うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁい☆ 毎度ありがとうございますゥ、ストライフ・デリバリーサービスでェす』
 
 という、色気たっぷりの猫撫で声。後ろで、誰かが「気色ワルイ!」などと罵倒している。きっとセフィロスあたりだろう。いやいや、そんなことに構っている場合ではない。

「あ、ヤズー? ヤズーだよねッ?」

『……兄さん!?』

 鋭敏な彼はすぐに俺だと気付いてくれた。

「そう! ね、これから俺の言うことよく聞いて。質問はなし。とにかく時間がない」

 僅かな間隙の後、

『……わかった。言って!』

 と、ヤズーは短く答えた。本当に頭の回るヤツだ。

「な、レオンってヤツ、知らない? そっちに行って……」

『居る。俺のすぐ横』

 即答だった。小気味のいい返事に、俺は思わず膝を叩いた。電話に出てくれたのがヤズーで助かった。

「よしッ! 助かった! ヤズー、レオン連れて、今から海岸沿いにノースエリアへ向かって走ってきて! とにかく直線で、鉢合わせになるように俺もそっちに向かって走るから!」

『北方面に海岸沿いだね。まっすぐね!』

「そうッ! 今ならレオン戻せる!」

『!!』

「とにかく時間がないの。レオンをもとの世界に戻すとしたら、それが一番近いチャンスだからッ!」

『オッケー、今すぐに出るよ!』

「急いでくれ。一分一秒争うから! あ、そ、そうだ!もしそこに居てもヴィンセントは連れてこないで! ちょっと危険があるかもしれないんだ」

 俺は、さきほど一抱え以上もある岩が吹っ飛んだ様を思いだし、あわてて付け加えた。
 
『危険……? あ、いや、とにかく了解した! すぐ行くから!』

「頼む、ヤズー!」

 そう告げ、電話が切られると同時に立ち上がった。

 異次元への入り口がいつまで保つかわからない。一刻も早くレオンと合流しなければならない。

 

「……ご苦労なことだな。さぁ、早く行け。戻ってくるまで、この入り口が通じているといいがな…… フン」

 砂まみれで尻餅をつかせたせいだろうか。

 ひどく突っ慳貪な口調でそう言うと、フイと『セフィロス』はそっぽを向いてしまった。だが、残念ながらそうはいかないのだ。この炎天下の中、黒のロングコートと手袋装備の彼には申し訳ないが、背に腹は代えられない。

「ちょっ……ゴメン」

 腕組みして突っ立ている、『セフィロス』の手を取る。

「ね、お願い、一緒に来て!」

「……ハァ? ふざけるな、なぜこの私が……」

「いや、もう、ホント、すいません。謝罪はまとめてこの次に! だから、お願いだよ、一緒に来てっ!」

「…………」

「だ、だって、アンタ、ひとりで勝手に帰っちゃうかも知れないじゃん! そしたら……」

「……今まさに帰ろうと思っていたところだ」

 俺の言葉にかぶせるように『セフィロス』は傲然と言い放った。白く整った顔が、熱気で微かに上気し、あからさまに不快そうに眉を寄せていた。

「……放せ」

「『セフィロス』! そんなひどいこと言わないでよ! お願い、助けて!」

「……大声を出すな。頭に響く」

 気怠げに、髪を掻き上げる彼。俺の手を振り解き、ドサリと岩に座る。

「私などにかまっている場合ではないだろう? 時は一刻を争うぞ」

「……うう〜……」

「フン……運が良ければおまえたちが戻ったときにも、入り口は開いているのではないか?」

 あまりにも他人事の冷たい物言い、自分の目がすわっていくのを感じた。

「う〜ッ! もぉいい!」

 ダンと足踏みする。あたりの砂がブワリと舞い、『セフィロス』はさらに顔を背けた。

 その隙をついて、俺は自分の片腕を、彼の腕にがっしと絡みつかせた。そう、最初に空間の入り口に飛び込んだときと同じ要領だ。

 

「……な……?」

 彼の腕を抱え込んだまま、全力疾走で走り出す。もちろん、ヤズーと打ち合わせした海岸線をだ。

「……おいッ……放せ……!」

「後でちゃんとあやまるから!もう、ホント、今はいうこと聞いて!お願いッ!」

 男ふたりの疾走だ。乾いた砂が舞い、ドドドドドッと地が揺らぐ。

 しかも炎天下のかけっこである。額からはドッと汗が吹き出し、あっという間に首筋がしめってきて気持ちが悪い。もちろん、長袖のロングコートを着ている『セフィロス』などそれ以上に不快であったろうと思う。

 だが、彼は俺に引っ張られるままに、煩わしそうに沈黙したまま、ついてきてくれた。

 きっと、『セフィロス』が本気で抗ったら、俺は負けたに違いない。レオンも言っていたが、彼はすごく強いらしいし(これはウチのほうのセフィもそうなのだから、特筆するようなことではない)、実際、身長もウエイトも俺より上である。

 腰に差した長刀を向けられれば、彼を解放せざるを得なかったろう。

 

「ハァッ! ゼッゼッ! ハァハァッ!」

 喉が締め付けられるように痛む。当然だ、休むことなくひたすら走っているのだから。

微かに俺の家が目に入り、それよりずっとこちらに近いところに、レオンの姿を見とめた時、ほとんど泣きつきたい気持ちになっていた。

 レオンの後に、ヤズーとセフィロス。俺の言ったとおり、ヴィンセントは置いてきてくれたようだ。もちろん、ヴィンセントには誰よりも早く逢いたかったが、俺のワガママで彼を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

「レオーン! レオン! は、早く〜ッ!」

「クラウドッ!」

 考えてみれば、すぐにとって返さねばならないのだ。俺は足を止め、呼吸を整えつつ、レオンたちが来てくれるのを待った。

 ゼイゼイと胸が上下し、喉が痛くて涙が出る。

 

 レオンはあっという間にやってきた。家からの距離も大分あるのに、ヤズーに言われてすぐに飛び出してくれたのだろう。苦しそうな顔はしていないが、額から汗が伝わり、細い顎からしたたり落ちていた。

「ハッ……ハッ……ハッ……」

 と呼吸を整えている。

「クッ……クソ、飛ばしすぎだ、レオン。重労働させやがって……ハッハッ……ハッ……」

「あ〜、もう、家戻ったら、すぐシャワー浴びよ〜 ハッハッハァッ……ハァッ……!」

 という、やや緊張感に欠けるセリフは、セフィロスとヤズーだ。 

 後から思い起こすと、『セフィロス』同士は、このとき、初対面だったわけだが、いちいち注意を払っている余裕はなかった。