うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<25>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴ……ゴメンッ! ゴメンなさいッ! ど、どうしよう、俺……俺……」

 到底ヴィンセントには見せられないほどに、俺は取り乱した。

 それは無理もなかった。……この状況においては。

 『入り口』が消えてしまえば、『セフィロス』は帰る術を失うのだから。たったひとりで、この見知らぬ世界へ取り残された彼の心情……そして、そうさせてしまったのが、おのれの軽率な行動だと知れたのなら、誰とても普通ではいられないだろう。

「ゴメンッ……お、俺……そんなつもりなくて……自分でも……どうして……ゴメンッ……どうしよう……俺……」

「…………」

 『セフィロス』は黙して語らない。

 それどころか、こちらを振りかえってもくれなかった。長い銀糸のような髪が、ゆるやかな風に嬲られ、緩やかにそよいでいるだけだ。

「『セフィロス』……『セフィロス』…… ゴメンなさいッ! アンタを困らせるつもりなんて全然なくて…… 俺ってどうしてこうバカなんだろう……ゴメン……ゴメン……」

 謝罪してもどうにもならないのに。謝られれば謝られるほど虚しく思われるに違いないのだから。

 自分でも、どうして彼を引き留めようとしてしたのかわからなかった。

 もう少し話がしたい、何故かこのまま別れたくない。この人をことをもっと知りたい……そう感じた。その気持ちはウソではない。

『気持ちだけもらっておく』

 そう告げられて、二度と逢えなくなるかもしれないのが、苦痛に感じたのかもしれない。

 

 ……だが、なぜ?

 確かに、この人には借りばかりが出来ているが、『二度と逢えないのはつらい』とまで、深い関わりをもったわけではないのだ。

 無言のままの『セフィロス』に謝罪しつつも、俺は自問自答を繰り返していた。

 これきり別れてしまうには、あまりにも寂しいとそう感じた。……だが何故そんな風に感じたのだろう。

 

「『セフィロス』……ごめん…… 俺……俺……自分でもよくわからないんだけど、このまま……何もアンタのことを知らないまま……別れるのが……なんだかすごく……つらくて……苦しくて……」

「………………」

「い、一緒にいた時間なんて……バ、バタバタしていたし……ほとんど話もできなかったのに、何をいうのかって思われるだろうけど、俺……本当に……自分の行動がわからなくて……こんなことしたら、アンタにものすごい迷惑っつーか、それどころじゃないじゃんかって、今はちゃんと認識してるけど…… さっき、アンタが『気持ちだけ』って言って、帰ろうとするの見たら……もう居ても立ってもいられなくて……もう……本当にごめんなさいッ! ごめんなさいッ!!」

 バカみたいに、ズラズラと長い言い訳をして、俺は膝をついたまま俯いた。とても『セフィロス』の顔を見ることなどできそうになかった。

 

 

 

 

「……ね、こうして突っ立ってても仕方がないでしょう?」

 そうつぶやいたのはヤズーだった。

「よかったら、うちに来ない? 『セフィロス』 家の人たちは気の置けない連中ばかりだし、気遣いは必要ないから」

 取りなすようにヤズーが言った。

 そんな言葉すらも口に出来ないほど、俺は惚けていたのだ。

「…………」

「あなたは……この世界……初めてだろうし。せめてうちで落ち着いてから、善後策を考えたらどうかな?」

「…………」

(ほら、兄さんも)

 小声で俺に耳打ちするヤズー。

 そうだ。まずは俺が謝罪して、是非にとすすめるべき事柄だろう。

 ウチのセフィロスは、成り行きを見守るつもりなのか、人扱いの上手いヤズーに万事任せたつもりなのか、よけいな口を挟もうとはしなかった。

 

「『セフィロス』? 本当にごめん。お願いだから、うちに来て? ね? 俺にできることがあれば、なんでもするし……」

「…………」

「ね? 『セフィロス』……こっち向いてよ…… お願いだから……一緒にうちに行こう? そこでゆっくり休んで……」

 縋るような思いでそう言って、彼の腕を取ろうとした瞬間であった。

 

 今まで、魂の抜け殻のように、棒立ちになっていた彼の長身がビクンと反応した。

「……放せッ!」

 ものすごい勢いで、俺の手を払う『セフィロス』。

 ヤズーがやや鼻白んだように、一歩後退した。

「……私に……触れるな……ッ!!」

 彼は、触れられた片腕を抱きかかえるように、後ずさりした。

 ハァハァという吐息。氷の瞳がキツイ光を湛え、俺を睨め付ける。

「触れる……な……」

 ほとんど怯えるように、身を放し、彼は俺たちから距離を取った。

「『セフィロス』……? ど、どうしたの? なにか気に障るようなこと……」

「…………ッ」

「ごめんッ! あの、なにか気に障るようなこと言った? もうホントに謝るしかできないんだけど…… ね?お願い、一緒に行こうよ? ここ、知らない世界なんでしょ? 俺、アンタが帰るために出来る限りのこと……」

「…………」

 震える口唇をギュッと噛み締め、まるで手負いの獣が狩人から逃れようとするように、彼はひたすら無言のまま後ずさるばかりだった。

「ねぇ、『セフィロス』? どうしたの? 怒ってるのはわかるけど……後でいくらでも怒られるから、謝るからさ。……だから今は一緒に俺たちの家、行こう? ね?」

 もう一度、歩みを進め、今度こそ、しっかりと彼の手を取った。だが、『セフィロス』はそれをも力ずくで振り払ったのだった。

 そう……まるで、俺の触れたその部分に火傷を負ったかのように、ものすごい勢いで恐ろしげに手を引いたのだった。

 

「よせ……ッ! 放せッ!!」

 弾かれたようにそう叫ぶ。

「『セフィロス』ッ!?」

「寄るな……ッ! この私に触れるなッ!」

「『セフィロス』ってば……! 家に一緒に……」

「近寄るなッ!!」

 最後にそう叫んだ声音は、ほとんど悲鳴のようであった。同じ顔をしたセフィロスでさえも、思わず驚くような声であった。

 

「……もう……かまわないで……くれ……」

 震える声が、低くそう綴った。

 疲れ切った掠れ声……おかしなふうにしゃがれた……陰鬱な……

 彼はスローモーションのように、俺たちから白いおもてを反らせた。なめらかな銀の髪が、その動作に合わせてサラリと風に舞う。

 ゆっくり……ゆっくりと歩みを進め、遠ざかって行く『セフィロス』。ズルズルと、引きずったような足跡が、まるで罪人が足枷を填められ、そのまま刑場に引き立てられるような姿に見えた。

 

 追いつこうと思えば容易であったろう。

 だが、俺には……俺たちには、それができなかった。

 

 もし、彼の意に反して、そういう行動に出たとしたら……そのまま消えて居なくなりそうな……ばかばかしいと思うかもしれないが……本当にそんな気がしたのだった。

 数刻の間、俺たちは、夕陽が刻む彼の長い影を、木偶の坊のように眺めているだけであった。