うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おまえはいいヤツだからな」

 そうささやいたセフィロスの声は、凪いだ海のように穏やかであった。

「……え?」

「おまえは生真面目で人のいい男だ。まぁ、いささか面白みが無いとも言えるがな」

「そ、そうか……」

「……あの人見知りのヴィンセントが、すぐに懐くくらいだ。自信を持っていい」

 そこまで言うと『セフィロス』は小さく笑った。高名な芸術家の作品のように整った造形が、やわらかく溶けてゆく。

 しかし自信を持てと言われても、『面白みがない』等と言われては、返答に困窮する。

 

「セフィロス……? 何が言いたいんだ」

「……だから、だ。あの男に関わって……おまえの思い通り、ヤツがおまえに心を開いたとしたら……?」

「…………」

「そして……もし、『セフィロス』があの子と同じような接し方を望んでいたとしたら……?」

 静かな声音でセフィロスが言った。いっそ優しいとさえいえる物言いであった。

「友として語り合うだけではなく、『クラウド』がおまえを求めるように望まれたとしたら?おまえは拒否できるか?」

「それは……」

「……おずおずと差し伸べられた手を、拒絶することが出来るのか?」

「…………」

「……複雑な人間ほど、得てして脆いものだ、レオン」

 彼はさきほどと同じ言葉を繰り返した。

「単純で……誰が見ても、そいつの在りようがはっきりと見取れるヤツは強い。そう……おまえのようにな」

「……セフィロス……俺は……そんな……」

「おまえは強い」

 今度ははっきりとそう言ってのけた。

「強さというのは何も腕っぷしのことだけではない。ガキではないのだし、そのくらいのことはわかってるだろ?」

「あ、ああ……」

「まぁ、きっとおまえは、剣士としても相応のものなのだろうがな」

 フフンと意地悪く鼻で笑って、彼はそうささやいた。

 湖面を凍結させたような美しい水晶の瞳が伏せられる。切れ長の双眸に長い睫毛が影を落とし、そのままセフィロスはふいと横を向いた。

 わずかに垣間見えたその面持ちは、一見無表情のようであったが、なぜか俺には痛ましげに映った。

 たぶん……この人は、もうひとりの自分に思いを馳せ、その在りようを案じていたのだと感じる。

 

 

 

 

「……黙って見ていられないんだ……」

 そうささやいた俺の言葉は、きっとうめき声のようになっていたのだろう。歩みを遅めた俺を、セフィロスが振り返って見つめているのがわかった。

「……アンタの言っていることは正しいんだと思う」

「…………」

「セフィロスの言うとおり、中途半端に関わるくらいなら、そっとしておいたほうがいいんだろう。だが……」

「……レオン……」

「だが……俺は……どうしても試してみたいんだ……いや、試すなどと無責任な態度をとるつもりはない。あの人をどうにかしてやりたい。少しでも楽にしてやるために俺に出来ることがあるのなら……俺はどうしても……いや本当に勝手な言いぐさだな……偽善者の典型と言われても致し方ない」

「なぜ、そこまでアイツに関わろうとする?」

「……わからない」

「『わからない』?そこまで思い詰めているのに?」

「……俺は……」

 言いかけて、それ以上言葉が継げなくなった俺を、一瞥するとセフィロスはふいと目線を前に戻した。

 紺碧に広がる海の方へ……

 

「……なにもそんなに自虐的になる必要はないだろ。さっき言ったことは、『オレならそうする』という話だ」

「……セフィロス……」

「おまえとオレは別の人間だからな。結局どうするのかはおまえ自身が決めることだ」

「……ああ、そうだな。アンタの言うとおりだ」

 ゆっくりと頷くと、彼は楽しげに口唇を持ち上げた。

「ふふ、あの子がおまえに憧れる気持ちが分かるような気がする」

「……『あの子』?」

「そちらの『クラウド』だ。……今のような言い方をしたら、あの子など、『そういう突き放した言い方しないで!』などと言って泣き出しそうだな」

「……まさか、子どもじゃあるまいし」

「フフフ、似たようなもんだ」

 冗談めかした物言いにさきほどの悲哀の感が交じり、俺はあらためて整った横顔を眺めた。

 

「……『クラウド』はおそらくずっと『セフィロス』の側にいたのだろう。物理的には知らんが、精神的には完全に魅入られ、がんじがらめになっていたのだと思う」

「だが、それは……!」

「そう……おまえのいうとおり、あちらの『セフィロス』にも、そうせざるを得ない内的欲求があるのだろう」

 世間話のような口調で、彼はあっさりとそう言った。

 セフィロスにはちゃんとわかっているのだ。正確に彼の在りようを理解した上で話をしている。

「『セフィロス』……もうひとりのオレか」

 一度言葉を切ると、すぐに彼は独り言のように言葉を続けた。

「……求めた相手を、嬲り、閉じこめ、奪い尽くし、あらゆるものから遠ざけ、支配したいという凶暴な欲求……それが愛情表現だと言うのだから厄介なものだ」

 クッ……と自嘲するかのように、彼は笑った。

「セフィロス……?」

「……オレにも覚えのある感情だ」

「…………」

「フン、なんてツラをしている」

 鼻で笑われて、正気に戻った。

「……あ、いや……すまない……つい……」

 俺は適当なごまかしの言葉を捜したが、あいにくそんな器用な人間ではなかった。

「……少し、驚いた。アンタは……その、とても余裕があるように見えるし…… そんな切羽詰まった希求を抱えているようには……」 

「相手は誰かと聞かんのか? フフフフ……」

 ひどく面白げにセフィロスはささやいた。

「クラウドだろ? 昔、一緒に居た時期があったと彼が……」

「フフ、まぁ、好きなように考えておけ」

 不可思議な微笑を浮かべ、謎めかした物言いをすると、「さて、戻るぞ」と、言った。その面差しは、先日から見慣れたごく平穏な様子であった……