〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<14>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「本当におまえは友達思いのいい子だね」

 『子』などという呼ばれ方は、非常に腹立たしいが今は反論する気力もない。

 目の前の野郎は、数日前の劣勢をあっさりとひっくり返したのだ。

 しかも俺やセフィロスの協力など一切なしにだ。

「……あのよ……今日の号外ってさ……」

「うん? ああ、これね」

 ジェネシスは自分でも一部採っておいたのであろうそれを、デスクの上から持ってきた。

「最後のページのセフィロス……まるで天使だな。もともと造形はズバ抜けていいんだから、普段からもう少し笑えばいいのに」 

 ヤツはクラウドを抱きかかえたセフィロスのどアップを眺めつつ、そんなことをつぶやいた。本人がここにいたら血を見ることになったに違いない。

 

「この号外って……もしかしてアンタの仕業?」

 俺は恐る恐る訊ねたが、ヤツはひどく楽しげに

「うん、そう」

 とあっさり頷いた。

「ど、どうやったんだよ…… 変だと思ったんだ。事故発生から、ずいぶん時間経ってるし……何で今さらミッドガルで号外が撒かれるのかって…… 地元のローカル紙だって、文字だけの記事がちょこっと載ってただけなのに……」

「フフフ、俺だってマスコミにはそれなりにコネクションはあるんだよ。……それにこの写真はね……」

 といいながら、こそっと俺に耳打ちした。

「ご、合成写真!? こ、これがッ!?」

「しーっ! そんな素っ頓狂な声を出すんじゃないよ。でも、そんなに驚いてくれるとは嬉しいなぁ」

 だ、だって、驚くだろッ!? 全然違和感がないし…… 俺はいったいあの状況で誰がどうやって写真を撮ったのかを訊きたかったのだが……

「俺、コンピューター、趣味だからね。グラフィックソフトはとても面白いんだよ」

「…………」

「ま、ザックスが欺せたんなら、バレる心配はなさそうだな。よかったよかった!」

 ジェネシスはいつものように、声を上げて笑った。

「アンタ……ホント、なんでもできるんだな……」

「子供は産めないよ」

「バッ……たりめーだろッ! そーゆーコトじゃねーよッ!」

 俺は大声でヤツを叱りつけた。

 ……というか、本当は何度礼を言っても足りないくらいなのに。

「ふふっ、まぁ、しばらく成り行きを見ていればいい。俺はもう心配ないと思うけどね」

「あ、ああ、そうだな……確かに」

「たぶん、もうツォンが上手いこと話を取り纏めているんじゃないかな。副社長だって馬鹿じゃない。私情に流されていい状況と、そうでない場面くらいは心得ているはずだ」

 俺は素直に頷いた。ルーファウスという人物についての分析は、俺もジェネシスと同じだったからだ。

「ま、後の問題はセフィロスだな。この前はけっこうキツイ言い方したから、しばらくは自重してくれるかもしれないけどね。ただ突飛な行動に出ないように、それとなく見張っててくれよな、ザックス」

「お、おう……その辺はわかって……」

 と言いかけたところだった。

 唐突にジェネシスの部屋のドアがノックされたのだ。俺はここでの会話を聞き取られたのではないかと、思わず息を詰めたのだが……

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス……! ああ、ザックスもここだったのか」

「なぁんだ、アンジール。ちょうど美味しいお茶を淹れたところだから入ってくれよ」

 のんきにジェネシスが誘ったが、アンジールはひどく落ち着き無い様子であった。冷静沈着で、ソルジャーの模範のような彼が、こんな態度でいるのはめずらしい。

「晩飯まだ? もしよかったらアンジールも一緒にどこかへ行かないか?」

 ジェネシスはマイペースで、そんなことを訊ねている。

「い、いや、あのな。ちょっと気になることがあって」

 と、生真面目なアンジールは話を続けた。

「こんな時間なのだが、さっきいきなりセフィロスが執務室に来たんだ……」

「そうなの? 朝からふて寝してたって、ザックスに聞いたけど」

「あ、ああ、私服だったし、病人みたいな様子でフラフラと入って来てな。……しばらく、デスクで呆けていたんだが、さっきものすごい勢いで部屋を出て行った」

 俺たちはほぼ同時にカッと視線を合わせた。

「セフィロスはどこに行ったんだ、アンジール?」

 俺は咳き込むように訊ねた。

「いや、訊く隙も無かったよ。なにか思い切ったように、血相を変えてドカドカッってな……」

「行くぞ、ザックス!」

「おう!」 

 アンジールの話をすべて聞き終える前に、俺たちは勢いよく立ち上がった。

「お、おい、おまえら……お湯沸いてるぞ、ジェネシス」

「飲んでおいてくれッ!」

「あ、お菓子もどうぞ!」

 口々にそう言い返すと、俺たちはダッシュした。

 もう、エレベーターなんぞ待っていられない。階段を二段飛ばしで駆け上がる。

 ああ〜、今日は階段走行ばかりだ!! 自主トレは免除だな!

 

「ジェ、ジェネシス! どこに向かって走ってんだッ!」

「決まっているだろう。副社長室だよ!」

 普段は疲れた疲れたと言うくせに、息ひとつ乱さずジェネシスが応えた。

「そ、そうか、副社長室……だよな! っつーか、もうセフィロスが話し始めてたらどうすんだ!?」

「わからないよ! だいたいセフィロスが副社長室に行って、何をいうつもりなのか……」

「く、くそっ! とにかく急ごうぜッ!」

 全力疾走の階段走行。

 それにも関わらず、前をゆくジェネシスに後れを取らないよう走るのは、正直かなりしんどかったのだ。

 悪ィ、クラウド。

 一緒に晩飯に行けるような状況じゃなさそうだ。