〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<12>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、この草ってドクダミかな?」

「そうだな。ドクダミの薬効は……」

「あ、待っていわないで! えーとえーと覚えてるもん」

「皮膚のただれやできものなんかにも効くよね」

「便秘薬になるって書いてなかったっけ」

「内服の場合はな」

「あー、もう! ここまで出かかってたのにィ」

「アハハハ、クラウド遅いんだよ〜」

 七部目付近で班ごとに散会、早速実習開始だ。

 今回は、血止めの薬と、解熱剤を作ること……これが課題だ。

 もちろん、実際戦地に赴く場合には、神羅の従軍医師や衛生兵が同行するわけだが、不測の事態に陥ることもある。たったひとりで凌がねばならない状況に遭遇したとき、サバイバルの実習は役立つのだ。そして兵士部門の採用でソルジャーを夢見るクラウドたちには、とても大切な実地訓練になる。

 それゆえ、今回の実習は、いわば彼らにとって、近未来的にかなり役立つであろう、研修旅行の重要な目玉であった。

 

「ねぇねぇ、これってなんだっけ」

 ああ、あれはクラウドの声だ。きっと班長にでも確認しているのだろう。

 やや高めのクラウドの声は、少年たちの間でも、よく聞き分けることが出来るのだ。

「オウレン草?」

 と横から答えたのは、眼鏡の少年、アルクゥだ。

「いや……その亜種でセリバオウレンじゃないのか?」

「オウレン草とは効能が違うの? イングス」

「ちょっと待て……調べる」

「確か根と葉と分けて使えるんじゃなかったっけ?」

「それはフツーのオウレン草も同じだろ」

 オウレン草ね……そういや、そんなの習ったっけ。一応、俺も実習した経験はあるはずなんだけど……

 ……あー、その辺、完璧忘れてるっぽい。そういや、修習生のころ、薬草事典とか配られたよな。試験勉強で暗記もしたっけ……

 ソルジャーになってから、かなり危険な任務にも着いたが、薬も食い物もないという極限状況には未だ陥ったことはなかった。それはもちろんいいことなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 幸い天気に恵まれ、ほぼ予定の時刻に目的地に着いた。

 ここは山岳のほぼ七部目。昼食を終えた修習生たちは早速薬草摘みの続きや、選別作業に入った。今日の日中に選別採取を行い、夜は唯一平地のある山頂付近でテント泊だ。

 課題の提出は明日の帰還後だから、夕方から夜間に薬の精製を行うことになる。もちろんご丁寧な器具など無い、限られた道具を駆使して。

 出発の時刻が明日の昼というのが、せめてもの情けなのだろう。下手をしたら夜通し四苦八苦する班もあるだろうから。

 

「ザックス〜」

 タカタカと軽い足音で駆け寄ってくる奴がいた。もちろん、こうして気軽に俺に声をかけてくるのはクラウドだ。

「おーう。上手くいってるか? なんか質問か?」

「ううん。できるかぎり自分たちの力でやろうって、班長が」

「あー、イングスっつったっけ。あいつマジでしっかりしてんなぁ」

 自習中の態度を思い出し、うんうんと頷く。

「うん、ホントそう思う〜。授業の宿題だって、いっつも満点だし、指されて『わかりません』って言ったことないしね〜」

「すげェなァ」

 感嘆の吐息をつくと、クラウドがクスクス笑いながら言い返した。

「『すげェなァ』って、ザックス、ソルジャーじゃん。修習生のときは班長みたく出来たんじゃないの?」

「まっさか。指されて答えらんないのなんて日常茶飯事よ。一応実習系はメチャメチャがんばったつもりではあるけどさ〜」

「実習って、今みたいな奴?」

「ああ、それもそうだし、バトルの実技とかな」

「ふぅん、納得〜 あ、そうそう、ザックスにこれ持ってきたの」

 おしゃべりに夢中になっていたのか、クラウドはハッと顔を上げると、ザルに入った木苺を差し出した。

「あっちの……ちょっと奥の方にね、群生してる場所を見つけたの! ザックス、ゴンガガにいたとき、よく食べたって話してたじゃない?」

 ジーンと胸が熱くなる。

 ……ああ、クラウド……ホント、こいつ……可愛いなァ……手ェピンク色に染めちゃって一生懸命摘んでくれたんだな……

 なんというか、俺の中で、こいつの『愛しい弟』ゲージがロケットブースター並みに跳ね上がってくる。

 あー、やっぱあのクソワガママな英雄に嫁に出すのは嫌だぜ、兄ちゃんは……

「サンキューな、クラウド。こりゃずいぶんたくさんあるなぁ。一緒に食おうぜ」

「うん!これ、甘くっておいしいね!ザックスの言ったとおりだ」

「あー、懐かしい味だぜェ」

「へへへ、よかった。ニブルヘイムにはあんまり木苺って生えてないんだよ。ニブル山のほうまで行けば見つけられるけど、子供はダメって言われててさァ」

「そうかそうか、そういやけっこう険しい山みたいだもんな、子供にゃ危険だぜ。ああ、美味い!」

 ゴンガガに地生しているのは、種類が違うのだが、木苺は木苺だ。もうちょっと酸味が強いヤツなんだが、こいつはその分甘くて美味い。

「でも、これって舌が紅くなっちゃうんだよな!」

「そうそう、ほら!」

 べーっと舌を出すクラウド。まだまだお子様だ。

「あーあ、真っ赤だぞクラウド。ってことは俺もだな。だが、美味い〜……ミッドガルなんかにいると、加工食品ばっかだからな〜。こういう野生の味わいに飢えるぜ〜」

「そうだよね〜。もちろん寮のゴハンとかもおいしいんだけどね。リンゴとか野いちごとか自分で採って食べるのとは違うよね〜。さーて、そろそろみんなのところ、戻らなくっちゃ」

「おう、サンキューな、クラウド」

「うん!あ、そうだ。心配しないでね!ちゃんと実習の薬草集めも進んでいるから!」

「ハイハイ、わかってるぜ。頑張れよ!」

 そういってやると、ふりふりと両手を振り回し、クラウドは元の場所へチコチコと走り戻った。