〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<5>
 ザックス・フェア
 

 

「うっわぁぁ! 広いねぇ〜! ザックス!ザックス! 浜辺にも出られるよ!」

「あー、ハイハイ。浜って……本社の近くにもあるじゃんか」

「だって、全然綺麗さが違うよ! 貝殻とか拾えそう!」

 落ちてきそうな青空の下。

 臨海公園は……話しに聞いたとおり、本当に広くて、美しかった。

 俺みたいな無骨な軍人が、『美しい』などという単語を口にするのは少し気恥ずかしいが、本当にそう形容したくなる景色だった。

 巨大な公園には遊歩道が延々と続いており、よく手入れされた花壇には夏の花が咲いている。

 公園の中心には、象徴ともいえる、大きな噴水があり、小さな子供がその周囲を走り回っている。

 あちこちに屋外の飲食店が店開きしているが、衛生管理についてはかなり厳しく定められているのだろう。

 よく見かけるような食べこぼしや、簡易容器のゴミクズなどは、ひとつもなかった。

 

「そうだな。……あー、やれやれ。とりあえずメシにしねェ?」

「もう、ザックスってば、来たばっかなのに!」

「まー、いいじゃん。屋台でもいいけど、ブランチだし、ちゃんと食堂入るか」

 白を基調とした建物を指さしてクラウドを促した。ここはフードコートのようになっていて、中にはいろいろな種類の食堂が入っているのだ。

 ……俺が食堂という単語を発すると、すぐにジェネシスが『レストラン』と言い直すのだ。

「クラウド?」

「うん、そうだね。おれもお腹空いてきた。どうせ泳ぐんだし、今のうちに腹ごしらえしちゃお!」

 まだ初夏だというのに、しっかりと水着の用意をしてきている俺たち。

 たぶん海水はまだちょっと冷たいだろうけど、入れないことはないだろう。実際、サーフボードなどを持ち込んできている強者もいるくらいだ。

「よし、行こうぜ!」

 俺とクラウドは、まるで本当の兄弟のように歩調を合わせて、建物の中に入った。

 ……いや、まったく俺自身、不思議なんだ。

 クラウドと出逢ってから、まだ半年という時間さえ経っていない。せいぜい数ヶ月だ。

 それなのに、なんだかずっと一緒に生活してきたような、不思議な感覚に陥ることがある。

 正直、俺がガキの頃に生活していたゴンガガの村なんざ、ニブルヘイムを上回るほどの田舎の寒村だったせいか、周りにいるのはゴボウのように真っ黒なガキ大将ばかりで、女の子でさえ、クラウドみたいに容姿の整った子はいなかった。第一、あのあたりは、黒髪の人間が多いから、ちょっと血統的にもクラウドのあたりとは違うんだろうなと感じる。

 入社式を終えたクラウドが、それこそチョコボの雛よろしく、ちょこんと部屋に鎮座していた様は今でも忘れられない。

『金髪チョコボが部屋にやってきた!』

 というのが俺の脳裏をかすめた、初対面のキャッチフレーズだった。

 いや、もちろん、本人にはいえないが。

 最初はひどく緊張した様子で、人慣れしなかったが、一度なじむと、本当の家族以上の付き合いになってしまうみたいだ。

 ぺったりくっついてくることに衒いがないし、困ったことや悩みなどはすぐに相談してくる。

 クラウドくらいの年齢の男だと、必死にプライドを守ろうとするものだが、そういう雰囲気はまるでないのだ。

 もちろん、俺が彼よりも年上で、ルームメイトだからというのも理由だろうが。

 セフィロスには悪いんだが、もし……もし、万一、セフィロスとクラウドが、今以上に親しくなってしまって、俺のポジションまで、セフィロスのものになるのは、なんだか納得がいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 雰囲気の良いイタリアンレストランに腰を落ち着ける俺たち。

 もっとひどく混雑しているかと思ったが、もっぱら人々は外の屋台で食べるようだ。

 おかげでゆっくり食事ができる。

 パラパラと席は埋まっているが、十分余裕がある。

 クラウドが小走りに、窓際の席をゲットしたので、俺もそこに向かった。

 

「ね、ザックス。けっこう空いてるね? 中で食べることにして正解だったのかもよ」

「そうだな。まぁ、時間はたっぷりある。のんびり食っていこうや」

 ふぁ〜と大きくあくびをひねりだし、テーブルにメニューを広げた。

 オーダーを取りに来た可愛いウェイトレスに、パスタのセットメニューを注文し、一段落ついたというところだ。

 きっと俺は、そんな面持ちをしていたのだろう。つんと唇を尖らせたクラウドに、

「……ちょっと、ザックス。まだ泳いでもないんだし、公園の散歩もしてないんだよ? 一仕事終えたみたいな顔してないでよ」

 と、注意されてしまった。

「あー、ハハハハ、悪い悪い。どうもここんとこ忙しかった……っつーか、いろいろあってな」

 セフィロスのこととかな。

 とは、もちろん口に出して言わない。

「そっか…… そうだよね、ザックス、ソルジャーだもんね。つい、おれ、兄さんみたく思って甘えちゃって」

「オイオイ、何言い出すんだよ。おまえとこうして出かけるのは、俺にとっちゃ、ものすごくいい気分転換になるんだ。また明日から頑張ろうってな」

 兄さん……って、ああ、いかん!頬が緩む……

「ホント、ザックス?」

「ああ、もちろんだ!」

 すでにやってきたパスタ定食をパクつきながら、俺はそう返事をした。

「へへへ、うれし〜。おれ、一人っ子だったから。兄さん、欲しかったんだ。ハイ、ザックス!」

 クラウドは、野菜サラダのセロリをフォークに刺して、俺に突きつけてきた。

 誉めてくれたご褒美って風情だが、彼は苦みのある野菜が苦手なのだ。

「はい、あーん」

「ムグムグ、美味い。おい、クラウド、苦みのある野菜だって、新鮮なヤツは美味いんだぞ」

「えー、だって、セロリは筋があるもん」

「食物繊維っていうんだ、それは」

 こんな言い合いをして笑い合う。

 気の置ける付き合いが楽しくてならない。普通の先輩後輩よりも、ちょっと親密で……想いのある会話。

 セフィロスにはすまないが、俺はこの時間を彼に譲りたくはないのだ。