〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<4>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「ウース、ザックス。今日は本社か」

「おう。ここんとこ大きなミッションが来ないな」

「オッス、ザックス。そういやアンジールさんが捜してたぜ」

「マジ? サンキュ。カムラン」

 いつものような気軽なやり取りをして、ソルジャー・ミーティングルームに向かう。クラウドのことは気になるが、そうとばかりも言っていられない。

 トップソルジャーにはつまらない任務は回らないから、結局一番働かされるのは俺たち2ndと3rdなのだ。

「ウッス、アンジール。遅くなってゴメン」

「ああ、ザックス、来たか。座ってくれ」

 今日も我らがアンジールはくそ真面目だ。任務の詳細はミッドガル湾岸部の警戒ラインについてだった。昨今、何故かミディールあたりにしか出没しなかったシーウォームの被害が頻発していたのだ。

 

「……というわけだ。状況によっては夏前に掃討部隊を結成して一掃しなければならん」

 しかめつらしく渋面を作って、アンジールが言った。

「あー、なるほどね。あの辺のビーチは解放されるもんなァ」

 俺は頷いた。

 ミッドガルのプレート下はスラム街だし、カンパニーの在る「上」も、決して自然豊かな場所ではない。だが、開けた海は誰に対しても平等に美しく、夏になると一般公開されるのだ。皆、一様にその時を楽しみにしている。

 

「とりあえず今日は状況を見てきてくれ。編成を組む参考にしたい」

「わかった。じゃ、3rdの連中と行ってくる」

 早速踵を返そうとした俺に、アンジールの声が追いかけてきた。

「よろしく頼む。実際に駆除作業をするときは、修習生も部隊に組み込むつもりだ。実戦を見るにはいい機会だからな」

「……危険じゃないのか?」

 つい、クラウドの顔を思い浮かべ、そんな言葉が口に付く。

「もちろん、修習生をメインにするわけじゃないさ、ザックス。ソルジャーの2nd、3rdを中心に部隊を組み、救護や補給などの後方支援として修習生を使おうと思っている」

「ああ、まぁそういうことなら……いい経験になるかもしれないしな」

 やれやれ、セフィロスではないが、俺もずいぶんと過保護になっているのかもしれない……そんな自分に苦笑していたところだ。

 ドアの向こうから、

「異議あり!!」

 という、どこぞの裁判ゲームのような異議が申し立てられた。

「うおッ! なんだよ、ビックリさせんな、セフィロス」

「おう、セフィロスか、めずらしく早いな」

「異議ありだ、アンジール!」

 俺たちの言葉を軽く無視し、あくまでも異議を唱える英雄。

「セフィロスは声が大きいなぁ」

 などといいながら、変態ポエマーもとい、ジェネシスも一緒であった。

「なんだ、何の話だ、セフィロス」

 アンジールがレジュメを捲りながら尋ねる。おそらく1stには別件で統括部から司令が下りているのだろう。

 

「あ、じゃあ、俺、行くわ。さいなら」

 さっと手を上げ、面倒事にならないうちにと踵を返した。だが、力強く偉そうな声が背後から飛んできた。

「待て、ザックス!」

「……なんだよ、もう行かねーと」

「……まさか、貴様、今の話に賛同したわけではあるまいな!!」

 真剣ミッションでは聞いたこともないような厳しい声で咎め立てるセフィロス。いったい何だっつーんだ?

「は? 何の話だよ。俺忙しいんだけど」

「バカ者! 湾岸封鎖の件だッ」

「ああ、シーウォームの話だろ。とりあえず今日、様子見てくるし」

「違うだろッ! オレが言っているのは掃討部隊にクラ……もとい修習生を入れるという話だッ!」

 更年期のヒステリーのごとく、地団駄踏むようなイキオイでセフィロスが怒鳴った。

 ……おまけに『クラ……』とか言いかけてるし、何なんだよ、この人は。

「だからまだ決まった事じゃないだろ。様子を見て実際に駆除作業に入るとき、人選すればいんだから」

「悠長な発言をするな! 貴様、同室の人間としてあるまじき無関心さだぞ!!」

「……あの、何の話だ? セフィロス」

 と、キツネにつままれたような面持ちでアンジールが訊ねてきた。同席している人事のラザードも面妖な表情をしている。

 ……無理もない。セフィロスの発言を理解できないのは当然だ。

 だが、後ろで薄ら笑いを浮かべているジェネシスはわかっているのだろう。……わがまま英雄以上に、夢見るポエマーは苦手だ。

 

「ああー、いいのいいの、この人ちょっとアレだからさ、アンジール。じゃ、俺、仕事行ってきま〜す」

「あ、おい、待て、ザックス!」

「はいはい、このうるさい英雄、頼みますね、コレ」

 しつこくも後を追ってこようとするセフィロスを、部屋に残った1stどもに任せ、俺は、大股でミーティングルームを離れた。

 ったく、どこまでも面倒掛けてくれるヤツだ……クラウド。

 いや、クラウド本人が悪いわけじゃないと思うのだが。それくらいこちらだってわかっている。

 だが俺の心配を棚に上げ、あいつののほほんとした気楽さ、あどけなさに苛立ちを感じてしまうのだ。

 イカンイカン。

 ンなこと言っちゃ、クラウドが可哀想だ。

 あの子は、毎日、ソルジャーになるため、一生懸命がんばっているのだから。

 

 

 

 

 

 

「うわ、あっちい。なんか日差しが強いな」

 同僚のカムランが、車窓から頭を出してつぶやいた。

「ああ、なんだかこのところ気候がおかしいぜ……」

 本社ビルから車を出し、湾岸沿いを添うように飛ばしていく。

「おい、ザックス、あれ……」

 同僚の指さす方を見ると、海に赤味がかかっているスポットがある。真っ赤なわけではない。ほんのりと薄紅色というか、その部分だけ淡く錆び付いたような色合いなのだ。

「ちょっと止めろ」

 部下の兵士に命じ、一時停車をする。

 念のために用意してきたカメラで、その海域をフィルムに落とした。

「なぁ、ザックス、これ……」

 カムランが低く語りかけてくる。

 俺は黙ったまま頷いた。

 ……まずいな。やはりアンジールの予測は当たっている。

 赤潮はシーウォーム繁殖の兆候だ。南海にはよくこの現象が見られる。あの化け物は水温の高い海域にしかいないのだが、ここミッドガルのここ最近の異常気象のせいだろうか。春先なのに、汗ばむ陽気であったり、秋口に急激に気温が下がったり。

 そういった様々な要因が、海の生態系にも影響を及ぼしているのかもしれない。

「ザックス。あそこだ。視覚できるか?」

「どこだ? おい、望遠レンズを……」

「向こうだ、俺の指の先を見てくれ。尖った岩場の右手側……」

 カムランに指し示された方角をサーチスコープで確認する。

 おかしな具合に海岸沿いが盛り上がっている。そしてそこにも赤く変色した海水が澱んでいた。

「シーウォームの巣か……? 蠢いているのは連中だろうか?」

「ああ。あのあたりなら人も行かないだろうし、大丈夫だと思うが」

「バカ言え。デカイのだと大型船の船底に穴を空けるヤツもいるんだぞ」

 そう答えて置いて、後方の兵士たちに伝達した。

「目標地点に対象物確認。全員防具及び武器を確認し、湾岸の予定地点へ配置せよ」

 ……面倒なことになりそうだぜ。

 俺はやれやれと吐息した。