〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<14>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 引率のソルジャーである俺たちは、最後の見回りに出た。

 時刻はまもなく午後10時。

 修習生たちのテントを一通りのぞいていくだけなのだが、これがけっこう手間がかかるのだ。

 中の明かりが消えているテントは、すでに消灯済みという意思表示と見なして、いちいち点呼をとらない。まだ活動しているチームのみ、見て回るだけなのだが。

 ごく普通の学校だったらおそらく反対だろう。だが、神羅の見習い兵である彼らには、その辺りの自覚は期待できそうであった。

 天幕の明かりが消されている班もいくつかあったが、やはりまだ苦戦しているチームが多そうだ。

 そういや、俺のときは完徹してたっけ。……班長が。

 

「ウース、最後の点呼だぞ〜」

 勝手知ったるクラウドらのテントをのぞいたが、反応はナッシング。いや、作業が上手くいっていないっていうんじゃなくて、それに集中し過ぎていて俺に注意を向けてくれないのだ。

 クラウドなんて、気がついているくせに、こちらを見てもくれない。

 ……俺的にはちょっと寂しいゾ。

 

「おーい、みんな、これ最後の点呼だから。後は規則を守ってテキトーにやってくれ。明日の集合は9時。変更なしだ」

「はい、ザックスさん。……じゃ、これで」

 ……班長のイングス。あくまでも態度は丁寧だが、心ここにあらずだ。

「イングス〜! ごめん、ちょっと見て! さっき、本に書いてあったとおりにやってみたんだけど……」

 俺がすごすごとテントを出てからも、クラウドの焦った声や、ルーネスとイングスの会話、バサバサと音がするのはアルクゥが教本でも取り出したのだろうか……そんな物音ばかりであった。

「ごめん、どうしよう…… これで上手くいかなかったら、薬草が足りなくなっちゃうよね」

「落ち着け、クラウド。手順で間違ったところはないか?」

「あ、待ってイングス。確かアルクゥの持ってる本にもうちょいくわしく書いてあるヤツが……」

 うーむ。

 どうやら、クラウドたちの班にあてがわれた課題は、けっこう厄介なものだったらしい。

 今回の課題は、班ごとに少しずつ異なるのだ。まったく同じだと、教え合ったりしてしまう可能性があるから。

 どういったものが当たるかは、完全にランダムだから、運不運はどうにも致し方ないのだ。

「ま、これも試練だ。がんばれよ、クラウド」

 そんなふうに、つぶやきつつ、俺は自分のテントに戻った。

 

 ……異変は、その夜に発生した。

 

 

 

 

 

 

 俺はゆっさゆっさと身体を揺さぶられる感触で目を覚ました。

 さっきまでの夢が、船に乗っていたのに、セフィロスに海に突き落とされた話だったせいか、妙な既視感で気分が悪くなりそうだった。

「ザックスさん! ザックスさんッ!」

 大声を俺を起こしていたのは、クラウドのチームの班長……くそ真面目なイングスだった。傍らにルーネスも居る。

 ……こいつも髪を下ろすと、女の子みたいな可愛い顔してるんだな。

 ……いや、何を言ってんだか、俺は。

 

「ザックスさん! 起きてくださいッ」

「ん〜 なんだよ、まだ起床時間じゃ……」

「ザックスさん! 起きて!」

「イングス……なんだ? どうしたんだ?」

 ようやく目覚めた俺の前に、血の気の引いた少年の顔。

 血相を変えた彼の面持ちに、腹の底が冷えるような不安が襲ってきた。それを煽るかのごとく、テントの外をビュオォォォと突風が過ぎ去った。

「……ザックスさん……! すみませんッ」

「それじゃわからないだろ! どうしたんだ?」

「すみません! ク、クラウドが…… あ、俺が気がつかなかったせいで……」

「違うんですッ! イングスは悪くない。俺がクラウドを止められなかったのが……」

「おいおいおい! ちょっと待て、おまえら。とにかく落ち着いてきちんと話をしろ」

 取り乱す修習生を宥め、とにかく落ち着かせて説明させる。

 尋常でない状況は彼らの顔を見ればわかる。

 俺自身押しつぶされそうな不安感を押さえ込み、彼らの話に耳を傾けたのであった。

 

「クラウド、自分が失敗しちゃったの、すごく責任感じたみたいで…… 俺たちは誰も彼を責めるつもりなんてなかったし、もう仕方がないよってことで話はついたと思ったんですけど……」

 ルーネスが低くつぶやいた。

「とりあえず、できたほうだけ提出して、ダメになった課題については、途中までのものを出して、失敗した旨を教官に話そうって、みんなで決めて寝ることにしたんです。……もう、真夜中になっていたし。皆、疲労が溜まっていたし」

 班長が注意深くそう言った。

「でも…… クラウド、あきらめきれなかったみたいで…… 自分が失敗して材料が足りなくなったっていうのを、ものすごく気にしてたらしくて、夜中に抜け出したんです。俺、寝付きが悪いから、気づいて後追いかけたんだけど……」

 ルーネスの話をまとめると、結局こういうことだった。

 課題の制作途中で、クラウドが担当した部分でミスがあったらしいのだ。その結果、薬草が足りなくなってしまった。

 班員は仕方がないとあきらめて眠ったところ、責任を感じたクラウドが、ひとりで薬草を探しに出て崖に落ち、足をくじいて帰れない状態になっているというのだ。

「大丈夫です。場所はわかっています。今、アルクゥたちがクラウドについていますから。ただ段差があるし、雨も降っているし……風が強くて引き上げるのが難しくて……」

「早くそれを言えっつーの! おまえら、案内しろ! 急ぐぞ!」

 

 俺は大剣を背に抱え、非常用具をガキどもに持たせるとテントの外に飛び出した。

 思ったよりも強い雨が、俺の横面を叩いてきた。