うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、レオン……」

 なんとなく彼の姿を追っていた俺に気づいたのだろう。ヴィンセントさんは、こちらを見遣ると、小さくつぶやいた。

「ご苦労様だ、ヴィンセントさん」

「……そんなことはない……」

「経緯は知らないが、そっちのクラウドが家の連中はクセのあるヤツらばかりだと言っていた。だが、あなたを中心に穏やかで居心地のいい空間が築かれている」

「それは……いささか誉めすぎのようだ、レオン。……私は何もできないから……あの子たちやヤズー……セフィロス……そしてクラウドが居てくれるから、なんとか毎日暮らしていける」

「自己評価もそこまで低いと、冗談なのかと思えてくるが……」

「君はいい人だな、レオン」

 そんな風に言って、にこりと彼は微笑んだ。

 アンティックドールを思わせる、白皙の相貌が、やわらかく崩れると、魅惑的な表情が浮かび上がる。

 ああ、本当にこの人は不思議な人だ。まるで幼い頃に読んだ、物語本の中に出てくる登場人物のように、不可思議で曖昧な雰囲気を持っている。こうして目の前に居るというのに、目に見えないガラス壁で区切られた、別次元に生息するような不確かさを感じさせる。

 こちらの世界のクラウドの言葉を、信じていなかったわけではないが、こうして実物に逢って会話すると、彼の言葉に嘘はなかったと思い知らされるようだ。

 

「……レオン?」

「あ……いや、失敬。見とれていた」

「は……? あ、あの……」

「ああ、いや…… なんというか、皆の関心の的なのだな、ヴィンセントさんは。本当に誰からも愛されている。クラウドの言うとおりだった」

 朝っぱらから行う、日常会話とは言えないだろう。だが、俺は思ったことを後回しにして機を窺ったり、思いもしない空事を口にするような器用な真似はできないのだ。

「ええ……ッ? あ、あの……君は大げさだ。私など……本当にできることしか……していないし。皆に助けてもらっているのは……私の……方だし」

「その心根のせいなのだろうか。クラウドの心配がようやく理解できたような気がする」

「……え……?」

「え〜? なになに、何のこと?」

 割って入ってきたのは、ヤズーだった。興味津々という表情だ。

「フフン、どうせあのおしゃべりなクソガキのことだ。きっとホロウバスティオンでも、おまえの話ばかりしていたんだろうよ」

 ガサガサとページを手繰りながら、セフィロスがそんな風に言葉を挟んだ。再び彼の懐に潜り込んできた子猫が、ニャコニャコと転げ回って遊んでいるが、そのままに放っておいている。

「セ、セフィロス……そんな……いくらクラウドでも……初対面の人に……」

「なぁ、どうせ、そんなところだろう、レオン」

「セフィロスの言うとおりだ。クラウドに出会ったその日……というから、そのときから、家族の話ばかりだった。特にあなたのことを……ヴィンセントさん」

「ク……クラウド……」

「ホレ見ろ」

 フフンとセフィロスが笑った。鼻先に引っかけるような意地悪な笑みは、彼の整った面立ちによく似合っていた。

「あなたがどんなふうに笑うか、どんなふうに物を言うか、どんなふうに自分を抱きしめてくれるか、自分の言葉にどう反応するか…… そして、どれほどあなたのことを愛しているか……少々こちらが困惑するほどに、語って聞かせてくれた…… ふふッ……ああ、失敬……」

 そのときのクラウドを思い出し、ついつい笑みがこぼれる。それをどう解したのか、ヴィンセントさんは気の毒なほど、真っ赤になった。

「レ、レ、レオン……もう……そんな……は、恥ずかしくて……と、とてもまともに聞いては……」

「そして、コスタ・デル・ソルはライバルだらけだと文句を垂れていた」

「え……ええッ? な、なにを言っているのだ……彼は……」

「それで、それで? ライバルって誰? ねぇねぇ俺、入ってる?」

「ヤ、ヤヤヤヤヤヤズー! よ、よしなさいッ!」

「いいじゃない。カダたち、いないんだし。兄さんがどう認識しているかは、とっても重要だからねェ、俺的には」

 にぃっと形のよい口唇を笑みの形に持ち上げ、ヤズーが問うた。女性顔負けに整った容貌が、一挙に凄みを増す。

 

「一番、敵視していたのは、セフィロスだったな」

「フフン、それは光栄」

 すかさず、かつて英雄と呼ばれた男はそう応じた。

「ヤズーもカダージュもロッズもヴィンセントにくっつきすぎと地団駄を踏んでいた」

「ええ〜? ちょっと待ってよ、俺、カダたちと同列〜? なんか納得いかないんだけど〜」

「残念だったな、イロケムシ」

 ケッと悪態をつくセフィロス。

「なんだかつまんない。そんなんだったら、もうちょっと仲良くしちゃってもいいよね〜? そう思わない、ヴィンセント?」

「ヤ、ヤズー!」

「それにしてもやっぱり、セフィロスは信用ないよね〜。まぁ、ホント、当たってるというか、恋するものの直感というか」

 ツケツケと物を言う彼を、慌ててヴィンセントさんが止めた。

「ヤズー! も、もう、よしなさい! 埒もないことを…… す、すまない……セフィロス。クラウドはなにか誤解しているようだ。戻ってきたら、私のほうからきちんと話をしておくから……どうか気を悪くしないでほしい」

「フッフッフッ……そうそう、落ち込んでいるより、そうして気を張っているほうがいいかもしれんぞ」

「え……あ、あの……」

「さて……いい時間だな。……おい、レオン、出掛けるぞ、着いてこい」

 ラックに新聞を放り投げると、セフィロスはさっさと立ち上がった。

「わかった。だが、午後は彼らと約束がある。遠出はできない」

「あたりまえだろ。話がてら昼飯前の散歩だ。午後は日差しが強くなるからな。外を歩くなら昼前だ」

「承知した」

 ……ちょうどいい。

 俺はセフィロスに訊ねなければならぬことがある。昨夜だとて、本来はその話をするために、彼の部屋へ立ち寄ったのだ。間が悪くヴィンセントさんに失礼をしてしまったが、きちんと別件があったのだ。