〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<15>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 60階、副社長室。エレベーターを出て、広いエントランスの右手奥に副社長室がある。

 もちろん、フロアはとても広いので、執務室ひとつというわけではないのだ。

 この60階は、ほとんどルーファウス神羅の生活空間といっても過言ではなく、副社長室の続きに、バスルームや寝室もきちんとあるのだ。それも高級ホテルのスウィート並のヤツが。

 エントランスは洒落た円筒形で、弧を描く壁面に沿って、来客用の待合室が並んでいる。

 扉は磨りガラスで出来ており、重厚な装飾がなされているのだが……

 俺とジェネシスは、注意深くそれぞれの個室に注意を向けた。極力人に聞かれたくはない内容なのだから。

 

 ここからさらに、ワンフロア上の社長室には、専用の秘書室がついているが、ルーファウスは特定の秘書を置いていない。

 理由は知らないが、以前セフィロスが、

『側に誰かいるとサボれねーんだろ』

 と話していた。

 ……側に大勢の人がいても、平気でサボれる人間に言われてもね、と思ったものだ。

 

「……副社長は部屋にいるようだね」

 ジェネシスがつぶやいた。

「じゃ、じゃあ、早く……!」

「待てよ。……他に人の気配がしないだろう。セフィロスはまだ来ていないようだな」

 ……ジェネシスの言葉に、俺は腰が砕けそうになった。

「よ、よかった…… ハァァ〜……」

「大げさだなァ、ザックスは」

「いや……だってよ……」

「セフィロスがいなくても、ツォンあたりがさっきの俺の話を伝えに来ていると思ったのだが…… その話はもう終わったのかな……」

「え……あ、ああ、あれから少し時間が経っているしな」

 俺は適当に相づちを打った。セフィロスの突飛な行動を止められたという安心感の方が強くて。

「ああ、アンジールに感謝だな! 知らせてくれなかったら、完全にスルーして……」

 と、言いかけたところである。

 唐突に直通エレベーターが開いた。60階から上にしか止まらないヤツだ。

 ドアが開くと同時に、仁王像のような男がダスッダスッ!と音を立てて出てきた。

「ぎあぁぁ!」

 あまりの迫力に俺は横に跳び退っていた。

 言わずもがなセフィロス、その人である。

 

 

 

 

 

 

「……なんだテメェら……」

 ドスの効いた声で俺たちを威嚇する。まるで飢えた猛獣の檻に入れられた気分である。

 ここ数日で少しやつれたみたいだ。ヤツのご面相はすこぶる付きの美形で通るだろうが、その頬がさらにシャープに削げ、氷のような双眸が、今はギラギラと不穏な光を宿している。

 それでも一応服を着替えてきたのだろう。

 ヤツの雰囲気はまさしく決戦前夜といった有様であった。

「ああ、よかった。おまえを探していたんだよ。少し話があるんだがいいかな?」

 いつもと変わらぬ雰囲気で、平気で口をきくのはジェネシスだ。やっぱりクラス1stの同僚だけある。

「退け、おまえらの話なんざ聞いているヒマはない。オレはルーファウスに用があるんだ」

「まぁまぁ、待ってくれよ。多分、おまえのその話と関係のあることだから」

 強引にジェネシスは彼の腕を取った。セフィロスが人を殺せそうな眼差しでギロリと睨み付ける。

「……なんだ、邪魔するな」

 低い声が、さらに低く淀んで擦れている。

 怖い……コエェェェェ!! い、いや、今ここで引いてどうすんだよッ!?

「セ、セフィロス! あの……ク、クラウドのことなんだけどな、今、いい方向に進みそうな気配なんだ!」

 俺はまるでそれが魔法の呪文だと言わんばかりに、早口で言い切った。

『クラウド』の単語が、テンパッてるセフィロスの琴線に触れたのだろう。ヤツはビクッと肩をふるわせると、俺を見た。……いや、睨み付けた、だ。

「……なんだと……?」

 ヤクザ顔負けのメンチを切ってきやがる!

「いや、ほ、本当に! アンタ、ここのところ閉じこもってたから! 話したかったんだけど、なかなかチャンスがなくて!」

 そう言いながら、俺はゲシゲシとジェネシスをどついた。口べたな俺では上手く説明できない。ここから先は仕掛けの当事者であり、話術の巧みなジェネシスに任せたかったのだ。

「……どういうことだ……? こんな場合なんだ、ウソや冗談だったら……貴様ら……」

「いやだなぁ、セフィロス。俺たちがおまえにウソをつくはずないだろう? 友達なんだから」

 いけしゃあしゃあと言ってのけるジェネシス。『友達』っつーフレーズはよしてくれ!

「…………」

「ほら、そんな怖い顔はよしてくれよ、セフィロス。おまえが副社長に何を申し述べるつもりだったのかは知らないが、俺たちの話を聞いてからでも遅くはないだろう?」

「…………」

「な?セフィロス」

 マイペースなジェネシスのようにはいかないが、俺も極力笑顔を作ってセフィロスを説得した。

「……よかろう。だが、貴様らの話が何の役にも立たないくだらんものだったら……」

「アッハッハッハッ、疑り深いなぁ、おまえは。いずれにせよ、この特別フロアでゴソゴソやってるのは上手くないな。さ、行こう、ふたりとも」

 ジェネシスは、鋼鉄の像のように突っ立っているセフィロスの腕を、平気でぐんぐんと引っ張っていった。俺も慌てて彼らの後について行く。

「ジェ、ジェネシス! どこ行くんだよ!」

 ひそひそと俺は訊ねた。とにかく何とか引っ張り出してきた、セフィロスの機嫌を損ねたくなかったから。

「ああ、そうだな。俺の部屋でいいだろう。茶器の準備もそのままだし」

 野郎ののんきな発言に、俺は額を押さえた。