うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

 

「プッハー!ビール最高!こういう暑い土地のビールって、さっぱりしててキレのいいのが多いよね。エスタはわりと涼しいからさ。コクのあるタイプのヤツが多いんだ」

 あっという間に一缶空けて、大げさに口をぬぐうラグナ。こいつ、昨夜オレと逢う前にもさんざん飲み食いしていたくせに、どういう胃袋をしているのか……

 次々と焼けてくる貝を手づかみで貪り食う。クラウドやガキどもの食欲と変わらないのだ。

「あー、おいしい!技巧をこらした料理もいいけど、たまには海の幸そのまんまっていうのもオツなもんだね、ヴィンセント」

「ああ……やはりそういうものなのだろう。自然の恵みとはありがたいものだな」

「ちょっとお子さま組、こういうのが大人としての発言なんだからね。よく聞いておきなさい」

「ヤ、ヤズー……や、やめてくれ、私はそんな……」

 ちゃっかりととなりの席をキープしたイロケムシが、掛け値なしにヴィンセントを誉める。

 腹黒くねじ曲がった根性の持ち主であっても、やはり天然のお人好し相手では分が悪いのだろう。大抵、ヤズーの口がヴィンセントを語るとき、そいつは誉め言葉ばかりになるのだ。

「うう〜、上手く取れない〜。アワビとかサザエって美味しいけど、貝類は食べにくいよね〜」

 カニの身さえも上手くほぐせないクラウドが、ぶつくさと文句をいう。不器用なところはガキの頃から変わりゃしないのだ。

「ああ、そうじゃない、クラウド…… ナイフの刃を立てては危ないだろう? もっと下から……」

「だって、上手くできないんだもん」

 昔同室だったザックスにいうように、口を尖らせるクラウド。ちいとばかり大人になったかと思ったが、どうも年上の恋人を得てから、よけいに甘えが強くなった様子だ。

「セフィ、取ってよ!」

「自分でやれ、クソガキ。食うのに忙しい」

 素っ気なくそういうと、チェ〜ッとばかりに頬を膨らませる。かつては追う者と追われる者……命の奪い合いをしたことさえあったのいうのに、おかしな具合だ。

「クラウド、貸してみろ」

 案の定、ヴィンセントが見ていられないというように、さっさと焼けた貝にナイフを入れる。

 するとまるで魔法のように、するりとアワビの身が貝から外れるのだ。コツがあるのか、奥まで繋がっているはずの、サザエでさえも細い串一本で取り出してしまうのだ。

「すっごい、ヴィンセント!」

 やはり同じように悪戦苦闘していたカダージュが目を丸くする。身汁だらけのラグナとロッズもびっくりしたように、ヴィンセントの細い指に見入っていた。彼の白い手はほとんど汚れてなどいなかったからだ。

「ああ……コツが掴めれば……そう難しいことでは…… ほら、クラウド」

 皿に取ったそれらを、クラウドに戻そうとすると、甘えたクソガキは、

「あーん」

 と子犬のように口を開けた。

「ク、クラウド……よしなさい。子供ではないのに……」

「えー、いいじゃーん。たまには〜。そのほうが美味しいし〜」

「ったく恥ずかしげもなくクソガキが。本当におまえは修習生時代から成長しておらんな」

 困惑するヴィンセントを横目に、叱りつけてやると、敵も然る者、ぬけぬけと唇を尖らせ口答えをする。

「なんだよ、そんなことないもん。いつもはしっかりしてるもん。でもたまにはいいじゃん」

「なーにがたまにはだ!あー、見ていてこっちが恥ずかしくなってくる!」

「なんだよ、セフィだって、あーんって……」

「クソバカバカしい。昔のことは言うな、ボケが!」

 ケッとそっぽを向くと、ヴィンセントが致し方なさげに、ハシで貝の身をつまんでクラウドの口に入れてやった。

「美味しいーッ! 汁がジューッって!」

「ずるい〜!兄さんばっか! 僕も僕も!」

「カダはさっきヤズーに取ってもらったろ!」

「ラグナさんも〜ッ!」

 呆れたことにピーチクパーチクと、40オッサン・ラグナも加えたメンツは口々にヴィンセントからの「あ〜ん」をねだるのであった。

 人の好いヴィンセントは、自分が食べることも忘れて、こいつらのリクエストに応えてやる。

 ……そして、たぶん、こういうコミュニケーションが、ヴィンセントにとってはひどく心地よいものなのだろう。

 まったく面倒くさそうな素振りなど見せずに、それどころか淡い笑みさえ浮かべつつ、嬉しそうに皆の要望に応えてやっていた。

「もぉ、みんな! そんなわがままばっかり言っていたら、ヴィンセントが全然食べられないでしょ!」

 イロケムシがさっさと一括すると、これまた器用にほじくり出した貝の身を、ヴィンセントに向けて、

「あ〜ん」

 と差し出すのだった。

「え……あ……あの……」

「ほら、ヴィンセント、汁が垂れちゃう。あーんして」

「だ、だが……あの……その……」

「ハイ、あーん」

 鉄の笑顔と共に、差し出したそいつを、イロケムシの野郎はみごとヴィンセントの口に押し込んでやるのであった。

 とても『若者世代にはついていけない』というのか、もごもごと俯きつつ咀嚼するものの、耳まで真っ赤にしてしまうヴィンセント。

 案の定、恋人と自認しているクラウドが切れかかるが、言葉のやり取りはイロケムシのほうが数枚上手であっという間にやり込められていた。

 その様子を見て遠慮なく笑うラグナ、それからガキ共。ぷうっと頬を膨らませたクラウド。悪魔の微笑を浮かべるヤズー。

 そして……そして何ともいえなく嬉しそうな……愛おしげな眼差しで皆を見つめるヴィンセント。この日、この時、この瞬間を、この男がどれほど大切に思い……その気持ちを心に刻みつけているのか……それがわかってしまいそうな面もちで。

  

(あ…………?)

 オレが無遠慮にツラを盗み見ていることに気付いたのだろう。ヤツは音にならない声を発し、恥ずかしそうに出会った目線を慌てて逸らせた。

 アホか。

 クラウドならばともかく、おまえの抱え込んだ悩みを知り尽くしているオレ様相手に恥ずかしがっても仕方がないだろうに。

 とりあえず、今現在、そうして笑ってられるなら、それでいいだろ。

 ここには何もおまえを脅かすものなどないし、仮に今後そういうことがあったとしても、ここにいる連中が全力で取り除くだろう。

 望む限り続く、のどかな日々をゆったりと楽しめばよいものを、そうできないのがコイツの性分なのだろう。

 サンサンと照りつける真夏の太陽に、心地よい海風。

 都会の喧噪とはまるで無縁な、田舎町のさざ波。

 安心しろ、ヴィンセント。

 ほら、ここはおまえの望んだ地上の楽園。怖いものなど一つも無い。何も心配する必要などないのだ。何より、おまえを守っているのは、どこの誰だと思っている?

 

 そんな気持ちをこめて、あらためてヤツの顔を覗いてみると、彼は白い頬を僅かに上気させて淡い微笑を返してきた。

 ああ……世の中、平和だ。

 ただひとり、別世界からやってきちまったというオッサンを抜かしてだが。