〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<3>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「もう、ザックス! どういうつもりなの!? まるで逃げるみたいに部屋に戻っちゃって!!」

「あーうー、まぁ、アレだ」

「アレって何さ。セフィロスさん、気を悪くしたよ!?」

「いや、あのな、クラウド。……まぁそこに座れ」

 意を決してクラウドを座らせた。狭いふたり部屋なので、俺の腰掛けたベッドのとなりに。

「もう、なんだっていうの? セフィロスさんはザックスにとっても、ソルジャーの先輩になるんでしょ? どうしてあんな……」

 憤懣やるかたなさげなクラウドを、まぁまぁと宥め話を聞かせる体勢にもってゆく。

 ……そう。

 セフィロスの『本気』を知ったのは、すでに一ヶ月も前のことであったが、その話を彼に伝えたことはなかった。

 ……いや、身辺に注意を促すべきかと考えはしたのだが、どうしても口火を切ることはできなかったのだ。その理由は、クラウド自身が、本当にセフィロスに感謝し、純粋な尊敬の念を抱いていること……なのだ。

 

 だって、考えても見て欲しい。

 クラウドは、幼い頃からソルジャーに憧れ、その象徴のセフィロスに、強い憧憬の念を抱き、古びた写真や雑誌の切り抜きをお守りのようにしてきた子なのだ。

 そして14になる年を待って、満願のもとこの神羅カンパニーに入社してきた。

 入社式を終えたばかりの彼に、セフィロスの本性を告げることは、黙っていることよりも残酷なのではないだろうか。

 あの神羅の英雄が、実は根っからの遊び人で、あろうことか今度は新入社員のクラウドにまで食指を伸ばすサイテー野郎だと告げるのは、あまり酷ではなかろうか。

 俺がクラウドの立場だったら、かなりショックを受けると思うのだ。

 せめてもう少し時間をおいてから……本当ならクラウドがソルジャーになってからのほうがよかろうが、さすがにそこまで引き延ばしにはできない。襲われたら一巻の終わりなのだから。

 そう、せめてカンパニーに慣れるのを待ち、生活に余裕ができてから、それとなく忠告してやりたい。そう思っていたのに…… 

 あのエロ英雄が、僅か二十日あまりで、ここまであからさまな行動に出てくるのは誤算だったのだ。もはや率直に身辺の注意を訴えざるを得ない状況と見た。

「ちょっと聞いてる?ザックス! ゴハンだって食べかけだったのに〜!」

「……あのな、クラウド。気をしっかり持って聞いてくれ」

 厳かに俺は切り出した。だがお子様クラは晩ご飯のことがずっと気になるらしかった。

「なんだっていうのさ、変なザックス。デザートのプリン食べ損ねちゃったし! もぉ〜!」

「いや、クラウド。プリンどころの話じゃねェ。いいか、ちゃんと聞けよ。大事なことなんだ」

 俺よりずっと小さな両肩に手を掛け、噛んで含めるように語った。

 ぷくっと頬を膨らませた不満そうな顔つきだが、なるほどセフィロスの言うようにとても可愛い。野郎に興味のない俺がそう感じるくらいなのだから、ヤツが興味を示すのはまったくおかしくない。

 そして、そう感じられれば感じるほど、セフィロスの毒牙にかかるのが、本当に冗談事ではないと思い知らされるのであった。

 やはりここはクラウドにちゃんと説明しなければ。

 セフィロスが口にした言葉……そして、それを裏付けるかのような様々な行動。クラウド自身、無意識に危険にさらされている現状……それらのすべてを、だ。

 

 

 

 

「やあッだ〜!! ザックスってばァ〜!! あっははははは!!」

「おい、ちょっ……?」

 クラウドは腹を抱えるような格好で身を折った。笑いすぎて脇腹が痛くなったらしい。

「あ〜 おっかしい! あっははは!」

「いや、ちょっと待て! 本当なんだってば!!」

「嫌だなぁ、ザックス。そんなことあるはずないじゃない。おれ、男の子なんだよ?」

 さすが、田舎ッ子!!

 まず、この時点で現状認識はゼロに近いと確信した。

「セフィロスさんはすごく素敵な人だけど、全然おれなんて釣り合わないし、女の子じゃないんだし」

「クラウド、お兄さんの話を良く聞きなさい。いいか?世の中にはな。女でも男でもモンスターでもいいっつー節操なしも生息しているんだ」

「え〜ッ、まぁ、確かに同性のほうがいいって人もいるみたいだけど、セフィロスさんってそういう人なの?」

「あの呪われた性欲魔神にはな、男も女も関係ねェんだ。『やりたい』と思ったら、ソッコーで穴だらけにする、世にも恐ろしい……」

 両手を前に垂らし、ヒュ〜ドロドロ……とまるで化け物のように語ってやった。クラウドは少しびっくりしたような面持ちになった。

「ちょっ、ちょっと、ザックス。まるでオバケじゃない。そんな言い方、彼に失礼だよ」

「俺はおまえのことを思って真実を告げているんだぞ! だいたいおまえは世の中ってモンを知らなすぎるんだ。ド田舎から出てきたばかりだから仕方ないとは思うが……」

 なかなか要領を得ない説得に疲れ、ついイライラと禁句を口にしてしまう。

 当然、クラウドが怒れるチョコボの如く、ピンと尾っぽを立てて怒鳴り返してきた。

「な、なんだよ、ザックスだって田舎モンでしょ!? ゴンガガでしょ!? どうせ、おれはガキだよ! ザックスみたくソルジャーじゃないしね!」

「お、おい、クラウド!」

「もうザックスなんか知らない! おれ、お風呂入りに行ってくる!」

「いかーん!」

 俺はクラウドの腰にタックルを仕掛けた。ドオッとふたりで倒れ込み、クラウドは悲鳴を上げた。

 ついさっき食堂で徘徊している英雄にあったばかりなのだ。ヤツが大浴場を張っていたとしてもおかしくはなかった。

「きゃッ! なにすんの、ザックス! 放してよ!」

「わかったわかった! 俺が悪かったから……」

「どいてってば! 別に怒ってないよ、お風呂入ってくるだけなんだから」

「なら俺も一緒に行く!」

「んも〜。何だっていうのさ。セフィロスさんが風呂場に乱入してくるとでも?」

 バカバカしいと言わんばかりの口調で吐き捨てるクラウド。

『うん、そう思ってる』

 と答えたかったところだが、これ以上クラウドの機嫌を損ねるわけにはいかない。

「いや、まぁ……アレだ」

「わかったよ。待ってるから早くしてよ」

「あー、ハイハイ」

「もう、変なザックス。セフィロスさんがおれみたいなのにかまうはずないじゃない」

 そういってそっぽを向いたクラウドは、ほんの少しだけ寂しげに見えたのであった……