〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<30>
 セフィロス
 

 

 

 

 ……言うしかない。

 これ以上に絶好のシチュエーションなど、そうあるものではない。

 包帯男になっている状態なのは不満だが、周りの連中が過敏になっている今、クラウドとふたりで会える機会も設けにくくなるだろう。テロリスト対策はオレたちソルジャークラス1stも参賀することになる。長期の遠征が入るかもしれない。

 いいや、理屈を並べるな!

 オレは最強の男だ。

 たかが告白くらいで、ビビッてたまるか!

 

(『ビビッてたまるか』って考えている時点で、もう十分緊張しているのだと思うよ。)

 どこからか、ジェネシスの声が聞こえてきたような錯覚に囚われ、オレは軽く頭を振った。

「セフィロスさん? 頭痛いですか? 熱で発熱してるのかな…… タオル濡らしてきましょうか!」

 ぴょこんとすぐさま立ち上がるクラウドだ。せっかく、椅子に落ち着かせたのに、いったいオレは何をやっているんだ。

「……違う。熱はない」

「セフィロスさん……?」

「おまえに話したいことがある。……こういった経験は初めてで、正直とまどっている」

 クラウドが不思議そうにこちらを覗き込んでいるのがわかる。だが上手く目線を合わせられない。

「はい、なんでしょうか?」

 と、気遣って先を促してくれる。

 言わなければ、いつまでも、オレたちの関係はこのままだ。

 ソルジャークラス1stのオレと、修習生のクラウド。

 まともな接点をもつことさえ難しい。

 いや、クラウドだとて、健康な男子。オレがモタモタしている間に、巨乳女に盗られるかもしれないし、修習生仲間だって危険な存在だ。

「セフィロスさん……?」

 オレさまは、英雄と呼ばれる男だ。

 この程度クリアできなくてどうする!

「クラウド、その…… いや、ハッキリ言おう。おまえは驚くかもしれないが……」

 そう前置きし、オレはいよいよ覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……好きだ、クラウド」

 オレは言った。

 ここ数ヶ月、ずっと言いたくてたまらなかった言葉を。

 単純な単語だが、「好き」と口にした瞬間、心臓がバクバクと跳ね上がり、激しく鼓動した。

「え?」

「好き……なんだ、おまえのことが」

 どこぞで斜め読みした純文学のような告白の仕方だ。

 オレとしたことが……だが、やはり玄人とこの子相手では、勝手が違いすぎる。

「あ、は、はい。おれもセフィロスさんのこと好きです。尊敬しています」

 たどたどしくクラウドが応えてくれた。

 だが、この子は「好き」の意味を理解していない。オレの言葉の真意をわかっていないのだ。

 ここまでは予想の範疇だ。ジェネシスにも指摘されたことである。

「……違うんだ、クラウド」

 

 さぁ、勝負はここからだ。

「おまえは男の子だからな。……おかしいと思うかも知れないが」

 ずくずくと傷口が疼く。緊張のせいで血圧があがり、負傷した部分が熱を持ったのだ。

「オレが言っているのは、特別な意味での『好き』だ。こんな気持ちは他のだれにも感じたことがない……恋愛感情だ」

 ああ、口の中がカラカラだ。唾液を嚥下する音が、妙にリアルに耳奧に響いた。

 

「え…………?」

 クラウドが大きな瞳をさらに大きく見開き、オレを見つめる。いや、じろじろと見るのではなく、驚愕のあまり、目線を反らせなくなったという風情だ。

「え…… あ、あの……」

「オレはクラウドのことが好きだ。……愛している……のだと思う」

「え、ええッ?」

 白い頬に、カッと血の色を昇らせ、クラウドは目に見えて狼狽した。

 予想していたとはいえ、彼のありさまにオレもつられて動揺する。

「クラウド……好きだ。おまえはオレにとって特別なんだ」

「あ、あの……お、おれ……」

「困るか? 迷惑か?」

 『やめろ!』と、もうひとりの自分が胸の中で叫んでいる。

「い、いえ……でも……あの……」

「クラウド……!」

 『よせ!』と、ほとんど悲鳴じみた声が響く。だが、現実世界のオレは止まらない。

 ずっと押しとどめていた気持ちが、堰を破り、怒濤のように流れ出てきた。

「セ、セフィロスさん……」

「クラウド…… オレは……」

 逃げ腰になった細い手を、咄嗟に掴んでしまった。

 ハッシと握りしめた腕は本当に細くて……この子はまだ十五にもならない子供なのだと、今さらにして気づく。

「す、すみません! お、おれ、失礼しますッ!」

 クラウドは慌てたように、オレの手をふりほどき、ペこっと勢いよく頭を下げると、病室から飛び出していった。

 一陣の風が去っていった後の病室は、ただ、だだっ広いだけの色あせた砂漠のように感じられた。