うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 

 

 

 午前八時半……朝食が完成し、皆揃っての朝御飯となる。

 健全で非常に良いことだと感じる。

 

 俺がヴィンセントさんの手伝いを開始したのが午前七時半前。それからちょうど、一時間後に朝食になったわけだ。

 ここまでの流れを概観すると、まず八時前にセフィロスが起きてきた。いかにも朝風呂を終えましたという雰囲気で、ローブそのままのしどけない格好だ。

 ヴィンセントさんが挨拶をするのに、適当に頷くと気怠げにソファに横になる。ヤズーの取ってきた新聞を眺め、大あくびをしている。その様子を微笑を浮かべたまま眺めるヴィンセントさん。本当にこの人は神か仏かという雰囲気だ。超越している。

 

「にゅんにゅんにゅん!!」

 子猫のヴィンがタカタカとソファに走り寄り、セフィロスにじゃれかかる。ごろりと反対側に寝返りを打って、鬱陶しげに無視するがチビ猫はあきらめない。小さな身体で必死にジャンプし、セフィロスの懐と新聞の間に潜り込んでしまった。

 邪険につまみ出すかと思って眺めていたのだが、意外にも彼は猫を抱いたままの、不自由な姿勢で紙面を辿っていた。

「ふふ……彼はヴィンと仲良しなんだ…… やさしい人だから、動物にもそれがわかるのだと思う」

 ヴィンセントさんが、さりげなく俺に耳打ちした。

「……え……? あの……」

 誰の話をしているのだろうか? 

 流れ的には、セフィロスのことだと思うのだが……

「クラウドなどは、自分が拾ってきたのにと言って怒るのだが…… あの子は遊びたいときだけひっついて猫の相手をしているから……セフィロスは態度が一貫しているからかな。安心できるし、信頼があるのだろう」

「……はぁ」

 

「おっはよー、レオン! ねぇねぇ、聞いて! 今日から、僕が配達に行くの!」

「『僕』じゃないだろ! 僕たち、だ、カダージュ! ふたりで行くんだからな!!」

「わかってるよ! 兄さんのね、仕事、手伝うの! あ、ヴィンセント、おはよ! ごはん!」

 ぴょんと跳ねるようにしてヴィンセントさんにくっつくカダージュ。本当にこの家では彼が母親代わりなのだろう。

「ああ、おはよう……カダージュ……ロッズ。さぁ、座って」

「うん!おいしそー!」

「いただきまーす!」

「……朝早くからすまないな……ふたりとも面倒をかけるが……」

 飲み物の準備をしながら、ヴィンセントさんが静かな声音でささやきかける。

「何言ってんの! 全然、そんなことないもん! それよりね、僕が配りに行くと、お店の人、『ありがと』って言ってくれんの〜。この前なんか、ジュースもらっちゃった〜!」

「俺『たち』だろっ! 重い物は俺が運んでるんだからな!」

「ロッズは乱暴だもん! 僕がちゃんと伝票見てるから間違えないんだぞ!」

「なにをー!」

「あー、ほらほら、よしなさい、ふたりとも。でもホントに頑張ってくれてるよねぇ。俺も鼻が高いよ」

 ちょうどよい頃合いに、ヤズーが口添えをした。本当にこの人は、話の呼吸を読み取るのが上手い。

「ホント? ねぇ、本当、ヤズー!」

「俺たち、役に立ってるよね?」

「ああ、もちろん。ねぇ、ヴィンセント?」

「ヤズーのいうとおりだ。二人が居てくれてとても助かっているし、頼もしい。ありがとう……カダージュ、ロッズ……」

「てっへっへ〜ッ!」

「まかせてよ!」

 ふたりはそれぞれ、嬉しそうに笑い合うと、すぐに食事に入った。さすが成長期、気持ちのよい食欲である。

 

 クラウドが不在のときや、猛繁期は、こうして彼らが、配達の仕事を手伝うらしい。さきほどのやり取りなど、その様子を眺めていると、ずいぶんと楽しそうに見える。

 きっとヤズーやヴィンセントらに期待され、家族の一員として頼りにされているのが誇らしいのだろう。

「ねぇねぇ、レオン! 今日の分は、昼過ぎ……うーん、夕方前には終わるからさァ、そしたら、泳ぎに行こうよぉ! ね?ね?いいじゃん!」

 ぐいぐいと俺のシャツを掴み締めてカダージュがねだる。頬にメシ粒が着いているのがご愛敬だ。

 この子は見たところ17,8に見えるが、行動はずいぶんと幼い感じだ。もっともうちの『クラウド』もイイ勝負なので、人のことを言える義理はないのだが。

「あ、ああ、だが……」

「ね?ね? だって、レオンと遊ぶ時間、なかなかないんだもん!どうせ、レオンだって、この前来た兄さんみたいに、すぐ自分の世界、帰っちゃうんでしょ?」

 ぶぅと頬を膨らませて、そう宣うカダージュ。

 今現在、そのために、精神をすり減らして思考、思索を重ねているワケなのだが……こんな風に屈託なく口に出されると、なんだか枷が外れたような心持ちになる。

「ねぇねぇ、ねぇったらー! いいじゃん、ちょっとくらい〜」

「……え……あ、ああ、だが……」

 もちろん、『クラウド』のことは心配だし、一刻も早く、彼の側に帰りたいという気持ちは変わらない。だが、不思議な縁でこの場所にやってきたのだ。

 時間の許す限り、弟のように慕ってくれる連中と、交流を持つのも悪いことではないと感じた。

 心配そうにこちらを眺めているヴィンセントさんの視線も気になる。俺はカダージュの髪を撫でながら口を開いた。ボディコミュニケーションを好む『クラウド』と一緒にいるせいだろうか。ついつい行動が伴ってしまうのだ。

「……そうだな。じゃあ、おまえたちが配達から戻ってくるのを待っているから。十分に気をつけて安全運転で行ってこいよ」

「うんッ! 大丈夫、気をつけて行ってくるッ!」

 カダージュが満面の笑みを浮かべてそう言った。

「ぜったい、待っててよ、レオン!」

 と念を押すのはロッズ。

「ああ、もちろんだ」

 ホッ……とヴィンセントさんが、吐息した。本当に他人の心配ばかりをしている人だ。こういうところは、美徳なのだろうが、控えめでおとなしい彼のような人が、ここまで遠慮深いと逆に痛々しく感じてしまう。

 

「おやおや、ふたりともよかったねェ。でも、あまりワガママを言ってレオンを困らせてはいけないよ」

「はーい、わかってるもん!」

「ヤズーも一緒に行こうよ!」

「俺は晩ご飯の仕度があるからね。さ、そろそろ時間だろ、ふたりとも」

 ヤズーがそういうと、残ったピラフを、カカカカッと一挙に掻き込むとふたりは、跳ねるように飛び出していった。ヴィンセントさんが慌てて後を追ってゆく。セフィロスはおかしいまでに無関心だ。

「行っていきまーす、ヴィンセント!」

「行ってきますッ!!」

「ああ、行ってらっしゃい。ふたりとも車に気をつけて……レオンはちゃんと待っていてくれるから、慌てて無茶をしてはいけないぞ……」

「わかってるもーん。……へへへッ、ヴィンセント、チューして?」

「あ、俺も、俺も!」

「……ふたりとも気をつけて」

 やわらかく苦笑すると、ヴィンセントさんは、カダージュとロッズの額に、チュッと軽いキスをした。

 ふたりが満足そうにバイクにまたがり、颯爽と姿を消すまで、ヴィンセントさんは、ずっと玄関の前に立って見送っていた。