〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<5>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「しーうぉーむ? ってどんなの?」

 キョトンとした顔つきのまま、興味津々で訊ねてくるクラウド。

 あの後、俺は必要な調査を済ませ、早速報告書をまとめてアンジールに渡してきた。幸いセフィロスはいなかったから手間取ることはなかったが、報告内容は楽観視できない状況だ。

 アンジールも予測していたことなのだろう。

 ラザードと話してくる、と言い置き、早速統括部へ向かった。

 とりあえず、命令が下りるまで、俺は待機状態だ。時間も早、晩飯時だったし、早々に寮へ戻ってきたのだった。

 そして冒頭の、クラウドの質問へと繋がる。

「ああ、そうだな、海の蛭っつーか、ヤツメみたいな身体をしているな。でかさがハンパじゃねーんだ。人ひとりくらい簡単に食っちまうヤツもいるぜ」

「そ、そうなの。蛭かァ……なんだか気味悪そう……」

「まぁ、見てて気持ちのいいモンスターじゃねぇな。体皮はブヨブヨだし、目が退化しているから、クソでかい口ばっか目立つしな」

「うわァ」

 クラウドが眉を顰め、ひどく嫌そうな面もちで胸元を押さえた。

「歯が鋸状にギザギザなんだ。アイツに噛みつかれたら、あっという間にかみ砕かれるだろうよ」

「で、でも、目がないんでしょ? どうやって人間を見つけるの?」

「連中は嗅覚で対象物を見つけだすんだよ。匂いで捜しだして捕獲する。海の中でもそうやって餌を取っているからな」

「そ、そっか……確かに深海にいる魚は目がなかったりするもんね…… 俺、休み時間に図書館で見てみるよ。図鑑があると思うから」

「見て楽しいモンじゃねーぞ」

「だ、だって、もしかしたら、研修生も後方支援の実習で現地に行くかもしれないんでしょう?」

「え……あ、ああ、まぁな。そんなことを言っていたが……」

「もちろん、実際にそうなるかはわかんないけど、いろいろ知って置いたほうがいいよね。ザックスみたいなソルジャーに指令が下されるんだから、簡単な任務じゃないだろうし」

「そうだなァ、敵は海の中だからよ。陸生のモンスターと違って、いろいろ厄介な面はあるよな」

「う、うん……ザックス、気を付けてね」

 神妙な面もちで彼はつぶやいた。こんなときのクラウドは本当に可愛らしく見える。ああ、もちろん、セフィロスが言うような変な意味ではないけど。

 ……確かに、男も恋愛対象になるようなヤツから見たら、クラウドなんてもってこいの相手なんだろうなァ。

 気が強くてワガママなところはあるけど、純朴で素直な資質ゆえ、それらが嫌みにならない。もちろん顔立ちはご存じのようにとても整っている。

 まだ幼いせいか、『美青年』というより『美少年』といった印象が強いが。

 少女のような桜色の肌、ツンと筋の通った鼻梁、ふっくらとした……だが決して厚くはない唇に、チョコボの尾を模したハニーブロンド。

「なぁに?何見てるの、ザックス」

「いや、別に。さ、メシ食いにいこうぜ、クラウド。さすがに腹減った」

 そういって立ち上がると、クラウドは待ってました!とばかりに後に付いてきた。

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、セフィロス。そんなに熱くならないでくれたまえ」

「『くれたまえ』じゃねぇッ! 貴様こそ、安易に賛同するなッ!!」

 メシを終えてから、統括室に足を運んだ俺が耳にしたのは、英雄の怒鳴り声であった。

                                                              

 ……なんだよ、まだやってんのかよ、オッサンたち……

 暇なヤツらめ。

 ……まぁ、おかげで今日は飯タイムと風呂タイムを、セフィロスに邪魔されることはなかったが。

 

「ウィース。アンジール、ラザード。さっきのレポートの件だけど……」

 俺は、あくまでもアンジールと統括に話があるのだという態度で部屋に入っていった。セフィロスの眼前は華麗にスルーだ。だが、頭に血が上った英雄はグワシッとばかりに俺の襟元を締め上げやがった。

「ザックス! この野郎!!」

「うおッ! なんだよ、アンタは。まださっきの話にこだわってんの?」

 辟易した口調でそう言ってやると、ヤツはまさしく怒れる獅子のごとく咆哮した。

「聞きやがれ、ザックス!! このボケナスどもは本気で修習生を海に引っ張り込もうとしてるんだぞ!! それもこれも、貴様がガッツリと反対意見を唱えないから……」

「いやいや、まぁまぁ、セフィロス。そう怒鳴らないでくれたまえ」

 ラザードがいつもの穏やかな声で英雄を止める。

 この人も大したヤツだと思う。激昂するセフィロスを相手に、努めて冷静に丁寧に、押しとどめていられるのだから。

「何も修習生を前線に立たせようというわけではない。彼らには後方支援を頼みたいだけだ」

「だが……ッ」

「君も知ってのとおり、実際人手不足なんだ。ウータイのゲリラ鎮圧やアバランチの活動も目立ってきている。魔晄炉の管理やマテリア採掘にも人員を配置せねばならないしな」

 そう……ゲリラだのアバランチ相手に、兵士やソルジャーの人員を割くのは当然のことだ。一見危険性の低く見える魔晄炉やマテリア採掘であるが、あいにくそれらの施設があるのは、大抵大陸の奥深い地域であり、未確認のモンスターが出没する危険性が高い。

