〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<15>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 

「アルクゥ!」

「おいッ、どうしたんだ!」

 教えられた場所は、キャンプ場から少し下ったところだ。切り込んだ崖からは、下方に森がのぞける。さながら新緑の樹木が、絨毯のようだった。

 アルクゥという少年は、崖に向かって突っ伏すように倒れていた。傍らにはあの元気のいいバッツという少年が呆けたように座り込んでいる。

「おい、どうした! しっかりしろ!」

 俺はクラウドよりもさらに小柄な少年の肩を掴んだ。

「うっうっうっ……うえぇぇぇ……」

 彼は正体なく泣き崩れている。

「おい、バッツ! バッツ! しっかりしろよ。どうしたんだ、クラウドは……」

 叱りつけるようなイングスの声に、バッツがようやく顔を上げた。

「……は、班長……?」

「そうだよ、どうした!? 何があったんだ……!!」

 俺はまだまともに口がきけそうな、バッツという少年を見遣った。手が嫌な汗でぬるぬるとすべる。雨風のせいで寒いくらいなのに、頭の奥と胸のあたりが、じりじりと焦げ付くように熱い。

「……突風が……吹いて……」

「そ、それで……」

「雨……強くて…… もともと足場が悪かったんだ。助けが来るまでしっかりロープにつかまってろって言ったんだけど…… クラウド……」

「…………」

「ク、クラウド…… クラウドが…… うっ……うッ……」

「泣くな、しっかりしろ! クラウドはどうしたんだ? 落ちたのか? それともまだ……」

「か、風に吹き飛ばされるみたいに、身体が浮いて……ロープがこすれて切れちゃって……」

 そうか、アルクゥが握りしめていたロープがそれだったのか。

 確かにこの崖は下の方は土壁が混ざっているが、このあたりは岩盤だ。うかつにロープを引くと、するどい岩でちぎれてしまうこともあるだろう。

「あっという間だったんス。ホントに……俺たちも何が起こったのかわかんないくらい……あっという間に姿が……見えなくなって……」

「うあぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁん……!」

 パニックを起こしたように、ルーネスが声を上げた。アルクゥも再び泣き伏してしまう。

「おお、落ち着けッ! とにかく冷静になるんだ!」

「ザ、ザックスさん……」

「おい、ガキども! クラウドの吹き飛ばされた方向はわかるか? 向こうの……森の方角か? それとも左の崖の……」

 ああ、せめて森側であったなら……!

 無事で……とはいわないが、崖側より助かる可能性はあるはずだ。

 上から眺めると、黒々とした葉のクッションが敷き詰められている。落下の衝撃もある程度押さえられるかもしれない。他方崖側は岩と土で出来た絶壁で、なにも受け皿になるようなものはないと思われる。

「わ、わかんないけど……でも……」

「吹き飛ばされたとしたら……崖側でしょう、ザックスさん。風は北西から吹き付けてきています。……雨も」

「……ちくしょう」

 俺は低く悪態をついた。吐かずには居られなかった。

 

 

 

 

 

 

 いつまでもここに佇んでいても仕方がない。

 俺はずぶ濡れになったガキどもを、すぐにテントに返した。

 彼らはクラウドを探すと言って、なかなか聞き分けなかったが、それは俺たちの仕事だ。研修生に任せて二次被害が発生しては元も子もない。

 とにかく俺が……俺たち、ソルジャーがなんとかしないと。

 

 だがこの雨に風……夜闇の中で人ひとりを探すのは、ひどく困難だ。

 もう……クラウドは……

 いや、そんなはずはない。彼に本当に何かあればわかると思う。クラウドは絶対に生きている。ただ、帰る術がないだけで…… しぶとく頑張っているはずだ。

 クラウドはソルジャーになるために、神羅に入社したといっていた。

 

 まだ、おまえは修習生じゃねーか! ようやく子供の頃からの夢に向かって一歩踏み出し始めたところだろう?

 死ぬなよ……! 必ず助け出してやるからな!

 俺は真っ暗な崖淵をのぞき込み、強く念じた。

 

「ザックス……!」

「ああ、カムラン。……まずいことになった」

「まったくだな。……崖に行くのは禁じていたのに……」

「今更言っても仕方ないさ。それにこの天気だ。……天候を甘く見た俺にも非がある」

 俺の物言いがあまりに苦しげだったのか、昔からの同僚は、ぽんと肩を叩き、「わかってる」とささやいた。

「そうだな。山の天気は変わりやすいのにな。俺もちょっと油断してたよ。おまえと一緒の任務だったし、これまでトラブルらしいトラブルは起こってなかったし」

「カムラン……」

「これから、研修所に連絡を入れても始動は明日の朝になるだろうな」

 苦々しげに同僚がつぶやいた。

「ああ、この雨と風だ。普通の人間なら、ここまで登ってくることすら難しいだろう」

「…………」

「だから、フツーじゃないヤツらに手を貸してもらおうと思う」

 と俺は言った。彼が不思議そうに俺を見る。

「なんだよ、それ」

「……だれにもいうなよ、カムラン」

 そう、前置きをして、俺は言葉を続けた。

「……セフィロスとジェネシス……麓の街に来ている。お忍びらしい」

「マ、マジ……!?」

 カムランもソルジャーだ。あのふたりの自己中はよく知っているが、さすがに研修旅行についてきたという事実には驚愕した。

「だ、だが、セフィロスさんはまずくないか? 確か、あの子だったよな?セフィロスさんの……」

「ああ、セフィロスのほうが一方的にな。とりあえずはジェネシスだ。ムカツク野郎だが頼りになる。……いや、俺なんかよりずっと……」

「おい、ザックス! 落ち込んでいる場合じゃねーだろ!」

 同僚に叱責され、俺は頭を振った。

 そうだ、落ち込んでいる場合じゃないんだ。しっかりしろ!バカ!

 さっきは、年下の……研修生がいたから気を張っていられたが、同僚の前で気がゆるんだ。

 自分に非があったとか、山の天気がとか、つまらない慚愧の念は捨て去れ!今、すべきことをするんだ!

 かならず……かならずクラウドを助ける。

 

 カムランに本部への連絡を頼んだ後、俺はリュックの中ではなく、剣のホルダーの底から携帯電話を取りだした。

 まだ、一度も使ったことのない衛星携帯電話。これなら、普通の携帯では電波の届きにくい場所でも通じる。

 

「頼む……出てくれ!」

 そう祈りながら、ジェネシスの番号を押していった。