〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<16>
 ザックス・フェア
 

 

 


何度目かのコール音の後……

「ん……だれ……?」

 と、掠れた声が出てくれた。

 その瞬間、涙が出そうになった。

 ああ、情けない、情けない、俺。もう二度とこんな思いはしたくない……! 強く、賢い男になりたい……!大事なモノをきちんと守れるヤツになりたい……!

「ん……もし……もし?」

「ジェ、ジェネシス……!」

「……あれ……? もしかして、ザックス……?」

「あ、ああ」

 彼が俺だと認識してくれたことに、深い安堵の吐息をつく。たったこれだけのことが、まるで吹雪の中で人家の明かりを見つけたような心持ちにさせた。

「ザックス……?」

「ああ……俺だ。……ジェネシス……た、助けて欲しい……」

「……どうしたんだい?」

「ジェネシス……! 頼む、力を貸してくれ……! どうすればいいのか……わからないんだ……!」

 唐突すぎる俺の言葉を黙ったまま彼は聞いていた。泣きながらの全面降伏を茶化すこともせず、彼は静かに先を促した。

「落ち着け、ザックス。大丈夫だから、おまえの望むようにするから。……きちんと話をしてくれ」

 彼の口調はいつもとほとんど変わらず、それは俺をひどく安心させた。

 それでもつっかえつっかえになってしまった説明を、彼は辛抱強く聞いてくれた。

 

 現時点では本部からの救助隊も期待できないこと……そして山頂は雨脚も強くときおり、突風さえ吹いていること。

 クラウドの姿が見えなくなったのが崖淵で、おそらく森ではなく切り立った崖側に落ちた可能性が高いということ……

「俺のせいだ……俺たち……引率のソルジャーがもっと天候に留意していれば…… 途中で気圧が下がったのには気づいたんだけど……大丈夫だと思って…… クラウドが行った場所も、雨風さえなければ、それほど危険なところではないんだ…… きっと見通しが悪くて足を滑らせて……」

「…………」

「俺のせいだ……! 油断していたんだ……! テロリスト相手やモンスター駆除よりは楽な任務だって…… だから……!」

 ぼろぼろと涙がこぼれてきて、情けない嗚咽が喉を割った。

「ザックス。わかったから……大丈夫だから。おまえもチョコボも悪くないよ」

「気休めはよせよ……! 俺が悪いんだ…… クラウドが見つからない……見つからないんだ……!」

「……しっかりしろ、ザックス。さっきから言っているだろう。見つかるよ、必ず。さぁ、いくつかの質問に答えてくれ」

 そういうと、ジェネシスは、まるで箇条書きの文章を読み上げているように、細かな質問をひとつずつしていった。

 たとえば、キャンプ場の側に川はあるのかとか、地形はどうなっているのかとか、まるで地図をなぞるように詳細な確認を求めてきたのであった。

 

 

 

 

 

 

「……ザックス、いいかい? 地図を見て」

「え……あ、ああ…… 山の地形図でいいのか?」

「そう、君たちと修習生が持たされている詳細なヤツだよ」

 なんで、ジェネシスがそんなこと知ってるんだ……? 持っているのか?

 ああ、いや、今はつまらないことを考えている場合ではない。

 俺はジェネシスの指示に従って、リュックに詰め込んでいた地図を床に広げ、そこに、這うように身を乗り出した。

「俺は今、ポイントA−2地点に居る」

「え……?」

 な、何いってんの……? この人……

 だって、ずっと電話で話していたのに…… 確かに状況説明とかしてたから、電話の時間は長かったけど……それでも20分ちょっとくらいだろ……?

「聞いてる?ザックス」

「え、あ、ああ……でも、アンタ……いつ……?」

「そうか。びっくりしているんだね。君の声が最初からせっぱ詰まっていたんでね。何かあったのだとすぐにわかった。だから、電話しながら着替えを済ませて車に乗ったんだよ。信号無視くらいは許されるだろ?」

「……ジェネシス……」

「今、麓から登り始めている。残念ながら車やバイクではここまでが精一杯だ。……ま、顔は洗えなかったんだけど、この雨だから同じかな」

 いつものように、彼はくすくすと忍び笑いをした。

「さて、魔法の説明が終わったから、次、行くよ。ええと……今はもうA−3地点だ。一時間弱で君たちの最後の休憩場所……ポイントE−1に到着するから。おまえもその場所に来てくれ」

「い、一時間弱って……?」

 う、うそだろ?

 だって修習生と一緒とはいえ、俺たちは三時間かかっている。しかも晴天のときに……

「ジェネシス…… いくらなんでも」

「大丈夫だから。ヘリが出せれば良かったんだけど、この天気じゃ無理だからね」

「あ、ああ……それはそうだけど」

「じゃあ、言った時間に来てくれ。通信を切るよ。とりあえず登るのに集中したいから」

「ジェ……ジェネシス……」

「ザックス。しゃんとしろ。……チョコボっ子は大丈夫だ」

 最後の一言を思いの外優しい声で言ってくれて、電話は切れた。