〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<13>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「あっはっはっはっ! あーっはっはっはっ!! ああ、おかしいッ! あのときのザックスの格好! あの顔ッ!! アハハハハッ!」

「お、おい、いい加減、笑うのよせ! まわりの連中に変に見られるだろ!」

 俺は本気で怒鳴りつけたいのを必死にこらえて、低く注意をした。

 ただでさえ、ソルジャークラス1stの双璧、しかも長身美形のジェネシスは、めちゃくちゃ目立つのだ。先ほどから何人もの女性社員が、こちらを振り返って頬を染めたりしている。

 だが、当の本人は、未だ苦しそうに腹を抱えているのだ。

「だ、だって……だって…… おまえ、目つぶって、なんかブツブツ唱えててさ。アレって何なの?なにかの呪文?」

「……俺的には壁になりきろうとしてたんだよ! 仕方ねーだろッ! アンタより先にツォンが出てこないとも限らなかったんだからな!」

「き、き、気持ちはわかるけど…… あはははは! あ〜っ、お腹が痛いッ!!」

 身をよじって笑うジェネシス。

 59階からエレベーターに乗り込むまでは、必死に吹き出すのをこらえさせていたのだが、エレベーターのドアが閉まると同時にはじけるように爆笑した。

 その余韻を引きずり、ソルジャーの執務室があるフロアまでやってきても、まだゲラゲラと笑っているのだ。

 

コイツ、笑い上戸なのか!

「あっはっはっ、本当におまえは面白いなァ、ザックス!」

「そんなコト言うの、アンタくらいだよ! 仕方ないだろ!隠れる場所もなにもなかったんだから!」

 憮然とした面持ちで、俺は言い返した。

「そ、それはそうだけどさ〜。フツー、あの場所にたどり着くまでに色々と考えておかない? しかも覗きまでするつもりなんだったらさ」

「……頭のネジ吹っ飛んでた」

「あっはっはっ! ザックス、可愛いなぁ! ああ、アンジールがうらやましい。別にザックスはアンジール付きってわけじゃないのに、独り占めはずるいよなァ〜」

 挙げ句の果てには、そんなことまで言い出す始末だ。

「アンタ、さっきから何アホなことばっか言ってんだ! 今、それどころじゃないだろッ!」

「ああ、わかってる、わかってるってば」

 ニヤニヤとヘタレた英雄の片割れを引きずり、とにかく人目の無い場所を探した。

「ええと……セフィロスも呼んだ方がいいかな。今朝はふて寝してたみたいだけど」

「いや、別にそんなに話すこともないよ。多分、もう大丈夫だから」

 アッサリとそう言い返され、俺は一瞬言葉を失った。

「な、な、なんだよ、大丈夫って何がッ!?」

 俺の剣幕に、廊下を歩いていた連中が立ち止まって振り返る。

「や、やべ…… ええと……どっか話せる場所……」

「それじゃ、俺の部屋へ来いよ。大丈夫、何もしないから」

 何が大丈夫だってんだよ!? 気持ち悪ィんだよ!

 ……と怒鳴りつけたいところだったが、今はとにかく話を聞きたくてたまらなかった。

 結局、ジェネシスの勧めに従い、俺は彼の部屋にお邪魔することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ザックス、何飲む? いろいろあるよ。紅茶? ハーブティー? ああ、そういえば、ローズヒップティーの美味いブランドを最近見つけてね……」

「水でいいよ、水でッ! それより話の続きを聞かせろ!」

 モノが多い割には整然と整えられた室内。どうも、こういう部屋は落ち着かないのだ。

 対照的に、同じ造りのセフィロスのVIPルームは、ほとんどものを置いていないのに、雑然とした印象がある。あいつは書類だの雑誌だのを、至る所に放り出してあるし、上着などもソファに引っかけたままだからだ。

「やれやれ、せわしないなァ」

 ぶつくさと文句を言いながらも、気に入りとやらの何とか茶を淹れてくれた。

 ……なんだ、コレ、砂糖も入っていないのに、妙に甘ったるい香りがする。

「話って……ザックスも聞いていたんだろう? ドアにひっついて……」

 そこまでいうと、またもや笑いの虫が頭をもたげてきたのか、ヤツは苦しげに腹を押さえた。

「まぁな。だが全部聞こえたワケじゃねーよ。特にツォンの声はほとんど聞き取れなかった」

「ああ、そうだね。彼、病人みたいな様子だったし」

 大して同情してもいなさそうに、ジェネシスは言った。

「……この前の夜、タークスの連中と飲みに行っただろ? その時の会話を聞かせてやったんだよ。ああ、もちろん、安心して。レノたちにお咎めがないように、話を持って行ったから」

「……録音なんてしてたのかよ……そんなこと全然……」

「ザックスは素直だなァ。もちろん最初から全部録っていたさ。でなければ意味が無いじゃないか」

 ごくあっさりと認めるジェネシス。

「…………」

「ツォンもあれを聞かされた上に、今日の号外を見れば考え直さざるを得ないさ。なにより今回の一件は、これで社長の耳にも入っているはずだからね」

「……そ、そうかな」

「客観的に判断してごらん。上層部としては穏便な処分で済まさざるをえないよ」

 ……確かに。

 神羅の英雄が修習生を命がけで救ったのだ。新聞にはクラウドの名前も書かれていた。

 されに言うのなら、自ら『不当解雇』だの『修習生はとばっちり』だのと発言しているツォンとしては、何が何でもルーファウスの独断専行を止めざるを得ないだろう。しかも証拠をこのジェネシスに握られているとなれば……

「じゃ、じゃあ……クラウドは……」

「ああ、少なくとも最悪の事態は免れるだろう。そりゃ、何らかの処分は下るだろうけどね」

「よ……よかった」

 いつの間にか立ち上がっていた俺は、それこそソファに頽れるように腰を下ろした。甘ったるい変な香りの飲み物を一気に喉に流し込む。ひどく喉が渇いていたから。