〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<21>
 ザックス・フェア
 

 


 だんだん足先に感覚を感じなくなってくる。

 夏とはいえ、数時間雨の降る断崖に張り付いているのだ。俺たちはソルジャーの戦闘服を着込んでいたが、この状況では体温が奪われるのも道理であった。

 おまけに疲労も蓄積されているせいだろう。さっきから視界が幾度となくブレる。

 

 セフィロスと合流するまでは、上からのライトもおぼろげに光っていたし、ロープもしっかりと身体に巻き付けてあった。だが、今はそのどちらも無くなってしまっている。

 あまりにも長い距離を移動したため、命綱のロープは外さざるを得なくなったのだ。結果、さらに注意力集中力を要求される形になり、俺たちの疲れに拍車を掛けていた。

 

 責任ある俺が泣き言を口にするわけにはいかなかったが、ずっと捜索の手伝いをしてくれているジェネシスとセフィロスには申し訳ないと感じた。だいたいふたりは仕事でやってきたわけではないのだから。

「ザックス、大丈夫か?」

 後ろから声が聞こえた。ジェネシスだ。

「ああ、俺は平気だ。……ただアンタらにはすまないと思っている」

「いいんだよ、よけいな気遣いは」

「だが……」

「てめぇら! ぐだぐだ言ってないで気合いを入れて探せ! 早く救助しなければクラウドが風邪を引いてしまう!」

 先頭切ってざくざく進むセフィロスが、ややヒステリックに怒鳴ってきた。

「はいはい、わかってるってば。ちゃんと探しているよ」

 と、上手くジェネシスがいなした。

 しかし、『風邪を引いてしまう』とは。このエロ大魔神は、クラウドに万一のことがあるなんざ、まったく想定していないのだろうか?それとも恋する者の本能で、なにやら確信めいたモノがあるのだろうか?

 そんなに繊細な男には見えないのだが……

「あぁ、クラウド……クラウド……クラウド……クラウド……」

 念仏のように、大切な少年の名をつぶやいているセフィロス。

 この非常時にその姿は滑稽でさえあった。

 

 

 

 

 

 

 と、そのときであった。

 

 先頭を歩かず真ん中を進んでいた俺が見つけたのは、ほとんど偶然だったと思う。

 俺たちの歩いている道……いや、道なんて言える代物ではない。薄っぺらい足置き場より、さらに下の方に『ソレは引っかかっていた』。

 薄ぼんやりとした黄色っぽいアレは……おそらく。

 ……暗くてよく見えないが、間違いないはずだ。あれはクラウドが行方不明になったときの服装と一致する。だいたいこの暗闇の中で、あそこだけ黄色っぽく光っているなんておかしな話じゃないか。

 本当なら、まず自分の手持ちのライトで確認すべきだったのだろう。

 だが、すでに俺自身、尋常な判断が下せるような精神状態ではなかった。とにかくクラウドを見つけた!、ただそれだけで頭の中がいっぱいだった。

「ジェ……ジェネシス! セフィロス……! あ、あれッ! ク、クラウドだ……!!」

 気がついていた時には、もう叫んでいた。

「どこだ、ザックス!」

「おい、ザックス、テメェ! 見間違いとかじゃあるまいな! オレが気づかなかったのに……! どこだ、オイ! 早く言えッ!」

 クソデカイ男ふたりが、ぐわっ!とばかりに俺の方へ身を乗り出す。危うく足を滑らせそうになり、ひしっとばかりに壁に手をついた。

 

 ふたりのソルジャーに注意を促すと、オレはほぼ確信めいた気持ちで、ペンシルライトを掲げた。さきほどぼんやりと闇に浮かんでいたあの場所だ。そこさえ見てもらえば、クラウドのレモンイエローのパーカーが目に入るだろうから。

 クラウドとおぼしき人影の位置は、進行方向……つまり崖から森へのちょうど中間地点であった。もちろん高度があるから、崖の下は真っ暗な闇になっているし、森側も漆黒の葉の群生が見られるだけだ。

 そこにクラウドは、うつぶせになるような形で身体を丸め、ゆらゆらと揺れていた。

  

「クラウド……ッ! クラウド……ッ!」

 即座に彼の姿を確認したセフィロスが、感極まったように身を乗り出し、大声で彼の名を口走った。だが、それを間髪入れず制止したのはジェネシスだった。

「ダメだ、セフィロス!」

「なぜ止める! アレはクラウドだろッ?」

「そうだよ、ジェネシス!おそらく間違いないだろッ!服装も修習生に聞いた通りだ!」

 俺も急き込むようにそう告げた。

「だったら……!」

「……ふたりともあの子の状況をよく見ろ」

 低くつぶやくと、ジェネシスはペンシルライトではなく、唯一の簡易懐中電灯を点してみせた。

 さきほどまでぼんやりとしていた彼の姿が、今度はかなりハッキリと確認できた。

 やはりそれはクラウドに間違いなかった。うつぶせているから顔は見えないが、金の髪もレモンイエローのスポーツブランドのパーカーも言われたとおりだった。

 だが……

 

「…………ッ!」

 その姿を見て、俺は思わず息を詰めた。ギリリと鈍い音が聞こえたのは、セフィロスの歯ぎしりだろう。

 クラウドを支えているのは彼の上着……パーカーの裾の部分であった。

 つまり、彼の身体のどの部分も、地面に着地している部分がない。

 壁面からニョキリと突き出した何かの枝に、彼の服の一部が引っかかって全体重を支えていたのだ。

「お、おい……セフィロス……」

 俺は息を呑んだ。

 下手に身じろぎすれば、服が外れるか、最悪枝が折れて、真っ逆さまだ。

 クラウド本人は気を失っているのか、だらりと両腕を伸ばしたまま、ロング丈のパーカーに宙づりにされるような格好で項垂れていたのだ。

「……むやみに目を覚まさせない方がいい。パニックになったら枝が折れて終わりだ」

 ジェネシスが言った。そのとおりだ。

 いくら神羅の兵士とはいっても、まだまだ修習生の子供だ。この高度で宙づりにされていたら、平静でいられるわけがない。

 俺たちは暗闇のなかで、蛍のようにぼんやりと浮き上がった小さな身体を凝視していた……