うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いってらっしゃい……ふたりとも」

 さきほどと同じように、ヴィンセントさんは必ず家の前まで出てくるのだ。セフィロスなど、振り向きもしないのに、彼は愚直なまでに家族の誰に対しても同じように振る舞う。

 さっさと前を行くセフィロスに気を引かれつつも、俺はヴィンセントさんに確認した。

「ヴィンセントさん、他に今日の予定は? 何かすることはないだろうか?」

「あ……い、いや……何も?」

「昼食は? 何時だ?」

「こ、子どもたちが帰ってからだから……13時過ぎだと思う……」

「承知した。では正午前に戻ろう。俺も手伝うから」

「そ、そんな……あの……気にしないで……」

「他には?」

「……は?」

「他には何か無いのか? 買い出しとか掃除とか、家の補修とか……」

「い、いや……」

「では正午に!」

「は、はい……」

「さっさとしろ! 置いていくぞ、レオン!」

 気の短いセフィロスの声に、俺よりもヴィンセントさんの方が、びっくりして飛び上がりそうであった。

「ほ、ほら……早く行きたまえ! セフィロスを待たせては……」

「わかった。すまないな、ヴィンセントさん」

「気をつけて……」

 俺はすぐにセフィロスに追いついた。この人は長身だし、歩幅が広い。どちらかというと俺も歩くのが速くて文句を言われる方だが、彼とはテンポが合うようだ。

 

 

 

 

「……で?」

 口火を切ってきた……というか、先に声を掛けてきたのはセフィロスのほうであった。

「昨夜わざわざ部屋までやってきたんだ。あの最悪のタイミングでな。……何か話があったんだろ?」

 小気味のよい反応が心地いい。

「……俺が尋ねたいのは『セフィロス』のことだ」

 すぐさまそう返した。

 同じ『セフィロス』相手に不躾かとは思ったが、歯に衣着せた物言いはできないのだ。

「……おまえの世界の変態野郎のことか? オレはそいつに会ったこともないんだぞ」

「知っている。だが……同じ『セフィロス』だ。アンタに会って、話をすれば、少しは彼のことも見えてくるのではないかと期待した」

「ほぅ……」

 からかうようにささやくと、彼は少し高いところにある目線から、俺を睨め付けた。

「『セフィロス』……か。ヤツのことを尋ねてどうするというのだ? あの子のために闘うのか?」

 挑戦的に彼はそう言った。

「違うんだ。そうじゃない」

 そう言っておいて、次の言葉を模索する。おのれの中では思考が定まっているものの、それを他者に正確に伝達するのは難しい。だが、同じ『セフィロス』に、もう一方の人間を打ち倒すつもりであると、誤解されたくはなかった。

 

「そうじゃないんだ。……俺は『セフィロス』を理解したい。そして彼を……その……」

「…………」

「……その……何と言えばいいのだろうか…… 『クラウド』とは異なるが、あの人のことも放っておけないんだ。いや、わかっている。よけいなことかもしれないということは!」

 セフィロスが何か言う前に、すぐさまそう釘を刺した。よけいなことだと逡巡する気持ちはずっと以前から抱いていたのだから。

「話をすると長くなるから割愛するが……アンタだって、『クラウド』に会ったならばわかるだろう? あの子をああいうふうにしたのは『セフィロス』だ。普段は快活でごく普通の青年と変わらないのに、未だに不安定なままだ。それだけ『セフィロス』に植え付けられた病巣は根深いんだ。……もちろん、『クラウド』自身がそういった資質を秘めていたからと言えるだろうが」

「『よけいなことかもしれない』ではない。よけいなことだ」

 彼は平坦な口調でそう言いきった。

「……セフィロス、待ってくれ!話を……」

「……それで?」

 セフィロスは抑揚のない声音でつぶやいた。

「……え? なに……」

「だから、『それで?』だ。……最初に言っておくが、オレは、もうひとつの世界の『セフィロス』のことなど知らないし、オレからヤツのことを聞き出そうとしても無駄だ。ハンパに関わるくらいなら、いっさいの手出しはするな。……ようやくまともになりつつある『クラウド』までも傷つけることになるぞ」

「………………」

「……『セフィロス』のことは放っておけ。おまえはあの子のことだけ見ていてやれ」

「……! アンタは……アンタは『セフィロス』を目の当たりにしていないからそんなことが言えるんだッ! 俺は『クラウド』を理解してやれる!ならば同じ病巣をもつ『セフィロス』のことだってわかってやれるはずだ!」

「……わかってやって? それでどうするのだ?」

 氷のような双眸が俺を見る。

「凝り固まった『セフィロス』の心を融かしてやって? それで? その次は?」

「……え……?」

「そいつが今の『クラウド』のようになったらどうするつもりだ? あの子の言葉を思い出してみろ。『レオンがいないとおかしくなる。レオンがいないと生きていけない。レオンだけがオレを見捨てたりはしない。気味悪がったり嫌がったりしない』……すべてあの子が口にしたセリフだ」

「…………」

 俺は虚をつかれる形となった。どの言葉も聞き覚えのあるものばかりだったからだ。

 ごく日常生活の中でも、ほんの少し不安なとき……そして閨事の最中など……『クラウド』が素のままの彼でいられるとき、そういったことを口にしていた。

 

『レオン……オレ、レオンが居なくなったら死んじゃう』

『……いや……独りは怖い……独りにしないで……ずっと側に居るって約束して』

『レオン、オレのことちゃんと好き? 本当に本当だよね? レオンだけはオレことキライにならないよね?』

 繰り返される、胸の痛くなるような言葉……必死に縋り付いてくる白い腕……

 

「……俺は『クラウド』を支えるだけで精一杯だ」

「だろ? 最初から無理なことはやめておけと言っているんだ」

「……だが、『クラウド』と『セフィロス』は別の人間だ。確かに同胞かも知れないが、別の人格を有した他人なんだ!」

 俺は強い口調でそう言いきった。

「……アンタのいうとおり、『クラウド』はああして守ってやらなければならない子だ。側近くについて、常に抱きしめてやらなければ生きていけないヤツだ。だが、『セフィロス』が必ずしもそうだとは言い切れないだろう!? いや、むしろ『クラウド』と同じと見る方が無理があるのではないか!?」

「…………」

「『セフィロス』は『クラウド』よりもずっと強い。何度か会話をしたことしかないが……それだけでも彼の思慮深さと思考の複雑さがわかるほどだ。『死の大天使』と異名を取る比類無い剣士なんだぞ」

「……複雑な物ほど得てして脆い」

 他人事を評する口調で、きっぱりとセフィロスは言い切った。

 そしてこちらをじっと見つめた。冴えたアイスブルーの双眸は、俺の知っている『セフィロス』と同じ色であった。