うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「『セフィロス』、どう、まだ入り口、開いてるのッ?」

 俺は声を掛けた。

 呼吸を整えつつ、『セフィロス』は、俺にして見せたように、すっと片手を前方にあげ、静かに頷いた。

「……だいぶ、空気の対流が治まっている。まもなく閉じるだろう」

 やってきたときは、入り口とおぼしき場所から突風が吹き出したり、周囲の状況が尋常じゃなかったため、なんとなくわかるような気がしていたのだが(いや、あくまでも『ここかな?』という程度の認識だが)、今は全然感じ取れない。

 

「……微かに……気配が読める……かな? でも、俺の目にはハッキリとは見えない」

 ヤズーがぼそりとつぶやいた。慎重な声音だった。

「セフィロス、あなたわかる?」

「……もっと詳しく言え、よく見えん」

 不愉快そうにセフィロスが返した。

 すると、ずっと口を噤んでいた『セフィロス』が、冷笑を浮かべ、それ以上に冷ややかな口調でつぶやいた。

「……同じ顔とは言っても、貴様はずいぶんと鈍感な人物のようだな。気配を感じ取ることもできぬか?」

「生憎、てめぇのように神経質な軟弱男じゃないもんでな」

「…………」

「まだ、呼吸が乱れているようだな。大丈夫か?軟弱者。 クックックッ……」

 ノースリーブの黒シャツから、綺麗に筋肉のついた腕を、すっと組み合わせ、睥睨するような目つきで言い返すセフィロス。毒舌においてはヤズーといい勝負なのだ。

「……なれなれしく話しかけるな。不愉快な……」

「ひとりで寂しそうに見えたんでな。気遣いに感謝する余裕くらい見せたらどうだ?」

「よけいなお世話だ……無礼者……ッ」

 怒りのせいだろうか。朱みを帯びた口唇から漏れる声音が、低く掠れた。もちろん、向こうの『セフィロス』のことである。

 ウチのセフィロスは、強烈な家族どもにかこまれ、また自身も相当強靱なため、十分に鍛えられているのだ。

 

「ああ、もうちょっ……ふたりともよしてよ!ケンカなんてしてる場合じゃないでしょ!?」

 あわててふたりの『セフィロス』を止めた。こんなところで、『最凶』のふたりにケンカでもされたら、巻き添え食って今までの苦労が水の泡だ。俺だって、一刻も早くヴィンセントのところへ戻りたい。

 

 

 

 

 シュゥゥゥと微かな音が聞こえる。

 『セフィロス』の言うとおり、まもなく入り口が閉じるのだろう。

「さァ、レオン! 早く行け! 向こうについたらソッコーで家帰るんだぞ! 『クラウド』の側についててやれよッ!」

 グズグズしているレオンの後を押す。

「わ、わかった。い、入り口というのは……こ、ここか?」

 俺よりは多少ものが見えるのだろう。手探りでレオンは連結の入り口を見いだしたらしかった。

「……そうだ。そのまま進め」

「だ、だが、足下がおぼつかないのだが?」

 そりゃそうだろう。

 俺たちがホロウバスティオンからコスタ・デル・ソルにやってきたときも、まるで地獄に続く穴に落っこちたような気分だったのだから。

「……喪失感は一瞬のことだ。目覚めれば、すぐに覚えのある場所にたどり着いているだろう」

『セフィロス』が独り言のようにそう答えると、レオンは意を決して身を進めた。

 そして、ハッと思いついたように、言葉を紡ぐ。

「クラウド! カダージュたちによろしく!別れの挨拶もできなかったことを謝罪しておいてくれ!」

 飛び込む寸前に、律儀にもそんなことをいうレオン。

「うん、わかった!」

「それから、ヴィンセントさんにも…… もっとゆっくり話をしたかったと……できることなら、もう一度会いたい。俺がもう少し大人の男として成長できたのなら、今度はあなたの役に立ちたい、尊敬しているし、大好きだったと……」

「伝えません、そんなこと」

 俺はあっさりとシャットアウトした。

 セフィロスとヤズーが、あきれた顔をして俺を横目で見る。

「では、皆……世話になった! 『セフィロス』……」

 後から続いている『セフィロス』に手を差し伸べる。一度は素直に手を差しだそうとしたものの、一瞬の戸惑いの後、彼はよけいなことをするなとばかりに眉を顰めた。そして繋ぎかけた手を自ら引っ込めたのであった。

「……よけいなことだ。早く先に行け、レオン。おまえが入らねば、私も後に続けぬ」

 空間連結の入り口は、俺たちがこちらの世界にやってきたときよりも、ずっと狭くなっているようだった。磁場が不安定で、どれだけもつか誰にもわからぬと、『セフィロス』が言っていた。

 今まさに、その言葉どおりに、わずか数分の後、そこは口を閉じようとしていた。

「ではな、クラウド! 『クラウド』のこと、ありがとう! すぐに家に戻るッ! ヴィンセントさんにはくれぐれも……」

「だーから、ヴィンセントのことはもういいですッ! さっさと行けや、コルァァァ!」

 地団駄踏んでそう言い返すと、ようやく伝言を諦めたのか、レオンは身軽に、狭くなった入り口に飛び込んでいった。

 しかめつらのまま、『セフィロス』も、そこに身をかがめて足を踏み出した。もうそこまで狭まってしまっているのだ。

「あああッ……ちょっ……待って、『セフィロス』!」

 ハッと思いついて、ロングコートにタックルする。もちろん、俺の重みで彼の身体はこちら側へ引き戻されてしまう。

 キッと睨め付けてくる氷の瞳がちょっぴり怖い。

「くッ……この期に及んで何だというのだ、この子どもが!」

「ご、ごめんッ! ね、ね、よけいなことだと思うけど、レオンに、『クラウド』とのこと言うんじゃないよッ? アンタにしてみりゃ、ちょっとからかっただけだったのかもしんないけど、レオン、クソ真面目なんだからッ!」

「…………」

「ゴ、ゴメッ! ただの老婆心だよ!ホラ〜、アンタってこうなんつーの、現実離れしてんじゃん? あんまし、考えて行動しているタイプに見えないしさ〜、一応!一応言っておいただけ!」

 『セフィロス』は、あらためてギロリと俺を睨み付けると、

「……おまえのような無神経な、我が儘な子どもに、注意を促されるのは不快だ」

 とささやいた。ごもっとも!ということで、俺はグッと口を噤まざるを得なかった。