〜 MEMORY'S 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<3>
 
 ザックス・フェア
 

 

 



 

 

13:00

 

「よし。火の元には近づくな。食器の破片を片付けろ。ああ、素手ではやるな。モップと雑巾を使え」

 修習生に命じて周囲のものを片づけさせる。子供たちとはいっても、訓練を受けている兵士の卵だ。指揮があれば、すぐに動くことのできる子たちなのである。

「さっきの引火は食用油だな。よーし、もう大丈夫だ。おい、怪我をしたヤツいるか?」

 互いに顔を見合わせる修習生。幸い大怪我をした者はいないようだった。軽度の火傷を負った二名ほどをすぐに水で手当させて、係りの者に救護室へ連れて行くよう指示した。

 

「ザックス……」

 セフィロスに抱え込むようにされていたクラウドが、不安げに俺を見る。

「クラウド、怪我をしたのか?」

「う、うん、ちょっと……」

 覗き込むと、セフィロスが布を宛てている部分に紅いシミが浮き出ていた。割れた食器の被害にあったのはクラウドだったのだ。

「おい、セフィロス、傷口に破片は入っていないだろうな?」

「嫌なことを言うなッ! クラウド、こっちに来い。水で流してみよう。な?」

「う、うん…… あ、いいの、自分で出来るから、セフィロス」

「何を言っている!遠慮などしている場合ではないだろう!」

 そんな風に叱りつけるセフィロス。

 いやいやいや……遠慮したくもなるだろう。

 クラウドは傷の痛みよりも、過保護なセフィロスに困惑している様子だ。

 彼らは当然のようにギャラリーに囲まれている。当たり前だろう。いきなり飛び込んできた英雄セフィロス……そして、クラスメイトの負傷。

 どちらもこの年代の少年たちにとっては、気になることこの上ない。

 

「修習生一同。各自、すぐに清掃を済ませ、次の授業、もしくは任務に備えること! 日直は、担当教官に報告を怠るなよ。後はこちらのほうで処理する。以上解散!」

 片づけを終えた者は、すぐに退室し、午後の授業に備えるよう言葉を足す。上官からの指示を受けることに慣れている修習生は、すばやく室内を清掃し、俺に言われたとおり、おのおの引き取っていった。

 中には飛び込んできたセフィロスに気を取られ、見とれていたり、側から離れがたそうにしている者たちも居たが、重ねて退室を命じると、しぶしぶ俺の指示に従った。

 いや、従わざるを得ないだろう。当のセフィロス自身が、他の者に、まったく関心を示さないのだから。

 

 

 

13:30

 

 ええと……一応、念のために、室内を点検して……俺の方からも担当教員に報告しなければ。

「セフィロス、クラウドの怪我はどうだ?」

 溜め息混じりにならないよう、注意しつつ声を掛ける。

 本当ならば、俺がクラウドの面倒を見てやりたいところなのだが、クソデカイ図体のセフィロスがべったり張り付いているので、様子を伺うこともできない。

「……破片は入っていない。切っただけだな」

 ほぅ……という深い安堵の吐息と共に、セフィロスが低くささやいた。

「ね? だから、もう大丈夫だから。俺ももう教室に戻るよ」

「何を言っている。破片が入っていないというだけで、怪我が軽いと言ってるわけではないのだぞ」

 傷口を布でしばり、両手でクラウドの頬を挟み、噛んで含むように言い募るセフィロス。

「で、でも、もう、あんまし痛くないもん……」

 下を向いてもじもじと身じろぎするクラウド。

「おれ……平気だから……教室に戻るよ」

「クラウド、青い顔をして…… おまえが真面目な子だというのは知っているが、怪我をしたなら大事をとらなくてはいかん。これはミッションでも大切なことなんだぞ?」

「……あ……うん……」

 彼はセフィロスに大事にされることが困るのではなく、自分だけ特別扱いをされるのが嫌なのだ。

 だが、セフィロス自身は周囲の思惑など、まったく気にする男ではない。

 

 

 

13:40

 

 いいかげん、セフィロスとクラウドの、いちゃいちゃ押し問答を見ているのにもうんざりしてきた。だいたいパトロールの俺がどうして、恋人たちにアテられなきゃならないんだ。

「ああ、じゃあ、クラウド。とりあえず、セフィロスに医務室に連れていってもらえ」

「……ザックス」

「な?バンソコくらい貼っておいたほうがいいだろ」

「ザックス!このバカ者! きちんと消毒をして包帯だッ! 万一ばい菌でも入ってみろ! クラウドがつらい思いをすることになるのだぞ!」

 子供を守る母ライオンのように、咆哮するセフィロス。

「せ、セフィってば…… 大丈夫だから……」

「ここはいいから。早く行ってこい、クラウド。セフィロス、そいつのこと頼むな」

「フン、おまえに言われるまでもない。クラウド、歩けるか? 抱いてやろうか? おんぶがいいか?」

「セフィってば……そんな大怪我じゃないのに……恥ずかしいよ」

「ガラスの傷は思ったより深いことがあるからな。ちゃんと手当してもらえ」

「う、うん」

 申し訳なさそうにしているクラウドに俺は言葉を重ねた。パトロール中にトラブルが起き、怪我人も出たとなれば、始末書ものかもしれない。きっとそんなことを心配してくれているのだろう。

 だが、今回は授業の一環であったわけだし、片づけの段階で部屋に引き取ってしまった指導教官に問題があるといえる。

 

「……ゴメンね、ザックス」

「バカだなァ、クラウドが悪いわけじゃねーだろ」

 気落ちしている頭を撫でてやる。チョコボの産毛のような金色の髪は、ちょっとクセがあってやわらかい。

「ほら、早く行ってこい」

「うん……でも……」

「まったくだ。それより、皿を割っておまえに怪我をさせた輩は……」

「セ、セフィ! ただの事故なんだからッ! あ、あの、俺、医務室行って来る! ひ、ひとりで平気だからッ」

 叫ぶようにそう言い残すと、クラウドはタタッと走り出した。

「クラウドッ」

 ダッカダッカと後を追いかける英雄……

 

 もう……ホンット……あの人、英雄なのかよ〜(泣)

 幹部会議やミッション打ち合わせの席で見せる、ストイックでシビアな銀髪鬼と同一人物とは思えない。

「やれやれ……」

 ひとり溜め息を吐き出し、再度点検を終えた後、俺は教官室へ足を運んだ……