 実際、ソルジャーや研究員が死亡したという痛ましい事件も起きている。それゆえ、兵士部門は毎年人員不足なのだ。……あれだけの新入社員を採用してさえも。

「人員不足は毎年部門会議で訴えているのだがね」

 ふぅと大きく吐息し、ラザードは言葉を続けた。

「それ故、ミッドガル周辺の治安維持には、積極的に修習生を配備しようと考えているのだよ。そう、実習を兼ねてね」

「だからッ! オレが言っているのは……」

 ふたたび声を荒げるセフィロスを、ラザードが説き伏せた。

「まぁまぁ、ソルジャーのトップに君臨する君が、まだ未熟な修習生らに懸念を抱くのは至極最もだと思うよ。だから、あくまでも彼らは後方支援だ」

「後方支援とはいっても、危険がないとは言えないだろ」

「いやいや、だから今回の場合には、シーウォームの捕獲には関わらせないよ。例えば……そうだな。仮に、君がこの任務に赴いたとする。敵は海の魔物だ。退治するとなれば水浸しになるだろう。……そんなとき、後方支援部隊の少年がタオルを持って、君に駆け寄るわけだ。『お疲れさまでした、セフィロスさん』とな」

 いやいやいやいや!!

 何なの、ラザード!! っつーか、この人って、こういうキャラだったのッ!?

 クソ単純な英雄は、そのシーンの『修習生』をどなたかに置き換えているらしく、一挙に大人しくなった。……人は妄想に浸ると無言になるのだ。

「戦闘に赴くソルジャーの疲れを癒し、身の回りの世話をすることだって立派な後方支援だ。もちろん、怪我人がでれば、彼らに手当を任せることになるだろう。……私のプランはそんなところだ」

「……ふむ、理解した」

 えええ〜ッ!?

 あの……理解しちゃったの!? あんだけギャーギャー騒いでいたくせに、恥ずかしげもなく、もう手の平を返すわけ? クラウドにタオルを持ってきてもらうつもり満々なわけ!?

「わかってもらえて助かるよ。……君は案外後進に気を配る男だったのだな」

「……当然だ」

「そうだな。それでこそ、ソルジャー・クラス1stだ」

 満足そうに頷くラザード統括。

 クッソ〜、このキツネめ〜。なんつー狡賢さ、頭の回転の速さ!! まぁ、こんくらいじゃなきゃ、難物揃いのソルジャー部門の人事なんざ受け持ちできないのかも知れないが。

 

「ああ、ザックス。すまなかったね」

 セフィロスとの話は終わりというのだろう。彼は俺に向き直ってレポートを差し出した。

「……君が見てきたところ、かなり状況は切迫しているようだね」

「ああ、視覚できるレベルだったからな。一日も早く部隊を組んでくれ」

 俺はそう意見した。

 ミッドガル周辺に漁港はないが、少し下れば港町が連なっている。ここで食っている魚もそこの漁港からの水揚げだ。人々の生活に直結する産業には、十二分に配慮すべきである。

「写真を確認すると『赤潮』も出ているな。異常気象のせいで、一時的に姿を現しているだけならいいのだが」

 アンジールが添付したフォトを片手に話に入ってきた。

 セフィロスはなにやらブツブツと考えている。……っとに、なんでこの男が『英雄』なんだろう。すげー強いのは認めるが。

「そうだな。だが、いずれにせよ、今の状況を打開しないとな。実際に漁民の生活に影響が出てからじゃ遅いぜ、アンジール」

 英雄は無視して、アンジールに声を掛ける。

「ああ、おまえのいうとおりだ。ミッドガル周辺に居る間に駆除作業をしよう、ラザード、具体的な方針を教えておいてくれ。可能なら今週中になんとかしたい」

「そうだな。下手に被害が出るとまた我が社のせいにされかねんしな。……わかった。後日、実行部隊のソルジャーも選定しよう。……ザックス」

 言葉の最後に、ラザードは俺に向かって声を掛けてきた。

「君には作戦に参加してもらうつもりだ。そのつもりでいてくれたまえ」

「了解。……じゃ、寮に戻るから。具体的に決まったら連絡してくれ」

「ああ、よろしく頼むよ」

 くいと銀縁眼鏡を押し上げ、ラザードが頷いた。

 

 ……やれやれ、シーウォーム駆除とは、面倒な仕事になりそうだ。

 なんせ、もともとミッドガル周辺に出没するモンスターじゃないから、戦闘の経験者はほとんどいない。かく言う俺も、まだ見習い兵だった時分、南の島にミッションで赴いたとき、遠目で見ただけだ。

 もちろん、シフトを組むラザードは、んなこたぁ100も承知だろうから、俺たちは忠実に迅速に作戦を遂行するだけだ。

 

 ふあ〜あ……なんだか疲れたぜ……

 

 俺は両肩に重くのしかかる疲労をアホ英雄のせいにして、さっさと部屋へ戻ったのであった。