うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「み、みんな、ありがとッ! く、くわしい話は後でね! レオン!行こう、もうホントに時間がないッ!」

 俺は息せき切ってそう叫んだ。空気の読めるヤズーとセフィロスは、異議を唱えることもない。

「『セフィロス』?……どうして、アンタが……ここに……」

 レオンは俺の言葉に応えるよりも、一緒に来た『セフィロス』のほうが気になるようだった。ムッとしなくもないが、確かにそう訊ねたくなる気持ちもわかる。

 どちらかというと、『セフィロス』とレオンは、『クラウド』を挟んで敵対関係にあるようだったし、第一、この俺と彼が一緒にいるのは解せないのだろう。

「い、いや、あのね、話すと長くなるんだけどさ! でも、もうホント、時間ないし!」

「クラウド……」

「あのね、レオン。『セフィロス』にはついてきてもらったの。っつーか、強引になんだけど。俺ひとりじゃ、もうホントどうしていいかわかんないカンジで、でもとにかくアンタを連れ戻さないと、どうにもこうにもならないような状況で……」

 必死に説明……というか言い訳する俺。

 だが、レオンは俺を見もしやがらない。ひたすら注意を払うのは『セフィロス』にのみだ。さすがに言い返してやろうと口を開きかけたが、言葉は出なかった。

「おい……『セフィロス』……大丈夫か……?」

 と、レオン。こいつのこんなに心配そうな声は、初めて聞いたような気がする。

「……ゼッゼッゼッ……ハァッハァッ……」

「あ、あの……セ、『セフィロス』……?」

 俺はその時、初めて無理やり全力疾走に付き合わせた彼を注意深く見守った。

 呼びかけても苦しげに俯いて顔を上げすらしない。無我夢中で突っ走ってきたので、まったく気付かなかった。

 最初からノースリーブの俺と違って、彼の服装は到底南国の仕様とは言えないのだ。ノースリの上着は、ホロウバスティオンでは寒いくらいだったが、コスタ・デル・ソルではこれでも暑いくらいなのだ。

 そう考えれば、上下ピッタリ真っ黒の『セフィロス』仕様はどれほどの暑苦しさだろうか。それにはお構いなしの湾岸全力疾走。こうして突っ立って会話しているだけでも、ジリジリと太陽が照りつける。

 さすがの彼にも大分こたえたようであった。

「……ゼッゼッゼッ……ハァッハァッ……!」

「『セフィロス』、ご、ごめん……お、俺……」

「……ゼッゼッゼッ……よけいな……ことだ……ハァッハァッ ……ふ……ゆかい……な……!」

 細い鼻梁をツ……と汗の滴が伝わり、ポトリと落ちた。この人でも汗なんて掻くんだ……などと、悠長なことを思い、ハッとしてあわてて謝罪した。

「ご、ご、ごめん! そ、そっか……そうだよね 『セフィロス』、そのカッコだもんね……暑いよね。いきなり引っ張っちゃったし。走りっぱなしで……」

 一刻を争うとはいえ、今はとにかく謝る。なんというか、そういう気持ちにさせる人なのだ。

「ハァッハァッ……ゼッゼッゼッ……」

「クラウド、ど、どうして彼まで……?」

「いや、もう、そのね! 話し出すと長くなるの、コレ! とにかく……とにかくッ! 時間ないの!こうしている間にも入り口ふさがっちゃうかもしんないの! 走るよッ!」

「ちょっ……兄さん、待ってよ。『セフィロス』、気の毒だよ。いくらなんでも無茶しすぎでしょう」

 とヤズー。彼にそう言わせるほど、『セフィロス』のダメージは甚だしかった。

「ケッ……別の世界のオレ様だと聞いて、どんな男かと楽しみにしてりゃあ、このザマか、軟弱者」

 という、到底友好的とは言い難いゴアイサツは、セフィロスのものだった。もちろんウチのセフィロスだ。

「ああ、もう、ちょっ……やめてよ、セフィ! とにかく今回の一件は俺が悪いんだから」

「そんなのは見りゃわかる」

 と、いともあっさりと返してくれた。

 俯いていた『セフィロス』はようやくうっそりと顔を上げ、無言のままギロリと同じ顔をした人物をにらみつけた。だがやはり一言も発さずに、くるりときびすを返す。

 

「……なにを……している……」

 と、俺にだけ聞こえるような微かな声でつぶやいた。未だに途切れ途切れの息づかいなのが痛々しい。

「時間が……ないと言っただろう……クラウド……」

「あ、そ、そうだった! で、でも、大丈夫……?」

「……うるさい……」

 ゾンビのうめき声のように、つぶやくと、彼は振り向きもせずに、元来た道を早足で戻っていってしまった。ヤズーが心配そうに声を掛けようとしたが、とりつくしまもないとはこのことだ。

「そ、そんな怒んないでよ…… っと、レオン、とにかく行こう! 『クラウド』が大変なんだよ!」

「なんだと!?」

「だから、俺が大あわてで帰ってきたの!『セフィロス』に無理させてまで!」

 おおざっぱにそう告げる。ウソは言っていない。ウソは。

「どういうことなんだ!? ホロウバスティオンで何かあったのか?」

 『セフィロス』の後を追い、走り出した俺を追い越す勢いで、レオンが走り寄ってくる。

「ハートレスかッ? ノーバディかッ? ま、まさかラグナのクソ親父が……」

「もぉ、アンタ、何言ってんのォォォォッ!?」

 熱さと疲れと焦燥で、思わずレオンを怒鳴りつける。

「『クラウド』が大変っつったら、原因はてめーに決まってんだろうがァァ! このヴォケがーッ!」

「お、俺……?」

「おめーがいきなり居なくなって、ほとんど飲まず食わず眠らずで探し回ってったんだよ! 今は精魂尽き果てて、熱出して寝てるッ! 放っておいたら死んじゃうんじゃねーのッ!?」

 俺はやや大げさにそう言い放った。レオンの顔色がサッと蒼白になる。

「な、なぜ……そんな…… バカな……」

「バカはおめーだ、この鈍感野郎ッ! あいつはな、繊細なんだよ! おまえのことが好き好き大好きなんだよッ! おめーが居ないと熱出して死にそうなくらい、レオンのこと愛してんだよッ! もっと大事にしてやれ、コルアァァ!」

 俺たちの会話を耳にしていないわけではないだろう。だが、前を行く『セフィロス』は一言も口を聞かなかったし、何故か同行している、ウチのセフィロスとヤズーも黙したままであった。血相を変えて怒鳴りつけた俺の言葉から、おおまかな要旨を読み取ったのだろう。

 

 どうにかこうにか、俺たち一行は、もと来た場所に戻りつくことが出来た。