないので、そのまま刺身を食う。

 釣ってきたばかりの魚の刺身は、お世辞ではなく本当に美味かった。

 オレの様子をさりげなく覗うのがもう癖になっているのだろう。ヴィンセントがチラチラとこちらを見ていたので、

「ああ、美味い」

 と口に出してうなずいて見せた。すると、ガキふたりと、ラグナが身を乗り出して、

「でしょーっ!?」

 と同意を求めてくる。我が家のガキどもはともかく、いい年扱いて子供と同調するな大統領が!  ホントにエスタとやらはこの男を首脳に仰いでやっていけてるのだろうか?いっぺんこの目で確かめてみたい気さえする。

「ほらほら、セフィロス、こっちも食ってみてよ。白身魚ってさっぱりしてて美味しいよね!」

 ラグナがぐいぐいと大皿の刺身をすすめてくる。

「捌き方がいいから味が引き立つんだろ」

「ああ、やっぱりねェ。俺も包丁使いには少々自信があるんだけど、いつまで経ってもヴィンセントにだけはかなわないなァ」

 皆の分の飲み物を携えて(とはいっても缶ビールだのなんだのといったようなものだ)、ヤズーが席に戻ってくる。

 ……クソ。こいつに聞かれたんなら、言わなきゃよかった。ヴィンセントを誉めるのがイヤなのではなく、コイツはすぐに物のわかったようなツラでにやけた笑いを浮かべるのだ。そいつが不快だ。

「セフィロス、何飲む? ビールはやめておいたほうがいいよね。二日酔いだったんだから」

「ビールよこせ」

「ホント、あなたって天の邪鬼で性格悪いよねェ」

 などと言ってくる。ツラは綺麗に整っているが、すぐに他人の揚げ足を取る、根性のひん曲がった野郎なのだ。