〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<4>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「あー、クソ、疲れた!」

 部屋に帰りつくとクラウドを解放し、俺はベッドに転がった。

 ……ったく、1stの連中と懇意にするようになってから、白髪が生えてきてんじゃなかろうか。これで禿げてくるようなことがあれば、本気で進退問題だ。

「ごめん、ザックス。おれ、なんか最近調子に乗ってたみたい……」

 しゅんとしてクラウドがつぶやいた。

「え、あ、いや、違う違う。さっき言ったのは別に……」

「ううん。ザックスのいうとおりだよね。セフィロスさんやジェネシスさんが何かかまってくれるし…… 有頂天になってたみたいだ」

 しょげた面を見ているとなんだか可哀想になってくる。だが、セフィロスとは適度に距離をとっていたほうがいいだろう。クラウドは本当にまだまだガキだ。

 14才にはなっているだろうが、そこらの連中よりもずっと幼い子供だ。幸いにもそういうタイプだからこそ、あのエロ大魔人で知られた節操無しの英雄が強引に手を出せないのだ。セフィロスの好意に純粋に感謝と尊敬の念を高めるだけで、色恋沙汰だとはまったく考えていない。

「……ザックス? どうしたの? まだ怒ってる?」

 上目がちに見つめられて、俺はハッと気を取り直した。クラウドのツラを見つめたまま、思考の淵に沈んでいたらしい。

「いや、別に……」

「ザックス?」

「ああ、いや、なんでもないよ。悪いのはおまえじゃなくて、あの野郎の股間……」

「コカン?」

「なんでもない、なんでもない! ほら、課題やったんだろ? わからないところってどこだ?」

 やや強引に話を反らせ、俺は広げたままのクラウドのノートを手繰った。

 

 

 

 

 

 

 幼児は三日保たずに注意事項を忘れるというが……

 まさしく幼児並のクラウドは、「仲良くするのは悪いことではない」という言葉の方のみ取り入れたように、相変わらず英雄になついていた。

 まぁ、第三者的に見れば、たまに遊びに来る金持ちのオッサンみたいなもんだと思う。甘い顔をして可愛がってくれるものだから、ガキも懐くのだ。

 セフィロスは、クラウドに似合うと言って出掛けるたびに服やちょっとした小物を選んでくるし、甘いもの好きな彼のために、自分は一口も食べないクリームたっぷりのケーキを買ってくるのだ。

 まだまだガキゆえ、ケーキやチョコレートで、クラウドは大喜びする。

 つい先だっては、テーマパークのオープンに際した、限定100個のメモリアル・ショコラをプレゼントされ、クラウドはセフィロスの頬に感謝のキスをしたのだ。

 そう……子供が母親にするような可愛らしい口づけ。天使が聖母マリアにするようなそれはそれは可愛らしい……無邪気な……

 ……あくまでもビジュアル的にはだ。

 セフィロスは確かに美形だし、クラウドに至っては少女めいた愛らしい容姿をしている。

 だが、血の気の多いエロ英雄は、みごと鼻血を吹いたのだ。

 たかが頬のキスひとつで!

 おかげで、その時俺が着用していたジャージは、余波を受け、血塗れになって使用不可能になってしまった。……気に入っていたのに。

 そのまま、前屈みになって退場していった英雄に、同じ男として多少同情しなくもないが、いくらなんでもTPOをわきまえろっつーの。

 お子ちゃまクラウドは、相変わらず不思議そうに「ほえ〜っ?」としたツラで惚けているだけだし…… ああ、ストレスで胃に穴が空きそうだぜ!

 

「ザックス、どうしたの? 疲れた顔だな」

 執務室で書類仕事を片づけていた俺に、のんきな声が掛かる。

 今日のミッドガルも晴天だが、俺の精神は疲弊しきっていた。

「……疲れてるよ。もうホント。クラウドと同室になってから、気の休まる時がない」

「そうか。ならあの子と出会わなければよかった?」

 八つ当たり気味に吐き出した俺に、ジェネシスが静かに問い返した。それこそ天気の話をするような口調で。

「そ、そんなことあるはずないだろ! クラウドとは親友なんだから! 絶対に逢えてよかったに決まってる!」

「ハハハハ。わかってるよ、そんなに必死にならなくても」

 ぽんぽんと俺の肩を叩き、きちんとソーサーに乗せた紅茶をデスクに置いてくれた。ちなみに、ビル内には自由使えるインスタントのサーバーがついているのだが、ジェネシスは絶対に使わない。手ずから茶葉を選び、陶器のカップに淹れるのだ。

「サンキュ。……あー、紅茶って普段飲まないけど、けっこう美味いな」

「どういたしまして。ところでザックスはまだセフィロスとチョコボのことに反対なの?」

「反対も何もないだろ。ふたりの問題なんだから。でも……なんつーか、告る前にベタベタするのは反則だと思ってる」

「アッハッハッハッ! 固いなぁ、ザックス」

「そりゃ別にフツーに先輩後輩として仲良くしてんなら何も言わないぜ? セフィロスときたら、研修棟でのストーキングは日常茶飯事、風呂場は覗こうとするし、部屋に泊めようとするし……」

「ああ、ははは、なるほどねぇ」

「また、クラウドはクラウドでホントに信じられないくらいガキだから、何をされてもあっけらかんとしてるんだ。昨日なんざ、『お泊まりしてもいいですか?』とか自分から言い出しちまって……肝が冷えたぜ」

「へぇ?ずいぶん積極的になったものだね」

 くすくすと笑いをかみ殺しながら、ジェネシスが訊ねる。

「違うよ。全然他意があるわけじゃない。クラウドが研修旅行に行くんで、セフィロスが『寂しい寂しい』とか言いやがったら、『帰ってきたらお話いっぱいしたいから、お泊まりに』ってよ。クラウドなりにセフィロスの好意に気遣って言ってんだろうけどよ。解釈がずれてるっつーの」

「ふぅん、そうかァ、退屈しないふたりだなァ」

「俺的には退屈するほど平穏な毎日を送りたいよ!」

 ばさばさと書類をまとめ、立ち上がる。

 ジェネシスのせいというわけではないが、これ以上デスクワークを続ける気分じゃなかった。

 クラウドだけでなく、俺も来週頭から旅行に出るわけなのだ。着替えなど何か足りないものがあれば事前に買い足しておいたほうがいいだろう。

 やれやれ……だ。