〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<3>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「……というわけなんだ、クラウド。ラザードのクソ野郎……もとい頭の固い統括がな…… 私の好意を無視して話を進めたせいで……」

「……はぁ」

「私は是非ともおまえと一緒に研修旅行に行きたかったのに……」

「あ、はい。そ、それはおれもです! ね!ザックス!?」

「えーあー……」

「ちょっ……ザックスってば! あ、あの、おれ、すごく残念です、セフィロスさん」

「クラウド……」

 クソ英雄は、愛おしげにクラウドの小さな手を撫でた。

「で、でも、あ、そうだ! 何かおみやげを買ってきます! おれ、いつもセフィロスさんにお世話になってるし…… あ、で、でもおれなんかにセフィロスさんの喜ぶものなんて買えないかな……」

「ああ、クラウド、おまえは本当にいい子だな。なんて可愛いらしいのだろうか」

「え……あ、そ、そんなこと……」

「旅行となれば、数日寝泊まりすることになるだろう? しかも100名もの人間の中で。おまえのような純真な子に、悪い虫がつかないかと心配で私は夜も眠れん……」

 セフィロスの手が伸び、無防備に呆けているクラウドの頬を包み込む。

 ……って、あの、ここ社食だからね、コレ!

 寮の食堂だから! フツーに下っ端の連中がやっすい定食食いに来るところだから!

「「いいかげんにしねーかッ!セフィロス」

「騒々しいぞザックス。鬱陶しい」

「鬱陶しいのはオメーだよ!ぐだぐだ言っても仕方がないだろーが、セフィロス!もう決まったことなんだから!」

「おまえのような無神経な野蛮人に何がわかる。……オレのつらい心の内が理解できるというのか?」

「あー、はいはい。わかった!わかったよ! クラウドのことはちゃんと俺が見てるから!心配いらねーって!」

「親切を気取りつつ、この子に手を出す輩には要注意だぞ!同級生だとて気を許すな!」

「いや……あの……」

「もちろん、同行するソルジャー連中にも気をつけろよ! この子に万一のことがあったら……」

 ああ……!とばかりに、胸を押さえるセフィロス。なんだか芝居がかっててキモイんですけど。

「あ、あの、セフィロスさん。心配してくれてありがとうございます。でも、おれ、大丈夫ですから。ザックスも一緒だし。同じ班の人たちとは仲良しだし」

 明後日の方向から宥めるクラウド。いや、むしろ他人と仲良しな方が、この変態オッサンにとっては不安なのだから。

「……来週一週間……おまえはここにはいないのか。こうしておまえと会って、髪を撫でたり、ソースのついた口を拭いてやることもできないのだな……」

 セフィロスはハンカチを取り出すと、大切そうにクラウドの口元をそっと拭った。

「きゃ……ご、ごめんなさい。言ってくだされば……自分で……」

「ああ、心配だ! おまえが旅行から戻って、無事な顔を見せてくれるまでは、まともに仕事が手に着きそうもない!」

 クラウドの小声での抗議を軽くスルーし、セフィロスは己の物思いの中に沈むのだった。

「え、え……と…… あ、あの……」

 困惑するクラウド。心配されるのは有り難いだろうが、ものには限度ってモンがある。

 身を引き裂かれんばかりの苦しみを、新劇ばりに体現するセフィロスについていけないのだろう。

 ……っつーか、あたりまえだっつーの。

 しかし、こうもあからさまに好意を表現しているのに、鈍感といおうか、その前にお子さまであるのか、クラウド本人はいっこうにセフィロスの本意に気付く様子はなかった。

 ただ、身の安全を気遣ってくれることへの感謝と、未だに強く抱いている英雄への憧憬……ニブルヘイムで雑誌の切り抜きを集めていた頃よりは遙かに身近になったはずのセフィロスだが、やはりクラウドにとっては子どもの頃から憧れていたヒーローなのだろう。

 こんなふうに俯いて、ブツブツと鬱病患者のように唸っているのに……

 

 

 

 

 

 

「ああ、寂しい寂しい。心配だ心配だ……」

「あ、あの…… そ、それじゃ、研修旅行から戻ったら、すぐに会いにいきます!」

「クラウド……」

「あ、そうだ。その日はセフィロスさんのお部屋にお泊まりしてもいいですか? おみやげ持っていきたし……お話もしたいし……」

 お子さまチョコボは突然、とんでもないことを言い出した。

 いや、この場で「とんでもないこと」と認識しているのは俺だけであろうが。

「あ、あの、次の日お休みだから……それに……」

 ガッ!

