うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

  

 

 

 

「あ、ヴィンセント、ごめんねェ、荷物ほったらかしにしちゃって」

「いや、大丈夫だ。冷蔵庫に入れておいた。……それよりも大変だったな、ヤズー」

 氷を浮かべた冷たい飲み物を淹れてくれるヴィンセント。本当に気の付く人だ。

「ううん、俺はいいんだけど。……ウチに連れてくるのはちょっと無謀だったかなァ。まったく宛てもないようだし、悪い人じゃなさそうだったから」

「いや、倒れていた人間を放っておくわけにはいかないだろう。すぐに浴室に案内したから、ほとんど会話しなかったが荒んだ印象はなかった。よさそうな青年ではないか」

「うん……俺もそんな気がしてね。カダも同じように言うし……」

 苦笑しつつそう答えた。

 

 あの後、困惑する彼を家に連れ帰ったのだ。無謀かとも思ったのだが、ヴィンセントのいうように、俺より少しばかり年長に見えるその青年は、とてももの静かで穏かで……ああ、そういうよりも、『生真面目』を絵に描いた風……といってやったほうがいいだろうか。そんな雰囲気だったのである。

 

 ヴィンセントとそんなことを話していると、浴室のドアが開いた。

 ずいぶんと早い。おそらく我々を気遣っているのだろう。

 

「……すまない、迷惑を掛けて」

 ボソリと低い声で彼は言った。

「困ったときはお互い様でしょう。それより怪我はない? 大丈夫だった?」

「……ああ」

「では、居間へ……飲み物を用意しよう」

 ヴィンセントがやわらかく言った。

 まだ、なんとなくぼんやりとしている様子であったが、幸い、怪我をしているようには見えない。やはり熱中症ではないかと思われるのだが、それにしてはどうも不可解な事が多すぎた。

 

 彼を促し、ソファに座らせる。セフィロスは部屋に居るらしく、この非常時に、さらなる混乱がもたらされる心配は、当面無いようであった。

 

「……はい。ハーブティーは大丈夫だろうか? カモミールは気持ちを落ち着かせるから……」

 彼が風呂に入っている間に、わざわざ作ったのだろう。

 普通カモミールは温かい状態で飲むものだが、あえてアイスカモミールにしてあった。

「……ありがとう」

「ねぇ、君の名前、聞いてもいいかな? 何て呼んでいいかわからないし」

「……ああ、失敬した。俺の名はレオンという」

 ……『レオン』?どこかで聞いた名だ。うかつにも俺はすぐに思い出すことができなかった。

「レオンだね、じゃあ、そう呼ばせてもらうよ。俺はヤズー、よろしく」

「私は……」

 俺にならってヴィンセントが名乗ろうとしたときであった。不意にレオンが口を開いた。

 

「……あなたは、ヴィンセントさんだろう?」

「……え?」

「ヴィンセント・ヴァレンタインさん……だな?」

「そ、そうだが……な、なぜ……」

「ヴィンセント、知り合い?」

 となりのヴィンセントに声を掛ける。

「い、いや……初対面だと思うが……」

「ああ……やはり、な」

 そうつぶやくと、彼はくしゃりと髪を掻き上げ、頭を抱えた。

「レオン? どういうこと…… あ……? レオン? 『レオン』!?」

「……正式にはスコール・レオンハートという。レオンでいい。……先だっては『クラウド』が世話になったな」

 彼は惚けたままの俺たちに、そう告げたのであった。

 

 

 

 

「ほう、おまえがあの子の『レオン』か。なるほどなァ」

「ちょっとォ……セフィロス、不躾だよ、いきなり」

 俺は小声でセフィロスをたしなめた。

 あの後、居間での騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。とにかくトラブルやハプニングが大好きな無責任男である。

 

「ごめんねェ、ウチの無神経男が」

「だまれ、このイロケムシ」

「あ……いや、かまわない。……あなた方にはあいつがずいぶんと世話になったようだ。こんな形で対面することがあるとは思わなかったが、あらためて礼を言わせてもらう。世話をかけた、ありがとう」

 彼はきっちりとそう言った。見た目通り……というか、第一印象の通りに、誠実で真面目な人物であった。

 

「ウチのクソガキもおまえの世話になったんだろ。あいこだ」

 物言いは悪いが、俺の言いたいことをセフィロスが言ってくれた。ヴィンセントも言葉を重ねる。

「そうだな……こちらのほうこそ、クラウドがひどく迷惑を……あ、いや、よくわからないが……あの……あの子は悪気はないのだが……いささか強引なところがあって、君の手を煩わせたかもしれない。あらためて礼を言わせていただきたい」

 おずおずとヴィンセントがつぶやいた。兄さんという人を、よくよく知っているからこそ、このレオンという人物が被ったであろう迷惑が想像できるのであろう。いささか恥ずかしげに見えるのが微笑ましくさえあった。

「……いや……そんなことはない。それにしても……あなたは話通りの人だな。最初、彼らに助けられたときは、『あの別世界』だとは気づかなかったが、この家に連れられ、あなたに会ってすぐに確信した」

 静かな声音でレオンが言う。

「……え……? あ、あの……どういう……?」

「こっちのクラウドの言葉通りの人だ。……黒髪に紅い瞳……夢見るような佳人だと聞いた」

「……え? え……そ、そんなことは……」

「それから、とても物静かでおとなしやかで……やさしくて慈しみ深くて……可愛くて……ええと、後は何だったかな」

 くすっとレオンが笑った。厳しい表情がやわらかく崩れると、穏やかでやさしげな面立ちをしているのだと知れる。

「あ、あの……もう……そんな……」

 気の毒に、ヴィンセントは耳まで真っ赤だ。セフィロスが横目で眺めて、ニヤニヤと笑っている。

 別にレオンはヴィンセントをからかっているわけではない。記憶の糸を辿りながら、兄さんの言ったことを正確に思いだそうとしているだけだ。

「やれやれ、ったく恥ずかしげのないガキだな、あいつは。初対面の人間相手にベラベラと」

「あ……いや、不快な印象はまったくなかった。彼はあなた方の話をずいぶんとしてくれた。おかげでこうして初めて逢ったにもかかわらず、親しみを感じてしまう」

「そうなんだ? ね、じゃあ、俺のことは何て言ってた?」

 興味半分で訊ねてみる。

「あ、ああ……そう……ヤズーのことは、最初、女性だと思ったそうだ。見たこともないような美人と言っていたな」

「そう、素直な人だねェ」

「アホか、イロケムシ」

「失礼しちゃうねェ、セフィロスは。まぁ、俺たちも君の話は『クラウド』兄さんから色々と聞かせてもらったし」

「ああ、そうか」

「……君も印象のとおりの人だ」

 独り言のようにヴィンセントがささやいた。場が静かでなければ聞き逃してしまいそうな小さな声だった。