 とセフィロスは、両の手でクラウドの紅葉のような手を握りしめた。英雄の手はデカイから、それこそ潰れるんじゃないかと危ぶまれる勢いだ。

「きゃっ……セ、セフィロスさん?」

 言葉半ばのクラウドは不思議そうに小首を傾げてセフィロスを見つめる。

 あああっ! ダメだ。首をそんな風に傾げるな! おまえのは慣用句じゃない、本当に「小首」なんだから! 

 セフィロスの愛する仕草の一つを、何の躊躇もなくしてしまうクラウドに、俺の焦燥感はピークに達した。

「や、約束だぞ、クラウド! 絶対だからなッ!お泊まりだぞッ!」

「は、はい。でも、本当にいいんですか? おれ、ちょっと言ってみたくて……」

「いつでも!いつでもかまわないぞ、クラウド! 何なら練習で、今夜オレの部屋に泊まってみればいい!」

 何の練習だよ、この野郎!

「ダメだーッ!」

 俺は血を吐くがごとき怒声でふたりの会話を遮った。思わずハァハァと肩で息をしてしまう。

「ザ、ザックス? ど、どうしたの、急に大きな声出して……」

「チッ……無粋な。座らんか、ハリネズミ」

「ダメだッ! ダメだ、そんなこと!」

 連中の言葉など聞く耳持たぬ勢いで、俺は否定文を連発した。食堂に居合わせた連中が遠巻きにこちらを眺めているが、気にする余裕さえなかった。

「絶対にダメだぞ、クラウド!」

「な、なにが、ザックス?」

「セフィロスの部屋に泊まるだのなんだのって…… そんなのはダメだろ!」

「え……」

「何か問題があるとでも……?」

 呪殺できそうな眼差しで睨め付けてくる英雄。本当なら俺の胸ぐら掴んで殴りかかりたいところだろうが、クラウドが居るせいで実力行使ができないのだ。

「あ、あたりまえだろ! え、ええと、その……ク、クラウド!」

「な、なに?」

「いいか? おまえはまだ修習生なんだぞ!? そんな浮ついた気持ちでいちゃダメだ!」

「あ……」

 しゅんと肩を落とすクラウド。可哀想だが、性欲魔人の魔手から守るためだ。

 俺はいかにも先輩らしく、しかめつらで説教をした。

「あー、尊敬するソルジャーと懇意にするのはいいと思うが…… もう子供じゃないんだからな。お泊まりだのパジャマパーティーだの、そういった戯れ事は好ましくない」

「あ……うん」

「そ、その、いくら先輩であるセフィロスの誘いであってもだ。節度のある付き合いをしなければならないぞ。特に修習生のうちはな!」

「おい、ザックス……!」

 炎を吹き出すごとき両の瞳が俺を刺し貫く。

 ぐおぉぉぉ!刺すような目線がーッ!ホントに視線で俺を殺す気か!?

 いや、負けるなザックス!戦えザックス!俺だって2ndとはいえソルジャーのはしくれ! 何より親友・クラウドを守るためなんだ!

「う、うん。そうだよね。……ごめんなさい、セフィロスさん。おれ……勝手なこと言っちゃって……」

「そんなことは断じてない! あれはクソハリネズミが、私とおまえの仲を引き裂こうと……」

「はーい!食事時間終わり〜! じゃーな、セフィロス! クラウドの宿題見てやる約束になってるからッ!」

 俺はさっさと空になったトレイを重ねて立ち上がった。ついでにクラウドの二の腕を取って、手伝うように促してやる。

「ザックス! おのれ〜……」

「ハーイハイハイ。ほら、アンタも色々忙しいんだろ。ま、アレ、頑張ってくれや。さ、行くぞクラウド!」

「う、うん。じゃ……あの……お、おやすみなさい、セフィロスさん」

「ほら、早く来い。ほらほら!」

 やや強引かとは思ったが、ぐいぐいと肩を抱え込むようにすると、クラウドはすんなり歩き出した。

 テーブルでは、巨躯の英雄が拳を振るわせてこちらを睨め付けているのだろう。

 ……いや、振り返らない。振り返らないぞ、ザックス!目線を会わすな、ザックス!

 

 俺とクラウドは、足早に……どころか、本当に駆け足で、寮の食堂を後にしたのだった。